上海市とテスラは危険な賭けに大勝利、中国ナンバー2と世界ナンバー1を生み出す

高野悠介    2023年7月25日(火) 5時0分

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このところの明るいニュースといえば自動車産業だ。ここではテスラの中国事業が何をもたらしたのか取り上げよう。写真はテスラのディーラー。

中国メディアの関心はここ2~3年、IT巨頭から自動車産業に移った。IT巨頭が政府の厳しいチェックを受ける一方、新エネルギー車業界は政府の思惑通りの発展を遂げていた。このところの明るいニュースといえば自動車産業だ。ここではテスラの中国事業が何をもたらしたのか取り上げよう。

テスラの業績は絶好調

テスラの2022年の販売台数は、世界では131万4300万台、中国では43万9000台で全体の33%を占める。

2023年第2四半期(4-6月)の世界での販売台数は前年同期比83%増の46万6140台だった。テキサス州オースティンの工場の生産キャパ拡大や今年から始めた一連の値下げ戦略が功を奏した。粗利益率は低下したが、想定の範囲内だ。

中国市場の第2四半期の販売台数は前年同期比70%増の15万5000台だった。史上最高を記録したが、市場シェアは第1四半期(1-3月)の16%から13.7%に下がった。

とにかくテスラについては、イーロン・マスクCEOの動向を含め、あらゆる出来事や発言がニュースとなる。

上海市とテスラの大ばくち

そんな中、ネットメディア大手のテンセントニュースは「5年後、上海市とテスラの100億ドルの賭けの損得はどうなった?」と題する記事を掲載した。内容はおおむね以下の通り。

2018年当時、テスラにはコストの高いカリフォルニア工場しかなく、経営は行き詰まっていた。そのテスラに上海市は破格の厚遇を与えた。中国唯一の外資100%自動車メーカーとして認可しただけでなく、最低金利の3.9%で185億元の融資を提供し、工場用地取得代は市価の10分の1だった。これらはあらゆる自動車メーカーから羨望され、多くのネットユーザーから叱責を受けるほどの肩入れだった。

これらの強力なサポートを得て2018年7月に登記されると、6カ月後には上海ギガファクトリーの建設を開始し、2019年末にModel 3の発売にこぎつけた。この猛スピードは「上海速度」と称賛された。

厚遇の見返り

厚遇には当然見返りがある。その中心は次の3点だった。

1.2023年以降、毎年22億3000万元以上の納税を義務付け。もしできなければ工場用地は返還される。

2.2018年から5年間で140億8000万元を投資する。

3.すべてのパーツをローカライズする。

3が最も難しい条件のように見えるが、2022年ですでに国内調達率95%に達しているという。2022年の利益は1224億元とみられ、納税額は明らかになっていないが、これももはや問題ではない。経済的な目標はほぼ達成された。

テスラ上海のもう1つの役割は新エネルギー車産業の自立を促進することだ。テスラ上海の登場は新しいサプライヤーの出現とサプライチェーンの形成を促した。これらは新エネルギー車産業発展の基盤を作った。

さらに記事は、テスラは自動車生産の基準と評価システムを再構築したと称えている。それは自動車をソフトウェアによって再定義し始めたことだという。具体的に何を意味するのか。例えば一体成型のギガプレスが入るのかどうかわからないが、自動車生産の思想や意識を変化させたのだという。どれ一つ取っても、外資合弁からの上がりに依存した国有自動車企業にできることではなかった。

上海ギガファクトリーは理想的な職場か

上海ギガファクトリーの動静も詳しく報じられている。

出勤時には120台のバスが整列する。7人以上で申請すれば乗降ポイントとして認定され、バスがピックアップしてくれる。基本給は5300元(約10万円)で、これは一般の自動車工場よりはるかに高い。4勤2休制だが、日勤4日の後に夜勤4日を繰り返す。このシフトがきつく、やめていく人もいる。

福利厚生は充実している。養老(年金)保険、医療保険、失業保険、労災保険、生育保険、付加医療保険、住宅積立基金、企業年金の「六険両金」はもちろん、産休、育休、年休も充実し、さらに配偶者や子どもまで医療保険に加入できる。残業は年間432時間以内と決められ、四半期ごとのボーナス、さらに年末ボーナスもある。

研修制度も技術部門、管理部門ともに準備され、それぞれ昇進の道が開かれている。ただし体力的には厳しいとみられ、最初から25~35歳しか募集していない。長期雇用は想定していないようだが、従来型企業にはない理想的な工場に近い。テスラと上海市の両者とも賭けに勝ったといって間違いないだろう。

ナンバー1とナンバー2

イーロン・マスク氏のカウンターパートは李強上海市党委書記だった。浙江省瑞安市出身で、浙江農業大学から共青団に入り、キャリアを開始した。そのキャリアのほとんどを浙江省内で過ごし、2004~2007年は習近平浙江省党委書記の秘書長を務めた。その後、浙江省長、江蘇省党委書記を務め、2017年に上海市党委書記に就任した。そしてテスラ上海ギガファクトリー建設を主導し、2022年に政治局常務委員、2023年に国務院総理となり、中国のナンバー2にまで上り詰める。中央での職務経験のない国務院総理は異例中の異例だ。

テスラは2020年7月に株式時価総額でトヨタを上回り、その後イーロン・マスク氏は世界一の富豪となった。テスラは決算発表でコスト削減と新製品の開発に努めると声明を出した。そのいずれにもめどを付け、経営方針に揺らぎはない。

いずれの結果にも上海ギガファクトリーの貢献は大きく、特大の果実をもたらした。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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