子役出身の俳優は大成できない、と言われる。よく引き合いに出されるのが、シャーリー・テンプルである。彼女は1930、40年代に少女スターとして「テンプルちゃんの小公女」（39年、ウォルター・ラング監督）など数々の作品に出演し、興行的にも大成功を収めたものの、大人の女優として大成することはなかった。

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しかし実は、子役出身で後に大人の大スターになった例はいくつもある。

典型的な例は、美人女優、エリザベス・テイラーである。名犬ラッシーものの「家路」（43年、フレッド・M・ウィルコックス監督）などで子役として活躍したテイラーは、順調に美少女、美女スターとして成長、60年代には「バターフィールド8」（60年、ダニエル・マン監督）と「バージニア・ウルフなんかこわくない」（66年、マイク・ニコルズ監督）でアカデミー主演女優賞を2度獲得し、名女優の仲間入りした。

ナタリー・ウッドも子役から大人の女優として成功、60年代前半には大ヒット作「ウエスト・サイド物語」（61年、ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス共同監督）や名作「草原の輝き」（同年、エリア・カザン監督）などでハリウッドを代表するスターとなった。

子役時代から多くの問題作に出演していたジョディ・フォスターは、レイプ犯と果敢に戦う女性役の「告発の行方」（88年、ジョナサン・カプラン監督）と、連続殺人鬼を追うFBI捜査官を演じた「羊たちの沈黙」（91年、ジョナサン・デミ監督）で2つのアカデミー主演女優賞を得て、弱冠20代にして「名女優クラブ」入りした。オスカーを得た2作はいずれも、現代米国の病理を描いた力作だ。現在でも女優として活躍するかたわら、監督、プロデューサーも務めるなど、米映画界の実力者でもある。

「レオン」（94年、リュック・ベンソン監督）で、心優しいプロの殺し屋の助けを借りて、皆殺しされた家族の仇を討つけな気な少女を演じたナタリー・ポートマンも、大女優に成長した。「スター・ウォーズ」シリーズのアミダラ女王役などで順調にキャリアを重ね、「ブラック・スワン」（2010年、ダーレン・アロノフスキー監督）で、精神的に追い詰められていくバレリーナを演じて、アカデミー主演女優賞を獲得したのである。

「ブラック・スワン」で「悪の黒鳥」としてポートマンを追い詰める役で助演女優賞候補になったミラ・クニスも、子役出身だ。「スター・ウォーズ」シリーズで女王の影武者に扮し、その後、本格女優として成功したキーラ・ナイトレイも子役出身である。

「ブーリン家の姉妹」（08年、ジャスティン・チャドウィック監督）でポートマンと競演したスカーレット・ヨハンソンも、子役出身で大人の女優として成功した。アカデミー賞戦線ではポートマンに後れを取っているものの、いくつかの映画賞での受賞、ノミネートの実績はある。米誌から2度にわたって「世界で最もセクシーな女性」の称号も得ており、日本では「スカヨハ」と、大スターの証明である略称で呼ばれるほどだ。

子役出身で成功した男優を1人挙げるなら、「レオ様」ことレオナルド・ディカプリオだろう。

日本人女優も1人挙げておこう。高峰秀子である。子役として活躍した後、長じてからは数々の名作、傑作で大人の女を演じた。代表作を1つ選ぶとすれば、女の悲しい性（さが）と業（ごう）を描いた「浮雲」（1953年、成瀬己喜男監督）だ。

川北隆雄（かわきた・たかお）

1948年大阪市に生まれる。東京大学法学部卒業後、中日新聞社入社。同東京本社（東京新聞）経済部記者、同デスク、編集委員、論説委員などを歴任。現在ジャーナリスト、専修大学非常勤講師。著書に『失敗の経済政策史』『財界の正体』『通産省』『大蔵省』（以上講談社現代新書）、『日本国はいくら借金できるのか』（文春新書）、『経済論戦』『日本銀行』（以上岩波新書）、『図解でカンタン！日本経済100のキーワード』（講談社＋α文庫）、『「財務省」で何が変わるか』(講談社＋α新書)、『国売りたまふことなかれ』（新潮社）、『官僚たちの縄張り』（新潮選書）など。