山崎真二 2025年1月3日(金) 17時20分
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1月20日に発足する第2次トランプ政権の顔ぶれが固まった。写真はホワイトハウス。
1月20日に発足する第2次トランプ政権の顔ぶれが固まった。主要人事の特徴や重要閣僚予定者などの主張・政策を米メディアの報道を中心に紹介する。
次期政権人事の最大の特徴は米有力メディアの多くが報じているようにトランプ氏への「忠誠重視」。基本的にはその通りだが、国務長官に指名されたマルコ・ルビオ上院議員のようにかつてはトランプ氏の政敵であり、国家情報長官に起用されるトゥルシ・ギャバード元下院議員はもともと民主党員。以前にトランプ氏と異なる考えを持っていた人物も要職に登用されている点も注目される。
もう一つの特徴は、第1次トランプ政権の時と比較するとかなり迅速に人事が進んだことだ。「トランプ当選」から2日後の11月7日には次期大統領首席補佐官の指名が発表されたのを皮切りに国家安全保障担当の大統領補佐官や国防長官、続いて司法、国務、財務など各長官に起用する人物が次々と明らかになった。トランプ氏は2016年の大統領選で勝利した際には「政治・外交の素人」だったこともあり、人選に手間取り、国務長官や国防長官など政権の要の人物が指名されるまでに時間を要した。それに比べれば今回は早々に重要高官人事を終えたことになる。
3番目の特徴としては、親トランプの保守系シンクタンク「米国第一政策研究所(AFPI)」所属メンバーからの登用が目立つこと。農務長官に指名されたブルック・ロリンズ氏や司法長官に起用されたパム・ボンディ氏らがその例だ。
とはいっても、指名人事は必ずしも順調というわけではない。例えば、司法長官人事では当初、共和党のマット・ゲーツ前下院議員が指名された。ゲーツ前議員はトランプ氏に忠誠心が厚く、「トランプ氏の子分」とも評されていた。ところが、ゲーツ前議員に未成年女性と性的な関係を持った疑いが浮上。共和党内からも批判が続出し、1月の新議会上院での指名承認が危ぶまれ、ゲーツ氏は指名辞退に追い込まれた。トランプ氏が急きょ、司法長官候補をパム・ボンディ前フロリダ州司法長官に差し替える混乱も起きた。
また、国防長官に指名された元FOXニュース司会者のピート・ヘグセス氏もかつて性的暴行の疑いで捜査されたことが判明し、批判を浴びる事態に。厚生長官就任が予定されるロバート・ケネディ・ジュニアについても「陰謀論者」「ワクチン懐疑派」と悪評が流れ、資質を疑問視する声も聞かれる。
トランプ氏は、ホワイトハウスの取りまとめ役となる大統領首席補佐官になるスージー・ワイルズ氏の手腕に期待し、主要人事への反対や懸念の広がりは抑えられるとみているようだ。史上初の女性大統領首席補佐官となるワイルズ氏は大統領選でトランプ陣営の共同選対本部長を務め、組織の運営や危機管理では抜群の能力を持っており、米有力メディアや民主党からも一定の評価を受けている。
次期政権の安保・外交について具体的な立案と実行にあたるのはいうまでなく、国務長官に就任予定のルビオ氏と国家安全保障担当の大統領補佐官になるマイク・ウォルツ氏。ルビオ氏はフロリダ州選出の上院議員で16年の大統領選の共和党予備選でトランプ氏と大統領候補指名を争い敗北、その後関係を修復した。両親が共産党政権下のキューバから米国への亡命者でもあり、左派政権嫌いで有名。米上院外交委員会などを舞台にこれまで10年以上にわたり中国、キューバ、イランなどを厳しく批判する言動を繰り返してきた。「中国は最大かつ最先端の敵国」などと述べ、対中敵視発言を繰り返す。中国・新疆ウイグル自治区での人権問題を問題視し、同自治区での強制労働に関係した製品の輸入を禁止する「ウイグル強制労働防止法」の成立を主導したこともある。中国からは入国禁止の対象とされている。
ロシアのウクライナ侵攻を巡っては早期終結に向けて交渉が必要だとする点でトランプ氏と同じ考え。一方、ウォルツ氏もフロリダ州出身で、米陸軍特殊部隊「グリーンベレー」の元隊員。18年に下院議員に初当選して以来、米議会での対中強硬派の代表人物の一人と目されてきた。中国の覇権主義的行動を強く批判し、米国の大学での中国の影響を排除する法案の策定にも携わり、22年北京冬季五輪のボイコットを呼び掛けたことでマスコミの注目を集めた。ウクライナ支援に関しては「米議会は白紙の小切手は切らない」と消極姿勢を見せる。外交・安保問題ではこの2人に加え、バンス次期副大統領も大きな発言力を持つとの見方もある。
経済チームの陣容も整った。財政・経済政策運営の要の財務長官には投資ファンド経営者のスコット・ベッセント氏が指名された。著名投資家ジョージ・ソロス氏にかつて師事し、ソロス氏のファンドの投資部門の最高責任者を務めたこともある。ベッセント氏は一部米メディアに対し「関税は収入増を図る方策であり、戦略的に重要な産業を守る手段だ」と述べている。トランプ氏の減税政策にも賛同しているが、財政赤字を国内総生産(GDP)比3%に抑制することを目指す「財政規律重視派」というのが大方の見方。
貿易政策全般を指揮する商務長官には米投資銀行トップのハワード・ラトニック氏の起用が予定されている。ラトニック氏は「関税タカ派」で、トランプ氏の中国製品に対する高関税政策を積極的に支持する考えを示す。
中国などとの貿易交渉を直接担当する米通商代表部(USTR)代表に第1次トランプ政権でUSTR首席補佐官だったジェミソン・グリア氏が指名されたことに注目する米経済アナリストは少なくない。グリア氏がトランプ前政権で通商代表を務めた対中強硬派ライトハイザー氏の右腕だったからだ。トランプ次期大統領が就任早々に議会承認の必要のない大統領令によって中国に対する高関税政策を実施するとの説が盛んに流れる。実際、トランプ氏は先ごろ、大統領就任初日に違法薬物の米国流入阻止を目的に中国からの輸入品に10%の追加関税を課すと表明した。
だが、同氏が声高に叫ぶ一律関税60%の対中追加関税はインフレを再燃させるだけでなく、報復関税を招いて輸出産業にダメージを及ぼすとの懸念が指摘されており、その実現性を疑問視する意見もある。このところ影響力を強めている実業家のイーロン・マスク氏が中国でビジネスを展開し、米中協力強化の重要性を主張しているのは周知の通り。同氏が第2次トランプ政権の対中政策にどの程度影響を与えるかにも大きな関心が集まりそうだ。
■筆者プロフィール:山崎真二
山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。
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