トランプ政権でも温室効果ガスは減少へ―気候変動問題、米のパリ協定離脱で中国はどう動く?

長田浩一    2025年1月22日(水) 18時0分

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多国間での温暖化対策を主導していた米国の退場に伴い、世界最大の温室効果ガス排出国である中国にリード役を期待する声も出ているようだが、果たして…。

20日に第47代米国大統領に就任したドナルド・トランプ氏は、早速その日のうちに地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から離脱する大統領令に署名した。予測された事態とはいえ、バイデン前政権が優先政策と位置付けていた気候変動への取り組みが大幅に後退すると懸念されている。また、これまで多国間での温暖化対策を主導していた米国の退場に伴い、世界最大の温室効果ガス排出国である中国にリード役を期待する声も出ているようだが、果たして…。

バイデン政権の遺産が効果発揮

世界最大の経済大国である米国は、温室効果ガスの排出量も中国に次いで世界第2位。トランプ氏は「(石油や天然ガスを)掘って掘って掘りまくれ!」と檄を飛ばすなど化石燃料を積極活用する姿勢を見せており、パリ協定離脱と相まって米国の排出量が増加に転じるのではないかと不安視されている。ただ、上野貴弘著「グリーン戦争」(2024年中公新書)などによると、前政権の遺産というべき「インフレ抑制法(IRA)」の効果で、温室効果ガスの減少傾向は維持される見通しだ。

IRAは、名称だけ見れば気候変動対策とは無縁の経済政策のようだが、実際はインフレを抑制しつつ再生エネルギーや電気自動車(EV)などの脱炭素技術を減税により後押しする制度。バイデン前政権は2050年までに温室効果ガスのネットゼロ排出を達成するとの目標を掲げたが、IRAがその実現に向けた政策の柱となる。

前政権の政策を180度転換しようとしているトランプ氏が、IRAの廃止または修正に動く可能性はある。しかし同書によると、IRAの恩恵を受けているのは、バイデン氏の民主党ではなく、与党共和党が強い地域が多いという。連邦議会は上院、下院とも共和党が多数派を握っているが、民主党との差はわずか。このため、トランプ政権がIRAの廃止をもくろんだとしても、共和党から造反者が出て、阻止される可能性が高い。

また、米国の地方政府・議会や民間企業、NGOなどの間には、連邦政府の意向にかかわらず、パリ協定の精神を尊重して行動しようとするグループがあり、彼らは政権交代後も温暖化対策を強力に推進する方針を表明している。こうしたことから、ペースは落ちるかもしれないが、米国の温室効果ガス削減の流れは今後も続くと予想される。

国際的なけん引役不在に

ただ政権交代により、気候変動対策における米国の国際的なリーダーシップが大幅に後退、もしくは事実上消滅する可能性がある。バイデン政権は発足3カ月後の2021年4月に気候変動サミットを開催し、それに合わせて各国がこれまでより踏み込んだ削減目標を提示した。米国が気候変動対策のけん引役を担った格好だ。しかしトランプ政権には、そうした対応はまず期待できないだろう。

では、誰がけん引役を務めるのか。このほど日本記者クラブで記者会見した地球環境戦略研究機関の田村堅太郎上席研究員は、欧州連合(EU)と英国は「(リーダーシップをとる)意欲はあるものの、力不足」と指摘。そうなると、中国に注目が集まる。なにしろ中国の二酸化炭素排出量は全世界の32.0%を占め、米国の13.7%を大きく上回って断トツの首位(2021年実績)。1人当たり排出量も年間7.5トンで、日本やドイツとほぼ同水準だ。もはや、ある時は超大国として傲慢にふるまい、ある時は開発途上国の一員として先進国より甘い削減目標を要求するような使い分けは許されず、最大の排出国として責任ある行動が求められる。

しかし田村氏は、「中国が開発途上国をクリーンエネルギーの導入で支援する、いわば『クリーン一帯一路』に乗り出す可能性はある」としながらも、他国に削減目標の引き上げを働きかけるようなことはしないのではないかと予測。米国がパリ協定から抜けた後の多国間の取り組みは、けん引役不在の状況下、多元的で多様な主体が参加する「多中心的なガバナンス」で推進されるとの見通しを示した。

若年層の関心が薄い日本

では、トランプ政権の下でわが日本はどうしたらよいのか。田村氏は「日本を含め各国は、米国内の政治サイクルに惑わされず、気候政策の『基本』を軸として行動強化を続けることが重要」として、温室効果ガス削減の努力を加速するよう呼び掛けている。それはその通りなのだが、私が気になるのが、昨秋の総選挙で気候変動問題がほとんど議論されなかった事実に象徴されるように、日本ではこの問題への関心が盛り上がらないように思えることだ。ここ数年の大雨被害や昨夏の酷暑などで温暖化の悪影響は身に染みているはずなのに、なぜなのだろうか。

特に気になるのが、若い世代ほど温暖化への関心や危機感が薄い点だ。内閣府が2023年に実施した世論調査によると、気候変動問題に関心があると答えた人は、70代以上が60.4%、60~69歳が55.2%だったのに対し、18~29歳は31.0%、30~39歳は30.3%と、高齢者のほぼ半分にとどまった。前出の「グリーン戦争」によると、米国では若い人ほどこの問題への関心が高いという調査結果があるという。欧州でも、2019年に当時16歳のグレタ・トゥーンベリさん(スウェーデン出身)が世界各地を回って環境保護を訴えたのは記憶に新しい。若い人の無関心は先進国で日本特有の現象なのだろうか。

日本記者クラブでの会見後、私が田村氏にこの点について尋ねたところ、「もっと若い人に刺さるような伝え方を考えないといけない」と語ってくれた。温暖化が進めば、その影響をより多く、長く受けるのは若い世代。彼らがこれまで以上に気候変動問題に関心を持つよう期待したい。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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