訪日外国人客は増加しているのに香港人客はなぜ減少?発端はうわさから生じた警戒心

野上和月    2025年5月11日(日) 8時0分

拡大

香港人が日本を回避する最大の理由は、今年の夏に日本で巨大地震が発生するかもしれないとのうわさから生じた警戒心からだ。写真はゴールデンウイーク中の京都清水寺付近。

(1 / 4 枚)

訪日外国人(インバウンド)の今年1月から3月までの累計客数は初めて1000万人を突破し、外国人観光客は増え続けている。しかし、香港人客は2月、3月と2カ月連続で前年同月を下回った。高騰するホテルの宿泊料や円相場が香港ドルに対して上昇基調になっているなどのマイナス要因がある。しかし香港人が日本を回避する最大の理由は、今年の夏に日本で巨大地震が発生するかもしれないとのうわさから生じた警戒心からだ。なぜ足が遠のくほど影響しているのか、背景を探ってみた。

その他の写真

日本政府観光局(JNTO)によると、2024年の訪日外国人客数(暫定値)は23年比で47.1%増の3687万148人。このうち香港人客は26.9%増の268万3391人だった。25年1~3月の訪日客の累計数(推計値)も24年同期比23.1%増の1053万7300人と伸びている。ところが香港人客は、2月は前年同月比5%減、3月は同9.9%減と2カ月連続で24年同月を下回った。

香港では、日本を「第二の故郷」と言い、日本旅行を「第二の故郷に帰る」と言うほど日本好きが多い。一年に何度も日本を旅するリピーターは少なくない。香港人の友人の中には都道府県すべてを旅することを目指している人や、大好きな声優・歌手のコンサートに合わせて訪日し、コンサート地とその周辺を旅したりする人もいる。

ゴールデンウイーク中の京都嵐山の竹林

しかし、香港を拠点とする格安航空会社(LCC)の中には、今後の旅行客の減少を見越して香港と日本を結ぶ便を減らす会社もある。大湾区航空は、5月中旬から10月末まで香港―徳島便をこれまでの週3便の往復から週2便の往復に、香港―仙台便をこれまでの週4往復から週3往復にそれぞれ減便する。香港航空は6月上旬から10月末まで香港―仙台を往復する週3便を全便運休する。香港人の足はなぜ2月以降、日本から遠のくとみられているのか?

目の前の現実として、高騰するホテルの宿泊費、日本円の為替レートが香港ドルが連動している米ドルに対して上昇基調で推移していること、日本の物価上昇など、円安効果が縮小してきたことがある。しかし、香港人が気にしているのはこうした現実よりも別の理由が大きい。7月に日本で巨大地震が発生して、津波が押し寄せるとのうわさが香港で広がり、危険を回避しようという思いが強まっているのだ。4月の香港の連休中に日本を旅行するつもりだった知り合いの香港人家族は「震災は怖い。日本行きの格安航空券が出てきたが、行く気にはなれなかった」と話した。香港では今、「9月までは日本を旅行しない」「12月までは訪日しない」という人が少なくないのだ。

香港国際空港の大湾区航空機

うわさの発端は21年に出版された漫画家たつき諒さんの作品「私が見た未来 完全版」だ。夢について描かれた漫画だが、そこに25年7月に大地震と津波が発生するという予言がある。たつきさんが1999年に出版した「私が見た未来」で、2011年3月に災害が起こるとの予言があり、香港市民の間で「東日本大震災を言い当てた」「彼女の予言はとてもよく当たる」と拡散していったのだ。また、香港で有名な風水師が「6~8月に日本の地震リスクが高まる」と発言したことも話題になっていった。

うわさはユーチューブやSNS(交流サイト)、日常会話を通じて急速に香港市民の間に広まっていった。加えて、日本政府の地震調査委員会が今年1月に南海トラフで巨大地震が今後30年以内に発生する確率をこれまでの「70~80%」から「80%程度」に引き上げたこと、北海道沖合の「千歳海溝」や東北から関東沖合にかけての「日本海溝」沿いでも今後30年以内に起きる確率を引き上げたことなどもあり、香港メディアは日本の学識者の分析やコメントなども含めて幅広い地震関連情報を即座に中国語で伝えていった。香港赤十字会が提供している地震が起きた際の対処方法や、日本で発信されているその後の地震関連情報も、継続して報道している。

香港は台湾や中国本土で発生した地震で地盤が揺れたことはあるが、地震は極めて少ない。しかも、多くの市民が気づかないほど揺れは小さい。一方で、東日本大震災の巨大地震と津波や火災の恐ろしさは映像を通して記憶にある。

今回、いつ来るかわからない地震で訪日香港人が減っている背景には二つの要素が影響していると考えられる。

一つは、香港は合理的で現実主義の社会だが、香港人は風水や縁起を大切にしていることだ。例えば、ある外資系金融機関は、香港人の心理を読み取ってか、風水師が新しい1年間の株式市場を風水的に読み解く「風水指数」を30年以上続けている。

他にも、香港には春節(旧正月)になると、行政関係者がおみくじをひいて「新たな香港の1年」を占う恒例行事がある。「凶」が出た03年は、その直後に新型ウイルスのSARS(重症急性呼吸器症候群)が猛威を発揮してウイルス感染で299 人も死者が出る大惨事が発生した。

また、SARS流行中に、アジアを代表する人気スター、レスリー・チャン氏が自殺した。03 年の「凶」は今も市民の記憶に残っている。おみくじとはいえ、関心度は高い。今回の地震の件も、科学的データでなくて予言であっても、リスクが高そうなら回避しようと思う人は少なくないのだ。

レスリー・チャン氏

もう一つは、「故郷に帰る」と例えるぐらい、すでに何度も日本に来ているリピーター客が多いという点だ。人口約750 万人なのに、24年に来日した香港人は5番目に多い訪日客数だった。単純計算だが、上位4カ国・地域の訪日客数をその国・地域の人口で割ると、1位の韓国人は約17%、3位の台湾人は約26%。2位の中国人と4位の米国人は1%にも達していない。これに対して香港人客は約36%と一番高かった。いわば香港人100人のうち36人が日本を訪れた計算だ。

17年以降は、新型コロナウイルス対策期を除いて、訪日香港人客は毎年延べ200万人以上に及んでいる。過去に何度も日本を訪れていたのだから、リスクが高いと思われる期間は避けておこうと考えてもおかしくないのだ。

そして4月の香港の連休では、中国本土、韓国、タイ、台湾などが日本に変わる旅先になっていったというわけだ。

こうした状況下、香港の旅行会社では、日本行きの顧客を取り戻そうとキャンペーンを展開したり、地震発生による旅行警報が発令された場合の対応措置などを説明したりして、訪日観光を盛り上げるようだ。

また、香港人は回避する人ばかりではない。「日本の震災対策や安全対策、建物の耐震性は向上しているはず」「いつ来るのか分からないものをビクビクしても意味がない」と冷静に構える人たちもいる。訪日需要が減って航空券が値下がりしている状況を、「かえって訪日のチャンスだ」とほくそ笑むリピーター香港人がいるのも事実。今年の香港からの訪日客数には、香港人の日頃の習慣や考え方が色濃く反映されることだろう。

■筆者プロフィール:野上和月

1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者、香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見たくて来港した。新聞や雑誌に香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。2022年に電子書籍「香港街角ノート 日常から見つめた返還後25年の記録」(幻冬舎ルネッサンス刊)を出版。

ブログ:香港時間
インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

この記事のコメントを見る

noteに華流エンタメ情報を配信中!詳しくはこちら

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携