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香港メディアの亜洲週刊は、韓国の首都移転にまつわる状況と、それを阻む「根本的要因」の解説記事を発表した。写真はソウル市内で撮影。
韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は9月16日、国務会議(閣議)で国家均衡発展戦略を改めて表明し、任期中に世宗(セジョン)特別自治市に第2の大統領府と第2の国会議事堂を新設する計画を示した。香港メディアの亜洲週刊は、韓国の首都移転にまつわる状況と、それを阻む「根本的要因」の解説記事を発表した。以下は、日本人向けに内容を取捨選択しつつ同記事の主要部分を再構成したものだ。
ソウルの行政機能を分散する取り組みは2003年3月から08年2月までの盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の行政中心複合都市計画にさかのぼることができる。21年時点で、国務調整室、企画財政部、雇用労働部を含む45の中央行政機関が世宗市に移転した。行政首都たる世宗市のひな形は整いつつある。
韓国の首都機能移転は、行政効率だけの問題でもなく、権力の所在地の移動だけの問題でもない。李在明政権は都市の行政機能の調整を通じて人口と産業のバランスの再調整と、韓国を長年悩ませてきた首都圏一極集中の状況を改善しようとしている。
韓国の軍事政権は1960年代に国家レベルの経済開発計画を策定し、輸出指向型経済モデルを確立した。そして、日韓併合時代に発展してインフラも整っていたソウルや京畿道地区(キョンギド)地域と最大の港湾都市である釜山(プサン)が重点開発対象になった。国家政策の支援を受け、鉄道の京釜線及び京釜高速道路が整備されたことなどで、これらの路線沿いの首都圏人口規模と経済は急速に発展した。
韓国の首都圏では、高度集中による高効率化により、「すざましいサイフォン現象」が発生した。韓国人は、「生まれながらにしてソウルを目指し、あらゆる手段を講じてソウルにとどまることを目指す」本能が生じたような状況になった。
例えば、階級の固定化が深刻化する韓国において、一般人が階級を乗り越えて自分の立場を向上させる最も主要な手段は高学歴の取得だ。中央日報が発表した韓国の総合大学のランキングでは上位20校のうち19校が首都圏にある。首都圏で学業を終えた卒業生は首都圏を離れようとしない。韓国版「シリコンバレー」とも言える京畿道板橋や鐘路-光化門-江南一帯に集中するトップクラス法律事務所や会計コンサルティング本社などの企業が提供する優遇待遇は、手放すにはあまりにもしのびない。
世界のトップ500企業にランクインする韓国企業の70%以上が首都圏に集中しており、ソウル特別市、仁川広域市、京畿道など首都圏の人口およびGDPは全国のほぼ半分だ。この集中は先進国でも稀有だ。1960年代半ばから90年代後半までの韓国の高度成長、いわゆる「漢江(ハンガン)」の奇跡」の主たる舞台も首都圏地区だった。
しかし首都圏への一極集中は、地域発展の深刻な不均衡ももたらした。出身地である慶尚北道知事を長年にわたり務めるなど、地元の活性化に長年にわたり尽力した金寛容(キム・グァンヨン)氏は「もし君が何かを努力して創造しても、それは吸い取られてしまう。まるでブラックホールのように、人も、文化も、富も……」と嘆いた。若年人口も資本も流出する現実を目の当たりにした無力感からこのように嘆いたという。
人口と資本の流入を駆動するのは高品質な雇用機会や整備されたインフラ、完備された産業ネットワークだ。世宗市の政治機能を強化することは、政治権力を分散させ、産業移転を誘導する試みだ。第2大統領府と第2国会議事堂の設置は、世宗市が常態化した政治の場となることを意味し、そのことに伴い大統領府、中央省庁、国会などの関係者が常駐することになる。次の段階として、大学や研究機関の移転、企業に対する税制優遇を組み合わせれば、首都圏の高付加価値産業の一部を世宗市とその周囲に移転させることも現実味を帯びる。
しかし、世宗市への首都圏機能の移動を阻む状況がある。まずは司法絡みの問題だ。憲法裁判所は04年、盧武鉉政権がソウルの政治機能を完全に世宗市に移転させるために制定した「新行政首都建設特別法」を違憲と裁定した。
韓国の憲法に、「首都はソウル」とは明記されていない。しかし憲法裁判所は、ソウルが首都である事実は、非成文ではあるが憲法の効力を持つ規範に高められているとして、普通法で首都の地位を変えることは、憲政秩序に反すると判断した。
この憲法裁判所の裁定は示唆に富んでいる。朝鮮半島2300年の国家史の中で、ソウルは首都として替えがたい地になり、憲法裁判所もソウルの首都としての地位は、「不文憲法」の判断を示したと考えられるからだ。
百済王朝から李在明政権に至るまで数多くの王朝と政権で出現した「国家変動の瞬間」はソウルで展開された。ソウルは韓国国家の象徴であり、「国家が自らを語る物語の出発点」ともいえる地になった。
韓国におけるソウルへの一極集中と、地域の不均衡という長期的かつ構造的な問題は、単に政策の結果として出現したわけではない。人々がどうしてもソウルに引き寄せられてしまう背景には、長い歴史を通じて培われたソウルに対する「心のこだわり」が存在する。(翻訳・編集/如月隼人)
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