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日本語が中学生の頃から好きだった。しかし、大学受験では日本語専攻に入れなかった。どうしても諦められない私は、大学院受験に賭けることにした。
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時刻は午後9時57分。タイムリミットまで残りわずか。パソコンの画面をにらみつける。さあ、どうする。頭の中にいろいろな思いが駆け巡る。汗が滴になって、ひたいからつぅと流れた。大学院入試の志望校変更締め切りまであと3分。
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日本語が中学生の頃から好きだった。しかし、大学受験では日本語専攻に入れなかった。どうしても諦められない私は、大学院受験に賭けることにした。憧れる有名な大学院はあったが、まずは確実に日本語専攻に合格するために、難易度が低い大学院を志望校にして願書を提出した。憧れは憧れ、もしまた落ちたらどうするの。合格最優先、自分もそれでいいと思った。そんな頃だった。先生に出会ったのは。
先生はオンラインで日本語の公開相談室を開いている。数回は聞くだけだったが、その日は勇気を出して、先生と話してみた。しばらく話すと、「話し方が日本人みたいですね」と、私は初めて自分の日本語能力に対する確かな評価をもらった。
大学院受験の話になり、志望校のことを言うと、先生はその大学院を志望する理由を聞いてきた。私が無難に答えたら、先生は「それでいいの?本当に行きたい大学院を選んだほうがいいですよ」と言った。その場は「ありがとうございます」でごまかした。今の志望校選択が自分が取るべき最適解だと納得していたからだ。
でも「それでいいの?」という先生の声が耳からどうしても離れない。「それでいいの?」心の中の先生の声がますます大きくなる。私の心はぐらぐら揺れ始めた。
志望校変更締切日、私は自分の心に決着をつけに、高速鉄道に4時間乗って先生に会いに行った。先生に会えたのはその日の夜のことだった。変更締め切りは午後10時。先生は依然として志望校を変更したほうがいいと言い続けている。
「でも先生、もうすぐ締め切りですよ」と答える私は、先生に、そして自分にも、諦めて欲しかった。「今ならまだ間に合うじゃないですか」先生はびくともしなかった。そして、あと一歩が踏み出せない私に「私が責任を取りますから!」と力強く言った。
「どうして、そこまで言ってくれるんですか」目の前にいるこの人はなぜこんなに言い切れるのだろう。思わず先生に尋ねると、「あなたの実力なら合格できると思うし、第一、本当のあなたはね、志望校を変えたいと思っているから」と先生は言った。本当の私、その言葉が胸に響く。
失敗が怖い。落ちたらみっともない。無難に安全な選択をするのが自分にとっていいはず… …じゃ、なぜ私は今、ここにいるの? なぜ先生に会いに来たの? 本当の私はどちらなんだろう。
「本当の自分の心を欺いたら、あなたは一生後悔すると思うよ」その言葉が私の心の揺れを止めた。「決めました。変更します」志望校変更締め切りまで残り2分。急いで必要事項を入力する。悩んでいる時間はもうない。すべてを入力し終わり、変更確認ボタンを押した。
ふうと息を吐き出したとたん、時刻が午後10時ちょうどになった。ドキドキする心臓の鼓動が今、自分がどんな決定をしたかを教えてくれている。
不思議なことに、それまで私を強く支配していた、失敗を恐れる気持ちはどこかに姿を消していた。感じるのはすっきりとした覚悟だけだった。そうか、これが本当の私の気持ちだったんだ。私はようやく、自分の心に忠実に一歩を踏み出すことができた。
そして、数カ月後、私は無事志望校に合格し、本当の自分が選んだ道を歩いている。合格を報告した時、先生は「この先も自分の心に忠実に、恐れることなく、前に進んでいってください」と言ってくれた。
先生、あの時、志望校変更確認ボタンを押すまでの葛藤と気づきは、私の人生にとって、合格以上に大切なものになりました。これからの人生にはさらに大きな試練が待ち受けているかもしれません。でも私は逃げません。自分の心の声をしっかり聴いて、全力で頑張っていきます!本当にありがとうございました。
■原題:それでいいの?
■執筆者:李依格(湖南大学)
※本文は、第20回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「AI時代の日中交流」(段躍中編、日本僑報社、2024年)より転載・編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。
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