<中国は今!>香港と一体化「深センのマンハッタン」目指す国際金融特区をルポ―東京ドーム1385個分

Record China    2014年8月20日(水) 6時10分

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香港政府と広東省が共同運営する、深セン市宝安区前海地区の「前海金融特区」の建設予定地に入った。香港と中国をまたぐクロスボーダーの一大国際金融都市を目指している。写真は筆者撮影。

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先日、香港に行ったついでに広東省深セン市に入った。電車で45分だ。市内中心部から車で1時間ほど走ると、宝安区の海浜地帯にぶつかる。南シナ海を遠望する海岸線に沿って深セン湾公園が細長くできており、香港からとみられるロードバイクスタイルの自転車の一団が香港西部につながる深セン湾大橋の架橋下で休息していた。

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その片側3車線の幹線道路から東の脇道に入り10分ほどすると「『前海』…特区中の『特区』」「深セン・香港合作『前海金融特区』」「創新+効率=『前海』の夢」などと書かれた高さ2m、横5mほどの鉄製の看板が切れ目なくずっと建ち並んでいる。「『前海』の夢」とは習近平国家主席が提唱する「『中国の夢』を実現しよう」とのスローガンをもじったフレーズだ。

ここは香港政府と広東省が共同運営する、宝安区前海地区の「前海金融特区」の建設予定地だ。正式名は「前海深セン香港現代的サービス業合作区」。あまりにも長く意味も明瞭とは言い難いので、本稿では「前海金融特区」とする。

特区は深セン市内にあるが、香港と中国をまたぐクロスボーダーの一大国際金融都市を目指し、世界中の大手銀行などの金融企業を誘致し、ニューヨークのマンハッタンに倣って、「深センのマンハッタン」を目指す。建設面積は約18平方kmで、東京ドーム1385個分が入る計算だ。

◆世界中の大手銀行を誘致、目標はシンガポール上海、東京

世界中の大手銀行などの金融企業を誘致し、シンガポールや上海、東京など国際的な金融都市を目指している。すでに、深セン湾大橋で香港とつながっているが、近い将来、前海金融特区を中間点として、深セン国際空港まで7分、香港国際空港まで10分で結ぶ高速鉄道が通る予定だ。

日曜日で、しかも気温35度という炎熱下にもかかわらず、建設現場では100人以上の労働者が樹木を切り倒し、木の根っこを引っこ抜くなど、建設現場でスコップやツルハシを振るう。ブルドーザーやパワーショベル、大型トラックなどの重機もところ狭しと動き回り、丘を切り崩して地面を整地する。道路はアスファルト面がまだ油分を多数含んで輝いているほど真新しいが、道路脇にはまだ建物はほとんどなく、来年中の完成を目指し突貫工事が進んでいた。完成は来年中だ。

香港内の地元銀行や外国銀行、あるいは中国の銀行の香港支店などと連係して、香港内の人民元を前海金融特区に還流させ、特区内の企業に貸し付ける業務が中心となる。あるいは、その逆パターンで、中国内の人民元を特区の金融機関が仲介して香港の銀行に貸し付け、人民元建ての債券の発行やファンドを設立する。それらの業務をテコに、香港の金融機関の本土への参入支援などを促進。いわば金融部門における香港・深セン交通インフラについては、前海金融特区を中間点として、深セン国際空港までわずか7分、香港国際空港まで10分で結ぶという高速鉄道の建設計画があり、地理的な利便性は疑いないところだ。

◆習近平肝いりの大プロジェクト、香港は消極姿勢

特区構想は10年4月、香港を訪れた習近平国家副主席(当時)がぶち上げた。習近平の立ち会いのもと、広東省と香港が連係しさらに経済協力関係を強めるという「広東省と香港の協力枠組み協定」が締結。金融分野では国際金融センターとしての香港の地位向上とともに、広東省における金融業の一層の発展がうたわれた。具体的には相互の金融機関の拠点新設や香港での人民元立て貿易決済の促進と拡大で、前海地区が重点協力区として認定された。

前海金融特区は習近平の肝いりで作られた大型プロジェクトなのだ。副主席時代の習近平は香港問題を担当しており、中国共産党指導部のなかで香港の最高責任者であり、この時点で、次期最高指導者に就任することが確実視されていた。さらに、12年12月、習近平は党総書記就任後、初の地方視察地に深センを選んでおり、金融特区構想にはひとかたならぬ思い入れがある。

習近平は締結式のなかで、「金融分野での広東省と香港の一体化がウィンウィン(共に利益を得る)の効果をもたらす」と語り、両者の金融一体化の重要性を強調し、「特区中の特区」という新たな金融特区の創設を提唱。その4カ月後の同年8月、中国政府は「前海金融特区全体発展計画」を承認し、翌11年3月の全国人民代表大会(全人代)で、同計画が国家プロジェクトとして第12次5カ年計画(11〜15年)に組み入れられた。

この特区プロジェクトは国際金融センターとしての香港の地位向上と広東省における金融業の一層の発展を目指し、相互の金融機関の拠点新設や香港での人民元立て貿易決済の促進と拡大が急務となる。

香港政府にとって、絶対に成功させなければならない最重要プロジェクトだったはずだが、「案に相違して、香港側の取り組みは鈍いものだった」と香港の外交筋は明かす。プロジェクト参加企業の大半は中国企業で、現地で建設計画が動き出したのは習近平の構想発表から4年も経った今年であることからも、香港側の消極姿勢は一目瞭然だ。

「香港の金融関係者のなかには、香港と前海金融特区が一体化すれば、香港は大陸の出島よろしく、前線の出先機関に過ぎなくなり、中心となる人民元決済を伴う金融業務は特区内で行われ、香港の国際金融都市機能は早晩、中国側に乗っ取られるとの危機感が強い」と香港の外交筋は指摘する。

香港ではいま、選挙制度などをめぐり、中国派と民主派グループの対立が激化しているが、経済面でも中国と香港の思惑の違いが浮き彫りになってきつつある。中国は1997年の香港返還時、50年間の「1国2制度」の維持を約束したが、香港では、この約束が徐々に形骸化しつつあるようだ。

◆筆者プロフィール:相馬勝

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。

著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)など多数。

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