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中国で新エネ車業界の淘汰と再編は避けられないとみられている。写真は上海の道路。
電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の「新エネルギー車」業界の淘汰と再編は避けられない。この議論は中国メディアの主流となっている。
中国自動車流通協会乗用車市場情報連席分会(乗連分会)によると、3月の新エネルギー車の販売台数は前年同月比39%増の98万8000台で、全乗用車に占める割合は51.1%だった。このところ50%前後で推移し、乗連分会の25年見通しの57%には届かず、想定を下回った。
中国の企業情報サイト「天眼査」によると、中国には新エネルギー車関連企業が142万7000社あり、24年は33万2000社、25年はこれまでに6万5000社が新規登録された。
乗連分会はこのほど、中国の第1四半期(1~3月)における新エネルギー車の卸売販売台数を発表した。このデータには45社記載されており、完成車メーカーが少なくとも45社存在することになる。関連企業数はもとより完成車メーカーも多すぎだろう。
ランキング上位は以下の通り。
1位 BYD 98万6098台
2位 吉利汽車 33万9200台
3位 テスラ中国 17万2754台
4位 上汽通用五菱 16万8974台
5位 長安汽車 15万9902台
6位 奇瑞汽車 15万5785台
7位 小鵬汽車 9万4008台
8位 理想汽車 9万2864台
9位 零跑汽車 8万7552台
10位 小米汽車 7万5625台
7~10位は新エネルギー社製造のため新たに設立された「造車新勢力」が占めているが、生き残れるのだろうか。
経済メディアの財経頭条は、資金量だけでは生き残れず、事業規模が生死を決すると論じている。新エネルギー車事業は従来メーカーか新勢力を問わず、多額の研究開発投資、低価格競争、急速な業容拡大というビジネスモデルで、その結果、業界全体で損失を拡大させ続けている。
中国自動車流通協会によると、中国の24年の自動車業界の総収入は前年比4%増の10兆6500億元(約213兆円)だが、利益は同8%減の4623億元(約9兆2460億円)だった。業界の利益率は4.3%にすぎず、工業企業の平均6%を大きく下回る。業界のコストは5%上昇し、70以上のブランド、330以上のモデルが価格競争に巻き込まれ、1台当たりの利益を著しく圧迫した。
年間販売台数が30万台を超えてようやく収益が生まれ、50万台以上でコスト面で優位に立ち、100万台超えて初めて持続可能な競争力が形成されるという。
業界トップのBYDの24年の売上高は前年比29%増の7771億200万元(約15兆5420億円)、純利益は同34%増の402億5000万元(約8050億円)だった。過去3年間の1台当たりの利益は22年が17万4000元(約348万円)、23年が15万9000元(約318万円)、24年が14万5000元(約290万円)と低下したが、1台当たりのコストも22年が14万4000元(約288万円)、23年が12万3000元(約246万円)、24年が11万2000元(約224万円)と同じように低下した。
これらは以下の三つの「規模の効果」によるものだと指摘されている。
1.調達規模の効果
中国の調査会社・高工産業研究院によると、自動車メーカーが年間30万台販売すると、電池材料の調達コストは18~22%低下する。
2.生産規模の効果
テスラの上海ギガファクトリーは稼働率が95%に達しており、1台当たりの製造コストは同社の米国工場より30%低い。
3.研究開発規模の効果
BYDは24年に研究開発費542億元(約1兆840億円)を投じた。これを販売台数427万台で割ると、1台当たり1万2700元(約25万4000円)となる。23年の研究開発費は396億元(約7920億円)で、1台当たり1万3100元(約26万2000円)だった。吉利汽車の24年の研究開発費は1台当たり前年比18%減の1万2700元(約25万4000円)だった。
中国自動車工業協会によると、新エネルギー車メーカー大手26社の研究開発費は36.8%増加したが、利益は9.7%しか増加していない。
造車新勢力トップの理想汽車の24年の売上高は1445億元(約2兆8900億円)だったが、純利益は前年の118億元(約2360億円)から80億元(約1600億円)へと31.9%減少した。1台当たりの利益率も21.5%から19.8%に低下した。その原因は製品ミックスや価格戦略によりコスト削減効果が相殺されたためだという。
零跑汽車の24年の売上高は321億6400万元(約6432億8000万円)で、前年比92%増と急進した。利益率は前年の0.5%から8.4%へと急上昇した。しかし、24年通年では28億2000万元(約564億円)の赤字となった。
小鵬汽車は「MONA M03」と「P7+」の2車種がヒットし、24年の売上高は前年比33.2%増の408億7000万元(約8174億円)だった。利益率は1.5%から14.3%へと大幅に上昇した。
小米汽車は24年3月に初のEV「SU7」を発売し、新エネルギー車業界に参入した。同社の24年の売上高は328億元(約6560億円)で、純利益は62億元(約1240億円)の赤字となり、利益率は18.5%だった。1台当たり4万5300元(約90万6000円)の損失を出している。
造車新勢力の中で黒字を確保したのは理想汽車だけで、大規模な利益には程遠い。そのため、造車新勢力は自動運転や高速充電などニッチな分野での競争力を磨き、生き残りを目指す。
小鵬汽車は24年に研究開発費の50%超に当たる50億元(約1000億円)を自動運転システムに投じた。理想汽車は独自の自動運転技術、蔚来汽車は自社開発チップや電池交換技術に注力している。各メーカーは独自の技術力で淘汰や再編の波を乗り切ろうとしている。
先述の中国の第1四半期における新エネルギー車の卸売データの下位には日系合弁企業が並ぶ。
31位 広汽トヨタ 4943台
33位 東風ホンダ 4265台
34位 広汽ホンダ 4134台
36位 一汽トヨタ 3094台
40位 長安マツダ 2500台
しかし今年は大きく変貌しそうだ。広汽トヨタのEV「bZ3X」が3月6日に発売され、1時間で1万台を受注した。日系企業の突破口となりそうだ。ただし生き残りの条件は中国各社と変わらず、大規模な利益と突き抜けた技術を両立しなければならない。新エネ車関連企業142万7000社の中から有用な提携先を発掘し、淘汰と再編を主導していきたい。直近では各社の合弁相手、第一汽車、東風汽車、長安汽車の3社が国主導で戦略的再編を実施すると伝えられた。背景が大きく変わり、時間が切迫してきた。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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