BYD創業者が自動運転をナンセンスとこきおろす、同社唯一の弱点をカバーか

高野悠介    2023年5月10日(水) 6時0分

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モーターショーの直前にBYD創業者の王伝福氏が行った「自動運転はナンセンス」という発言を取り上げ、その真意を探ってみたい。写真は上海モーターショーのBYDブース。

上海モーターショー2023の注目度は極めて高かった。今もその余韻が続いている。日本メディアもさまざまな角度から詳細な報道を行ったが、中でも電池分野を含む中国EV車の進化は衝撃を与えた。ここでは、モーターショーの直前にBYD比亜迪)創業者の王伝福氏が行った「自動運転はナンセンス」という発言を取り上げ、その真意を探ってみたい。

■BYD…絶好調、売り上げ倍増

BYDの2022年決算は史上最高の内容だった。2022年の売上高は前年比96.2%増の4240億6100万元と倍増した。純利益に至っては前年比445%の166億2200万元だ。2021年には、新エネルギー車(EV車、燃料電池車、PHV)政府補助金が経常外収支の58.8%を占めていたが、2022年は5.9%に減り、本業で稼ぐようになっている。

2022年の新エネルギー車販売台数は前年比152.5%増の186万8500台で、国内市場の27%を占め、10年連続の首位だ。2023年も勢いは衰えず、第1四半期の販売台数は前年比92.4%増の54万7917台だった。2月発売の新型PHV「秦PLUS DM‐i冠軍版」は10万元(約195万円)を切る低価格で大ヒットした。4月末には、さらに安い7万8000元(約152万円)のEV車「海鴎」を発表。さらに100万元(約1950万円)クラスのスーパーカー「迎望」シリーズの発売も控えており、廉価版からハイエンドまでフルラインナップが完成する。

BYD躍進の秘密は、実はPHVにある。昨年の新エネルギー車の販売台数186万8500台のうち、PHVは前年比360%増の94万6000台だった。半分以上がPHVだ。内燃機関エンジン車からEVへのつなぎとされていたPHVを何度も改良し、その地位を確立させた。EV車への移行をためらう人々の手頃な受け皿となった。ハイブリッドは新エネルギー車に入らず、PHVなら入る。日本車排除の巧みなマーケティングだ。

中国メディアは、「BYDは中国自動車産業の頂点に上り詰め、新時代の証人となるだろう」とべた褒めだ。

■BYD創業者…自動運転はナンセンス

BYD創業者の王伝福氏は上海モーターショー直前、自動運転をこき下ろし、波紋が広がっている。王伝福氏のイメージは堅実な実務家だ。その王氏が「自動運転はすべてナンセンス、欺瞞であり、皇帝の新しい衣裳にすぎない。資本によって誇張された概念だ。究極の行きつく先は高度な運転サポートだ」「工場無人化すら難しい。自動運転はこの何万倍も難しい。自動運転への道がうまくいくかどうか、BYDは何万人ものエンジニアを動員して考えた。私は間違っていない」などと過激な発言を繰り返した。

BYDの自動運転はL2(部分的自動化)にとどまる。これに対し、直接のライバルである「造車新勢力」の小鵬汽車、理想汽車、蔚来汽車の3社は積極的にスマート運転技術を採用している。その中心技術は高精度マップとLiDAR(レーザー光を使ったセンサー)だ。これらをベースに、完全自動運転へのタイムスケジュールを立てている。

■高精度マップ、LiDARは不要?

ところが上海モーターショーでは、高精度マップやLiDARをブレークする研究が披露された。高精度マップは製作費の高さのほか、更新が遅く、現実とのギャップがあることなどが大きな欠点だった。そこでNOA(Navigate on Autopilot)と呼ばれる、高精度マップに基づかないカーナビアシストの研究が発表された。理想汽車は今年中に実装するという。

また、LiDAR関連の出品は昨年に比べて大幅に減少した。テスライーロン・マスクCEOは2020年から、北米でFSD(Full Self-Drive)というソフトを優良ユーザーに配布し、データ収集を始めていた。2022年11月のアップデートに関し、マスク氏は重要なマイルストーンを乗り越えたと発言した。データ分析の結果、マスク氏は高価なLiDARは搭載しないという。AIとカメラシステム、ビッグデータの活用で、自動運転を実現するつもりだ。

高精度マップやLiDARは無用のデバイスと化す可能性が浮上してきた。

■自動運転…BYD唯一の弱点か

BYDは自動運転を否定したものの、実は2018年以降、百度ファーウェイ、Momentaなどの先端企業と自動運転技術で提携している。それらの経験を踏まえ、自動運転はこのままでは先細り、新たな技術的ブレークスルーが必須と見定めたのかもしれない。

SNE Researchによると、2023年第1四半期の世界のEV車向けバッテリーシェアの上位4社は寧徳時代(CATL)35.6%、BYD16.2%、韓国LG14.2%、パナソニック9.0%だ。中でもBYDは前年比115.5%の大幅増となった。もともと電池メーカーだけに、バッテリーの供給はもちろん、研究開発にも死角はない。

また、トヨタやベンツとも提携している。トヨタとは2020年、互いに50%出資の合弁会社「比亜迪豊田電動車科技有限公司」を設立し、トヨタのEV車bZシリーズを共同開発した。ベンツとの合弁は2010年から開始し、努力を重ねて高級ブランド「騰勢(DENZA)」を発売した。「迎望」はその延長にある。

BYDの影響力は拡大し、万全のように見えるが、唯一の不安が自動運転部門ではないだろうか。その表れか、今年に入り米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)と提携した。自動運転の過激なまでの否定は、こうした新たな提携パートナーを呼び込むための計算されたパフォーマンスだったのかもしれない。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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