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米国と西欧諸国は歴史的、宗教的な要因から概してイスラエルに融和的だ。しかし、そうしたしがらみのない日本は、同国を特別扱いせず、是々非々の姿勢を貫くべきではないだろうか。写真はイスラエル。
ガザでの戦闘に終わりが見えない中、イスラエルと米国によるイラン核関連施設への攻撃とそれに対する反撃、突然の停戦発表と、中東情勢は極めて流動的だ。それにしても、2023年秋のガザ侵攻開始後のイスラエルの対外強硬姿勢には驚くばかりだが、米国と西欧諸国は歴史的、宗教的な要因から概してイスラエルに融和的だ。しかし、そうしたしがらみのない日本は、同国を特別扱いせず、是々非々の姿勢を貫くべきではないだろうか。
今年初めに出版され、歴史好きの間で話題となっている「ユダヤ人の歴史」(鶴見太郎著、中公新書)を読了した。「古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで」のサブタイトル通り、故地を追われ各地に離散したユダヤ人の3000年に及ぶ歴史を壮大なスケールで描いている。私が初めて知る事象が多数紹介されており、ユダヤ人、イスラエルについてまったく勉強不足だったことを思い知らされた。
例えば、イスラム教で豚肉やアルコールの摂取が禁じられていることは広く知られているが、ユダヤ教では飲酒が許容されている点を除けば、イスラム教より食物規制は厳しいという。聖書の「出エジプト記」の記述を基に、肉と乳製品を一緒に食べてはいけないという決まりがあり、このためイスラエルのマクドナルドではチーズバーガーはご法度だ。
また、今でこそイスラム世界にとってイスラエルは不倶戴天の敵だが、中世にはユダヤ人の9割がイスラム圏に居住していたという。欧州キリスト教世界でユダヤ人への迫害が激しかったこの時代、8~13世紀にイスラム世界を支配したアッバース朝(首都バグダード)が、ユダヤ人に対して融和姿勢をとっていたからだ。
さらに、宗教としての在り方でも、ユダヤ教にとっては、キリスト教よりイスラム教の方が、はるかに類似性が高いという。現代の米国で「ユダヤ・キリスト教文明」などと両者の親密さが強調されることがあるが、これは「第一次大戦以降、特にホロコーストの時期に、ファシズムや共産主義と差異化を図りながらアメリカ国民が団結するために人口に膾炙していったスローガンにすぎない」との指摘には目からうろこが落ちる思いがした。
同書を読んで衝撃を受けたのが、「現在のイスラエルでは、アラブ人・アラブ諸国からの攻撃や非難を、おしなべてホロコーストのアナロジーで理解する傾向がある…シオニストの加害行為への応報さえも不当な被害として理解する思考が常態化してしまっている」「(1967年の第3次中東戦争でヨルダン川西岸、ガザ地区、ゴラン高原など外国領土を占領したことが)ユダヤ人の一部の宗教心を大いにくすぐった。神の何らかの意思の表れではないか、というわけだ」といった記述だ。そうだとすれば、少なくともイスラエルの右派の人々にとっては、ガザ地区での民間施設への攻撃や、ヨルダン川西岸での入植を、良心の呵責を覚えずに実行できることになる。
報道によると、大阪駐在の中国総領事が6月半ば、ユダヤ人を虐殺したナチスドイツと、現代のイスラエルを同一視する文章をSNSに投稿した。イスラエル側の抗議を受けて間もなく削除されたが、関係者の間で波紋を広げた。
この投稿は、ナチスの旗とイスラエルの国旗を並べた図柄となっており、いささかやりすぎの感がある。
ただ、ナチスドイツは、ドイツ民族にはもっと広い生存圏が必要だとのヒトラーの思想に基づき、チェコやポーランドなど東欧諸国に侵攻し、そこに国民を移住させた。規模は小さいものの、ヨルダン川西岸へのユダヤ人入植は、武力で獲得した他国の領土に自国民を居住させるという点で、類似していると言えるのではないか。ただ、入植者にとっては、これも「神の意思」による正当な行為なのかもしれない。
それにしても、かつてユダヤ人を迫害した西欧諸国や米国は、なぜ現在のイスラエルの強硬な対外政策を支持するか、少なくとも容認しているのだろうか。経済的、宗教的な理由もあるだろうが、ドイツはなんといってもホロコーストという負い目があり、イスラエルに対して批判的な立場を取りにくい。英国とフランス、とりわけ前者は2度の世界大戦を通じてイスラエルの建国に関与した過去を引きずっている。
米国については、国内に600万人というイスラエル本国に次ぐユダヤ人社会を抱え(しかも彼らは政治的・経済的に強い影響力を持つ)、さらに「ユダヤ人がパレスチナに結集し国を建てることが、『神の国』の実現の前提になる」(「ユダヤ人の歴史」より)とする教義を奉じるキリスト教福音派の勢力が強いことが大きい。
では、このような歴史的、宗教的なしがらみがなく、同盟国でもない日本は、イスラエルに対してどのような態度を取るべきなのか。主要先進国(G7)の一員として、欧米諸国と歩調を合わせなければならない場面もあるだろうが、基本的には是々非々の立場を貫くべきだと考える。日本国憲法および日本人の一般的な感覚に照らして、支持、容認、あるいは反対を表明する。他国への対応と同じであり、反ユダヤ主義でも何でもない。
その意味で、イスラエルが最初にイランの核施設を攻撃した際、石破茂首相が「外交努力が継続している中、軍事的手段が用いられたことは極めて遺憾」と、イスラエルに自制を求めた点は評価できる。外交は多方面に配慮しつつ進めるものであり、時として本意ではない対応を取らざるを得ないことは重々承知しているが、欧米諸国への安易な迎合だけは避けてほしい。
■筆者プロフィール:長田浩一
1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。
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