<日本人の忘れられない中国>上海での結婚式に着物で出席したら…

日本僑報社    2025年2月1日(土) 14時30分

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「訪問の目的は?」と聞かれたときのために「友人の結婚式に参列するんです」という答えを用意して臨んだ入国審査では、スタンプを押されたパスポートが無言で返されただけだった。資料写真。

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「訪問の目的は?」と聞かれたときのために「友人の結婚式に参列するんです」という答えを用意して臨んだ入国審査では、スタンプを押されたパスポートが無言で返されただけだった。

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1度目の中国は大学4年生の時。大学の同じゼミだった留学生カップルが帰省するというので、せっかくだから、ともっともらしい理由を付け、押しかけのような形で友人何人かと訪問した。彼らが案内してくれる上海は、ガイドブックに載っているところから路地裏の行きつけの店まで幅広く、夕食の時に雨が降り出したらお父さんが傘を持ってきてくれるという大サービスまで付いていた。

2年後の2006年6月6日。六の重なる縁起の良い日取りに彼らが上海で挙式をするというので、私にも招待状を送ってくれた。失礼がないようにと思い、ネットで中国の結婚式事情を調べた。ご祝儀袋は赤がいいのね。白はお葬式の色だから極力使わないようにしよう。着物で行こうとしていたけれど、半衿くらいなら白でも大丈夫かな。え、Tシャツにジーンズで披露宴に出る人もいるの?でも日本に留学していた2人の結婚式なんだし、鮫小紋みたいな柄なら大丈夫よね。着付けは何とかなるとしても、ヘアセットはどうしよう。そうだ、前に上海に行ったときに毎日美容室でシャンプーしてもらっていたっけ。夜遅くまでやっていたし、ホテルの近所の美容室でお願いしてみよう。椅子に座りながら泡立ててもらうシャンプー、面白かったなぁ。思いを巡らせながらの旅支度もまた楽しいものだった。

入国後は、友人である新郎とその家族に招待され、上海の高層マンションにある新居に案内してもらった。和室までも有する広々とした室内には精巧な切り紙で作られた飾りがあちこちに飾られていた。大量の爆竹やたばこは、翌日の挙式前に新婦を迎えに行くときに家の前で妨害されるので、賄賂として渡して道をあけてもらうために使うんだ、という話もしてくれた。ベッドにはお人形や卵が置かれ、それぞれがいわれのある縁起物だ、ということも教えてもらい、文化の違いを実感した。

夕食を戴いて辞去し、ホテルに戻った。周辺には夜遅くまでやっている美容室が多く、フロントでお勧めだと教わった店に入る。お決まりのシャンプーが始まってから美容師さんに、明日、挙式参列用にヘアセットをして貰いたい、という旨を英語で伝えた。担当の彼は困った顔をして同僚を呼ぶと、夜で閑散とした店内にはあっという間に私を囲んだ輪が出来た。英語が伝わらない。だが、私にはこの地をルーツとする漢字の知識がある。持ってきてくれた紙とペンを使い、ああでもない、こうでもないと筆談が始まった。なかなか伝わらなかったヘアセットは中国語で「設計」ということが分かり、翌日の予約も無事に取れ、私の髪の毛も「吹干」され、賑やかなギャラリーのままお会計までわいわいと見送られ店を出た。

翌朝、再度訪問するとその店で一番上手だというカリスマ感漂う男性美容師が担当してくれた。日本では必ず「多いですね」と言われる毛量の私の髪を、スプレーだけでアップにしてくれる技量を発揮し、見たことのないカラースプレーで髪が彩られた。ちょっと派手かな、と心配したがホテルに戻り着物を着てみると意外と悪くなく、お礼を言うためにもう一度その美容室に戻った。着物姿に大変喜んでくれ、皆で写真撮影をし、彼らが呼んでくれたタクシーで無事に会場に向かうことが出来た。

挙式は、数年前まで一般人は立ち入りが出来なかったという立派な迎賓施設の美しく整えられた庭で、人前式の形式で行われた。すっきりと晴れた青空とどこまでも続きそうな緑の芝生のコントラストは鮮やかで、シンプルなデザインながらも質の良さが際立つウエディングドレスの白に生花のフラワーシャワーがくっきりと映える様子は、まるでドラマを観ているようだった。お人形のようにきれいな新婦と、お人形のように固まった新郎の対比の微笑ましさももちろん印象的で、それを優しく見守る両家の親族の穏やかさも伝わってくる幸せな時間だった。

午後6時6分に始まった披露宴は600人を超える大所帯で、それでも「呼びきれなかったから明後日もう1回、300人くらいを呼んでやるんだよ」と当人たちは笑っていたが、3時間を超える披露宴のなかでカラードレス、チャイナドレスなど何回もお色直しをして登場する彼らはどれも目を見張る美しさで、まるでファッションショーのようだった。また2人が中座している間、私の着物姿を見た他のゲストが何人も話しかけに来てくれ、温かに歓迎してくれている雰囲気がとても嬉しかった。

その後、彼らには可愛い女の子が産まれた。昨日のことのように上海での結婚式のことを覚えている私をよそに、その子ももうあの頃の私たちの歳に近づいてきている。時の流れのあまりの速さに慄きながらも、温かく美しいあの時間は私の大切な経験として輝いている。

■原題:上海での結婚式

■執筆者プロフィール:小山 真理(こやま まり)国会議員事務所職員

1982年水戸市生まれ。茨城大学人文学部在学中に中東、ヨーロッパ、東南アジアを歴訪。大学四年次に同じゼミに所属していた中国人留学生の帰省に合わせ中国・上海に初訪問する。卒業後、彼らの結婚式への参列を含め、中国訪問は2回。大手証券会社・損害保険会社での勤務を経て、結婚・出産。現在は小学生の子ども2人の育児の傍ら、参議院議員の茨城事務所で働く。

※本文は、第6回忘れられない中国滞在エピソード「『香香(シャンシャン)』と中国と私」(段躍中編、日本僑報社、2023年)より転載したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。

※本記事はニュース提供社の記事であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。すべてのコンテンツの著作権は、ニュース提供社に帰属します。

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