Record China 2014年11月8日(土) 16時18分
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月刊「文藝春秋」2010年11月号の特集「永遠の小悪魔女優ベスト10」では、1位が加賀まりこ、2位がブリジット・バルドー、以下、若尾文子、マリリン・モンローらが順当に続く。この中で、意外な女優が1人混じっている。パトリシア・ゴッジである。
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月刊「文藝春秋」2010年11月号の特集「永遠の小悪魔女優ベスト10」では、1位が加賀まりこ、2位がブリジット・バルドー、以下、若尾文子、マリリン・モンローらが順当に続く。その中でベスト10圏外とはいえ、一見意外な女優が1人混じっている。パトリシア・ゴッジである。スタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫が選んだのだ。
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多くの映画ファンには意外だったと思う。ゴッジは、汚れない少女と純真な青年の純愛を描いたとされる「シベールの日曜日」(1962年、セルジュ・ブールギニョン監督)の主役を演じた、本当に愛らしい少女スターだったからだ。しかし、愛らしい子供だからといって、小悪魔ではないということにはならない。小悪魔とは、一見愛らしく、「しかして、その実態は……」という女、または少女なのだ。では、ゴッジの、あるいはシベールのどこが小悪魔的なのか。
シベールは父親に修道院の寄宿舎に入れられる。捨てられたようなものだ。一方、ハーディ・クリューガー扮するピエールは、インドシナ戦争の過酷な体験で心を病んでいる。偶然、男と知り合ったシベールは、毎日曜日に男が訪ねて来てくれるのを楽しみにするようになる。宣伝惹句風には、2人とも孤独な魂を抱え、互いに求め合ったわけである。映像も抒情的で美しい。
ただ外形的には、不自然なカップルである。変質者の若い男が、可愛い少女を連れ回しているようにしか見えない。一見シベールに、実は男にとって極めて危険な状況だった。その危惧通り、男は警察に射殺される。ここで観客の、特に女性ファンの紅涙を絞ったわけである。しかし、その悲劇をもたらしたのは、ほかならぬシベールなのだ。
彼女は男に訪ねて来てもらうために、あの手この手の甘言で釣る。「私がお母さんの代わりになってあげる」「私が18になったら、あなたはまだ37だから、結婚しましょう」などなど。シベールは、家族が誰も面会に来てくれなくて寂しいので、必死なのだろう。だから、いじらしいともいえるが、客をつなぎ止めるための、キャバクラ嬢の営業トークのようにも聞こえる。ピエールはこのトークに乗せられ、命を失う羽目になったのだ。鈴木は「十歳といってもオンナ」と名コメントしている。
小悪魔、ファム・ファタールあるいは悪女とは、決して意識的に男を破滅させようとするわけではない。自分の欲望に忠実に行動して、結果的に相手を破滅させるのだ。
ところでゴッジはこの後、メジャー作品としては、やはり少女の、今度はかなり背伸びした愛を描いた「かもめの城」(65年、ジョン・ギラーミン監督)に主演したくらいで、大人の女優としては大成しなかった。一方、クリューガーは脱出ものの異色大作「飛べ!フェニックス」(66年、ロバート・アルドリッチ監督)で個性的な飛行機設計技師、オールスター戦争大作「遠すぎた橋」(77年、リチャード・アッテンボロー監督)ではドイツの将軍などを演じ、国際的な個性派スターに成長した。「純愛」の2人のその後は、明暗が分かれた。
川北隆雄(かわきた・たかお)
1948年大阪市に生まれる。東京大学法学部卒業後、中日新聞社入社。同東京本社(東京新聞)経済部記者、同デスク、編集委員、論説委員などを歴任。現在ジャーナリスト、専修大学非常勤講師。著書に『失敗の経済政策史』『財界の正体』『通産省』『大蔵省』(以上講談社現代新書)、『日本国はいくら借金できるのか』(文春新書)、『経済論戦』『日本銀行』(以上岩波新書)、『図解でカンタン!日本経済100のキーワード』(講談社+α文庫)、『「財務省」で何が変わるか』(講談社+α新書)、『国売りたまふことなかれ』(新潮社)、『官僚たちの縄張り』(新潮選書)など。
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