高野悠介 2023年9月8日(金) 10時0分
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アリババは今年3月、事業部門をクラウドの阿里雲、商業の淘宝天猫、物流の菜鳥、生活総合サービス、国際デジタル商業、文化娯楽という6つの独立組織に改組した。
アリババは今年3月、事業部門をクラウドの阿里雲、商業の淘宝天猫、物流の菜鳥、生活総合サービス、国際デジタル商業、文化娯楽という6つの独立組織に改組した。それぞれの取締役会とCEOが責任を持ち、アリババ本体は持ち株会社化した。6事業体それぞれが独自の動きを強めているが、ここでは物流の菜鳥を取り上げたい。自動運転部門の移管や宅配便の創設など、大きな動きがあった。
■物流子会社・菜鳥はプラットフォーマーに専念
アリババグループの流通を担う菜鳥は2013年5月、アリババ創業者のジャック・マー(馬雲)氏が自ら主導して立ち上げた。2009年にスタートした双11(11月11日の独身の日セール)の大爆発に対応した動きだった。アリババが43%を出資し、順豊、園通など宅配大手5社も1%ずつ出資した。オープンプラットフォームとして、広範囲に物流、倉庫企業の参加を募った。今までに20万の宅配BOX、1万8000の配送ステーション、4000の物流倉庫、3000の物流企業、200の空港物流施設などを組織した。そしてジャック・マー氏は、自社による宅配は行わず、プラットフォーマーに徹すると繰り返し述べていた。
しかし、2023年になり状況が変わる。菜鳥のCEOは「迷った末」としながら、直営の宅配便システム「菜鳥即逓」のスタートを発表したのだ。
■自動運転の研究開発を達磨院から移管
次に自動運転だ。2016年~17年、世界中で自動運転ブームが起きた。2016年12月にグーグルの自動運転車開発部門が分社化してWaymoが設立され、2017年11月に百度の自動運転Apollo計画が国家AIプロジェクトに指定された。アマゾン、京東、美団、ウーバー、Lyft、滴滴出行(DiDi)などが無人配送車、ロボタクシーなどの自動運転計画を続々と発表し、アリババも負けじと追随した。
アリババは2017年10月に独自研究機関「達磨院」を設立し、7つの研究分野を定めた。その1つ、機器智能実験室に自動運転実験室(Auto Lab)を置き、関連技術の研究開発を行った。エンドツーエンド原則のディープラーニング手法で、大量のデータ学習とシミュレーションを行い、車両が直接運転方法を学ぶのだという。
その後、2018年11月に無人配送車の小蜜蜂(G Plus)、2019年1月に無人タクシーの小蜜蜂(Robo Taxi)、同年4月に無人トラックの小蜜蜂(Robo Truck)と、次々にコンセプトカーを発表した。また、下記の大企業と提携した。
上海汽車集団…上海市浦東新区に無人タクシー運営センターを設立、試乗車100台を提供
中国郵政…杭州市に無人配送車運営センターを設立、無人配送車50台を提供
中国移動…北京市海淀区に5Gスマート交通モデル地区を設立
上海汽車…合弁で、最先端のスマートEV車開発の智己汽車を設立
そして今年5月、達磨院の自動運転実験室と研究成果を菜鳥に移管した。中国メディアは、これは自動運転技術が研究室の段階からビジネスの法則に従って実戦の現場に降りたことを意味すると評価した。
■ライバルの京東には強力な自社物流
直営宅配便の創設、自動運転の実装は、ライバルの存在から見ても必然の流れだった。
ネット通販のライバル、京東は直営物流でアリババとの差別化を図り、かなりの部分で成功している。上場企業の物流子会社、京東物流の業績は好調だ。
2023年上半期の売り上げは前年同期比32.6%増の777億6100万元だった。うち京東グループからの売り上げは同2%減の239億元。外部顧客の売り上げは同57.7%増の539億元だった。非京東の売り上げは約7割に達し、グループ依存率は3割にすぎない。独立した物流会社として十分に運営できている。中でも象徴的なのは、ショートビデオの抖音や快手のライブコマース部門との連携を深めていることだ。これらはアリババのライブコマース、淘宝直播の最大のライバルだ。手をこまねいていれば、京東物流を中心にライバル企業が結集してしまう。
京東は無人配送車や配送ドローンの研究開発でも最先端を行く。即時配送の京東到家アプリもある。このような物流の雄、京東にとって、ライバルは順豊(SF)であり、菜鳥は単なるデータ・プラットフォームにすぎなかった。
■直営宅配便で無人配送による物流改革がスタート
菜鳥にはこれまでにもさまざまな改革の動きがあった。2019年に天猫超市などのグループ内部向けに配送便「丹鳥」を立ち上げた。2022年にこれを輸入プラットフォーム天猫国際まで広げた。さらに2023年3月には「1212」半日配達モデルを開始。正午までの注文は当日午後に、午後12時までの注文は翌日の午前中に配達する。
6月には菜鳥設立10周年を記念して「菜鳥即逓」を発表、直営宅配便を正式に宣言した。また、ネスレ、P&G、ユニリーバなど世界の日用品巨頭と提携し、非アリババ化へのスタートも切った。
また、無人配送車の実装も煮詰まってきた。実現すれば、輸送、仕分け、宅配などの効率と安全性を大幅に向上させ、人件費、燃料費、事故による損失を削減し、総物流コストが30%以上削減できるという試算もある。まだ成功していないが、ラストワンマイル問題解決の切り札とされる。
中国のネット通販業界は極めてアグレッシブだ。参考とすべき点は少なくない。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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