吟遊 旅人 2025年2月12日(水) 22時30分
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中国で地下アイドル界が急速に拡大しており、日本のコンポーザーが求められている。写真は重慶市内のライブハウスでの地下アイドルライブ。
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中国で地下アイドル界が急速に拡大しており、日本のコンポーザーが求められている。
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中国では2022年12月にゼロコロナ政策が緩和されて以降、まるでそれまでの鬱憤(うっぷん)をはらすかのように音楽ライブが活発になった。その中でも特に急激な盛り上がりを見せているのが地下アイドル(地下偶像、地偶)だ。
中国の地下アイドル文化は日本から輸入されたもので、日本と同じように主流メディアに露出せずにライブやイベントを中心に活動している。その増加の実態たるやすさまじく、23年初めには40ほどだったグループ数が、「地偶元年」と呼ばれた23年、翌24年、今年とわずか2年余りで急激に増加し、300グループを超えた。また、遅れて男性地下アイドルグループも徐々に増えており、まだまだ増加の勢いは止まりそうにない。
当然、アイドルオタクと呼ばれるファンにもあっという間に広く認知され、地下アイドルイベントに足を運ぶファンも急増した。アイドルイベントのニーズとともにイベンターやライブハウス、小劇場なども増えており、商業施設のイベントとしての活用も増えた。今では週末のみならず平日でも中国各地で数多くのアイドルイベントが開催されている。
このような中国地下アイドル界の急激な発展を日本のエンタメ業界も注目している。24年には日中のグループが互いの国のライブイベントに参加したり、日本の大きなアイドルイベントが中国で開催されるなど日中間の交流も増えており、今後もこの流れはますます加速するとみられる。
中国地下アイドル界の台頭についての詳細は、中国アイドル業界の現状や日中エンタメ交流の観点から別の機会に投稿したいと思う。
急激な発展を続けている中国地下アイドル界では、爆発的に増えているが故に粗削りな魅力がある反面、多くの課題もまた露見している。しかしここではそれらの課題の中でグループのパフォーマンス、特に楽曲についてフォーカスし、なぜ中国地下アイドルグループに日本のコンポーザーが求められているのかについて言及したい。
まず、中国地下アイドルグループの多くは日本のアイドル曲をカバーして日本語で歌っている。なぜなら日本のアイドルの最大の特徴は「アイドルとファンの一体感」であり、その具体的なものが楽曲におけるMIXやコールの存在だからだ。これは日本のアイドル曲以外にはない独特のもので、ファンはアイドルと一緒に楽曲に参加しているという一体感を得ることができる。たとえ新しくできたばかりのグループでも、誰でも知っている人気曲を歌うことで比較的容易にアイドルとファンの一体感を生み出すことができるメリットがある。そのようなことから、一つのイベントの中で複数のグループが同じ曲をパフォーマンスするということが普通にある。
しかし最近の機運として、オリジナル曲を持ちたいと考えるグループが確実に増えている。もちろん地下アイドルグループが増え続けていく中で、各グループが独自の色を出すために、あるいはパフォーマンスの幅を広げるためにという目的がある。しかしそれ以外の理由の一つにカバー曲の著作権問題がある。これは以前からグレーゾーンとして認識されてはいたが曖昧なままにされてきた部分でもある。だが中国で開催される日本主催の大きなアイドルイベントでは、参加するグループにはオリジナル曲をやることという制限がある。つまり、中国地下アイドルにとって、日本のアイドルと同じ舞台に立つにはオリジナル曲を数曲持つことが必須条件なのだ。
オリジナル曲があれば、配信やCD、MVの制作なども可能になり、収入源の多様化にもつながる。
中国には日本のアイドル曲に精通しているコンポーザーはまだまだ少なく、多くのグループが日本人コンポーザーを探している。
前述のように、全グループがオリジナル曲だけ披露するステージでは、当然曲のクオリティーが問われる。そのため、より良いオリジナル曲を求めて日本人コンポーザーを探す流れに拍車がかかっている。一部のファンから「中国人コンポーザーの曲はライブに向いていないものが多い」との指摘があるなどクオリティーは必ずしも高いとは言えず、日本人コンポーザーに目を向けざるを得ない状況なのだ。それは中国語で歌う場合も同様で、日本人コンポーザーに作曲・編曲を依頼し、中国語の歌詞を別に用意するというケースも多い。
日本人コンポーザーにとってアイドル曲は海外市場に求められる数少ない分野だが、多くのコンポーザーはそのことを知らない。中国の地下アイドルグループと日本人コンポーザーを結ぶルートは非常に少なく、それを活用しているアイドルやコンポーザーも限られている。
そこで、中国の地下アイドル界を楽曲制作面から支援するために、私たちは24年10月に「海外日系アイドル宣伝部」として中国の地下アイドルグループと日本人コンポーザーをマッチングすることを目的とした活動を開始した。具体的な方法については割愛するが、活動を始めた理由はとてもシンプルで、日本のオタク文化が大好きな若い人たちが盛り上げたムーブメントを楽曲の面から支援できないかということだった。地下アイドルには、自主運営で資金が乏しく、情熱だけで続けているグループがたくさんある。そのようなグループに日本のコンポーザーと一緒に曲を作り上げる機会を作り、オリジナル曲を愛情をもって大切に歌ってほしいと思っている。
ビジネスとしてではなく、あくまで自主的な支援として活動を開始してまだ4カ月だが、同じ思いを持つ日中の仲間の協力もあり、思いのほか早く楽曲制作支援について依頼をいただき実績を作ることができた。口コミも手伝ってか、制作依頼は次第に増えている。まだまだ課題は多いが、せっかく始めたことなのでゆっくりと着実に良い音楽を提供できる環境を整えたいと思う。このようなニッチな分野でも、お互いを必要としているこのような交流があることをぜひ知っていただきたい。
■筆者プロフィール:吟遊 旅人
高校時代よりプロを目指してバンド活動に没頭。慶應義塾大学法学部卒業後、夢かなわず就職。いくつかの企業でブラジル、フランス、中国に約12年赴任。異国の地で言葉が不自由でも音楽でつながり合えることを実感。中国には飲食企業にて進出、現地法人を設立し、上海と天津で店舗オープンを経験して帰国。2021年に独立。フランスや中国で日本の漫画やアニメ、ゲームやアイドルといったオタク文化がZ世代を中心に多大な影響を与えていることに興味を持ち、中国のSNSや動画サイトでZ世代と直に交流を深めながらウォッチを続けている。
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