中国の半導体自給率に「2023年で70%」説、国産化目標の2025年75%は達成できるか

高野悠介    2023年12月8日(金) 13時0分

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中国の半導体上位企業の現在を最新ニュースから探ってみたい。

国家によるサポートは半導体産業チェーン構築に欠かせない。中国政府は2014年に「国家集成電路産業発展推進綱要」を発表。翌2015年、半導体自給率を2020年に49%、2025年に75%に引き上げる目標を掲げた。同年、投資ファンドを設立し、国有大企業や金融機関、その他から出資を募った。第1期に1387億2000万元、第2期に2041億5000万元を集め、株式や債権投資などの形でSMIC(中芯国際集成電路製造)、上海華虹、長江存儲科技(YMTC)、長電科技(JCET)、北方華創(ナウラ・テクノロジー・グループ)などのトップ企業を支えた。そのうち上位企業の現在を最新ニュースから探ってみたい。

長江存儲科技…メモリーでサムスンを追走

長江存儲科技は2016年に武漢で設立。メモリー半導体、3D NAND フラッシュの設計から製造まで一体化で行い、同時にメモリ関連のソリューションを提供している。製品はモバイル通信、民生用デジタル機器、コンピューター、サーバー、データセンターなどに幅広く利用されている。

中国メディア・IT之家は11月末、NAND フラッシュは中国政府のサポートを得てここ数年で長足の進歩を遂げ、最先端のサムスン、SKハイニックスなどとの技術的距離は2年に縮小したと報じた。コンピューター用メモリー半導体DRAMは5年以上の技術ギャップがあるが、NANDは技術的障壁が低く、ギャップを着実に縮め、最近はその縮小ペースが加速していると指摘した。

具体例は2022年の同社フラッシュメモリー大会で発表されたXtacking 3.0システムに基づく第4世代3D NAND フラッシュ「X3-9070」だ。積層数を176層から232層にすると公表してから1年、200層以上の製品でサムスン、マイクロン、SKハイニックスに先駆けて量産に成功したという。

華虹…NEC合弁からスタート、ファウンドリー大手

華虹とSMICはファウンドリー2強とされ、比較されることが多い。

華虹集団の半導体メーカー、華虹半導体のルーツは日中合弁企業。1997年にNECと華虹集団との合弁で設立された「上海華虹NEC電子有限公司」だ。その後、2005年に華虹NECの持株会社として華虹半導体が設立された。2014年に合併や組織改編を終え、香港市場へ上場した。2023年5月には上海市場にも上場。2022年の売り上げは前年比42.5%増の168億8600万元、純利益は同86%増の30億9000万元で、成長率、利益率共に申し分ない。

主力は8インチ、12インチのIC(集積回路)の研究開発、設計、製造。4カ所の製造基地に8インチ、12インチそれぞれ3本の生産ラインを持ち、2023年第3四半期(7-9月)の月産は8インチが17万8000枚、12インチが8万枚。新たに無錫工場を新設し、12インチ生産能力を8万3000個追加する。ウエハーファウンドリーとしての主導的地位を固め、国内技術による独自の生産プロセスを強化する。

SMIC…半導体産業の「中国代表」

SMICは2000年に上海自由貿易試験区に設立。台湾TSMC設立の13年後だった。2004年に香港市場へ上場。2020年に上海科創板市場へ上場。国有資本、国有企業の後押しを背景にファウンドリーとして成長した。中国半導体企業の最大手で、中国代表のような存在だ。この秋にはファーウェイ(華為技術)に7nmのロジック半導体を供給し、米国の制裁を突破したとヒーロー扱いを受けた。

2022年の売り上げは前年比39.0%増の495億1600万元、純利益は同31%増の146億5600万元で、こちらも申し分ない。スケール感は華虹の約3倍だ。

現有設備は8インチ3カ所、12インチ4カ所、月産は12インチ換算で20万枚だが、2024年末までに8インチを強化して25ラインを新設し、8インチでTSMCに並ぶ存在を目指すという。

業績低下も投資は維持

しかし両者とも、直近の四半期決算は2022年までと一変して冴えない内容だ。2023年第3四半期決算では、SMICは売り上げが前年同期比10.6%減の117億8000万元、利益が同78.4%減の6億7800万元、華虹は売り上げが同5.1%減の41億900万元、利益が同86.4%減の9583万元だった。

しかし、上に記したように生産設備の拡張を続けている。SMICは75億ドル、華虹は全資子会社の華虹宏力に126億元を投じた。投資の歯止めが効かず、破綻寸前の不動産企業を思い起こさせる。

中国メディアによると、2023~2027年の世界需要見通しは成熟(レガシー)工程28nm以上が7に対し、先進工程16nm以下が3の割合という。さらに、中国スマホメーカーは米クアルコムなどからの調達が多く、中国ユーザーに対する現地生産化は進んでいない。だから大丈夫、という論理なのだろう。

国産化はすでに目標達成?

中国メディアによると、SMICは国策企業として業績へのプレッシャーをはねのけてでも産業チェーンの上流と下流それぞれに需要を創出しなければならないという。

SMICの2019年の半導体生産設備、原材料、部品の国内自給率は10%に満たなかった。2023年には、サプライチェーンの多くで国産化が進んだ結果、自給率は40%に上昇した。しかし、これは欧米から最新機器や部品が調達できなかった裏返しでもある。

一方、「中国はすでに国産化率70%を達成している」「100%になれば外国投資を呼び込めずグローバリゼーションの観点から非現実的」(清華大学教授談)などという記事を配信し、国産化達成のゴールポストを移動させる作業に取り組んでいる。70%の根拠は示していない。さらに、「核心技術を習得しなければ米国制裁の効果をまともに浴びてしまう」「将来の制裁解除の折には先進プロセスは完全海外従属になってしまう」などとも主張している。制裁は効き、メディアは混乱している印象だ。結局、地道な技術的ブレークスルーを積み重ねるしかないだろう。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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