シャオミが新型EVを来年発売予定、周回遅れ否めず

高野悠介    2023年11月7日(火) 7時0分

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シャオミが新型EVを来年発売予定だが、周回遅れ感は否めない。

シャオミ(小米)の創業者で会長兼最高経営責任者(CEO)の雷軍氏は2021年3月末、EV(電気自動車)への参入を表明した。同年9月に生産子会社「小米汽車」を設立し、自らCEOに就任すると、企業家人生最後の挑戦と称し、陣頭指揮を執り始めた。シャオミは日本ではスマホメーカーとして知られているが、中国では2013年以降、調理家電やテレビなどIoT家電を次々に発売し、今や総合家電メーカーとなっている。自動車はシャオミのIoTシステムのラストピースなのだ。最新の開発状況と成功の可能性を探ってみよう。

MIUIを澎湃OSにグレードアップ

シャオミは10月に澎湃OS(Xiaomi Hyper OS)を発表した。発売予定の新車にはこの澎湃OSと自社開発の自動運転技術を搭載する。澎湃OSはこれまでのAndroid互換OS・MIUIの発展形だ。スマホとIoT家電をつなぐ、AIとIoTの融合「AIoT」を目指してきたが、EVというラストピース登場に備えて大幅な刷新を図った。

澎湃OSシステムは、基層部分では、自社開発のVelaシステムと、修正を加えたLinuxシステムを融合している。上層部分ではVelaシステムとAndroidシステムをミドルウェアとして組み込んでいる。澎湃には「最強のパフォーマンスを発揮」「AIをシステム全体の頭脳とする」「効率的なアクセス」「セキュリティーの保護」という4つの目標がある。それらを追求した結果、効率とパフォーマンスに優れ、互換性も高い、洗練されたOSとなった。10月発売の新型スマホ、Xiaomi14シリーズに搭載されたが、雷氏は発表会で、iPhone15シリーズを上回る性能と豪語した。

さらにこれを「AIoT」から「人・車・家のトータルエコシステム」へのアップグレードであり、シャオミ創業以来の13年間に数千人のエンジニアが研究開発に心血を注いだ成果だと表現した。

2024年にEVセダン「MS11」の量産開始予定

シャオミのEVセダン「MS11」の開発は順調に進み、2024年中に量産体制の確立と発売を目指し、年間で5万~6万台の出荷を見込む。

MS11はポルシェに似た低く垂れ下がったフロントエンドを採用し、鋭いLEDライトと共に躍動感を演出している。上部のLiDAR(光によるリモートセンシング装置)はシャオミが自社開発した自動運転技術の要だ。自動運転技術には研究者500人と開発費33億元(約660億円)を投じている。

車体プラットフォームは急速充電や高出力化に優れる次世代の800Vを採用した。インテリアは不明だが、先ごろ発表した14インチタブレットと同じモデルが中央ディスプレーとして収まる。もちろん澎湃OSが搭載され、スマホとの音声連携が格段に強化された最新スマートコックピットとなる。

ライバルはファーウェイ「智界S7」

MS11のライバルはファーウェイ(華為技術)の「智界S7」だろう。奇瑞汽車とファーウェイが共同開発した中大型セダンだ。ファーウェイの鴻蒙(Harmony)OSと自社開発の運転支援システムADS2.0を搭載している。このシステムは自己進化を継続し、自律的に判断、走行できるようになるという。MS11と同じセダン、独自OS、自動運転、スマートコックピットで、シャオミと正面から衝突する。

しかし、ファーウェイの経験値はシャオミをはるかに上回る。今回のパートナーは国有の奇瑞汽車だが、サプライヤーとしてソフトまたはハードを提供した自動車メーカーは第一汽車、上海汽車、長城汽車、吉利汽車、東風汽車、広州汽車、ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンBYD比亜迪)などがある。さらに、2019年に合弁したセレス・グループ(賽力斯集団)との全面共同開発車のAITO問界シリーズを発売し、すでにヒット作を誕生させている。

智界S7の発売予定は11月末。オンライン発表会では、「成熟したスタイルで、強いオーラを放つ。シンプルなデザインの中に高級感を持つ」などと高く評されている。

生産背景は不安定

小米汽車は自社工場を持たない。報道によれば、国有の長城汽車に生産を委託している。リチウムイオン電池の「金楊」、サプライチェーンネットワーク運用の「一汽富維」、自動車部品の「華域汽車」、自動運転の「拓普集団」などのサプライヤーも確保した。しかし、ファーウェイほど広範なサプライチェーンは持っていない。

市場の成熟につれ、中国政府はEV生産ライセンス発行を制限しようとしている。そうした環境下、シャオミは工業和信息化部(工業情報化省)に自社生産の承認申請をする一方、長城汽車以外のメーカーとも生産提携を模索している。華晨汽車、奇瑞汽車、北京汽車などだが、いずれも国有メーカーの下位クラスで、二軍に見えてしまう。

ラストピースはうまくはまるのか

澎湃OSを搭載した最新スマホXiaomi14はスタートダッシュに成功した。発売週の10月末の売り上げはファーウェイのMate60やアップルのiPhone15を一時上回った。

シャオミの雷CEOは自社の技術陣にさらに100億ドルの投入を確約し、来年のMS11発売に向けて最後のむちを入れている。しかしXiaomi14のようにうまくいくのだろうか。テスラとBYDによる2トップ間競争は佳境を迎え、すでに値下げ合戦の段階へ入っている。同じ通信機器からの参入組でも、ファーウェイははるか先を行く。周回遅れは明らかだ。MS11は、0~100キロ加速3.6秒、航続距離1036Km、29万9000元(約600万円)~など、魅力的な価格とスペックを発表し、期待値は高まっている。しかしアドバンテージはやがて崩れる。ラストワンピースがはまらず、ジグソーパズル全体が分解してしまうことだってあり得る。来年の発売に大注目だ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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