グローバルサウスの「正体」=中国とインドのどちらがリーダーか?―赤阪清隆・元国連事務次長

赤阪清隆    2023年4月4日(火) 8時0分

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最近、「グローバルサウス」なる言葉が、はやり言葉のように使われるようになっている。写真はインド。

最近、「グローバルサウス」なる言葉が、はやり言葉のように使われるようになっている。その定義はまだないものの、これまでの「開発途上国」や「第三世界」というのと大なり小なり変わらない模様だ。それなら、なぜこの言葉があちらこちらで使われるようになっているのだろうか?

グローバルサウスとは、アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカの地域に含まれる開発途上国や新興国の総称とみられる。先進国を意味するグローバルノースあるいはグローバルウエストに対比する呼び方であろう。一方にアメリカなどの西側先進国があり、他方に中国およびロシアという権威主義国が存在する現在の世界にあって、両者のあいだに位置する国々は、経済的、社会的な発展が北半球の先進国に比べて遅れ、しかも大半が南半球に属するので、グローバルサウスと呼ぶようになっていると思われる。

インドが、今年1月におよそ125カ国からの参加を得て「グローバルサウスの声」というオンライン・サミットを主催した。同サミットには中国は参加しておらず、岸田総理も国会答弁で、このグループに言及する際には、中国を含めていないと発言している。これまで、中国は開発途上国の多くを自国陣営に取り込もうと外交努力を重ねてきたが、もはや中国は世界第二位の経済大国だ。急速に台頭するインドのほうこそが、このグローバルサウスのリーダー格ないしは代弁者と見てよいのであろうか?

中国とインドのどちらがグローバルサウスのリーダーといえるかと、最近話題の「チャットGPT」に聞いてみると、「それは、それぞれの視点によって異なります」という、きわめて優等生的なものだった。経済面では中国がその経済力の大きさや影響力のためリーダーとされることが多いものの、政治や文化面ではインドがその英語発言力、民主主義などから大きな影響力を持っており、総じて、両国ともグローバルサウスにおいて重要な役割を果たしているとの回答であった。

グローバルサウスという言葉が使われ出すまでは、「開発途上国」あるいは「発展途上国」という言葉がよく使われていた。現在も、外務省や他の役所の文書などで使っていると思われるが、「開発途上国」あるいは「発展途上国」にも、国際的に厳格な定義があったわけではない。先進国でない国々を、そう呼んできたにすぎない。「アジア」の定義に似ている。アジアというのは、元来、ヨーロッパではない地域のことを指していたので、厳密な定義はなく、文脈によってアジアという地域に含める国は変化する。例えば、アジア競技大会には、イラン、クエートやカタールなども参加している。

それでは、「先進国」というのには定義があるのだろうか?実は、それもない。普通よく使われる尺度は、金持ち国のクラブと言われるOECD(経済協力開発機構)の加盟国だ。ヨーロッパ諸国を中心に、日、米を含め、現在38カ国がこのOECDの加盟国となっている。しかし、このOECDの加盟国よりも経済的に豊かな国がいくつかある。トルコはOECDの原加盟国だが、その経済レベルは比較的に低い。日本もOECD加盟国だが、日本よりも一人当たり国内総生産(GDP)が高くて、OECD加盟国でないのは、シンガポール、カタール、アラブ首長国連合だ。それでは、これらの国は先進国と呼んでよいのだろうか?

「開発途上国」という言葉を使う時によく使われる基準が、OECDが発表している政府開発援助(ODA)の受け取り国リストだ。最新のリスト(2022-23年)を見ると、2020年時点の一人当たり国民総所得(GNI)が12695ドル以下の国々、合計141カ国がリストアップされている。国連によって「後発開発途上国(LDC)」と分類された46カ国(アフガニスタン、カンボジア、ネパールなど)に加えて、世銀の分類による「低所得国」2カ国(北朝鮮、シリア)、「下位中所得国」36カ国(エジプト、インド、ウクライナ、インドネシア、ベトナムなど)、および「上位中所得国」57カ国(ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、コロンビア、コスタリカ、中国、マレイシア、モルドバ、タイ、南ア、トルコなど)だ。上位中所得国のうち、メキシコ、コロンビア、コスタリカとトルコは、現在OECD加盟国である。

このような基準に従えば、世界第二位の経済大国中国は、まだ途上国のグループに属すると言える。他方、シンガポールは属しない。しかし、話はさらに複雑になるが、国連には、1964年に発足した途上国と新興国による「G77プラス中国」という交渉グループが存在する。気候変動など様々な交渉で、途上国を代表する交渉グループだが、目下134カ国を抱え、この中には、中国、インドはもちろん、なんと日本よりも金持ちのシンガポール、カタール、アラブ首長国連邦もメンバーになっている。

国連での交渉、特に環境に関する交渉では、途上国が錦の旗とする原則がある。1992年のリオサミットで決まった環境と開発に関するリオ宣言の第7原則「共通だが差異のある責任」だ。地球環境の悪化は、すべての国に共通の責任があるものの、先進諸国の長年にわたる経済発展の仕方にこそ主たる責任があるとして、先進諸国は、開発途上国よりも差異のある、重い責任を有するという原則だ。気候変動のみならず、あらゆる環境関連の条約交渉で、途上国側はこの原則を盾に、義務的な約束は先進国と若干の経済移行国に押し付け、途上国が義務を課されることは断固拒否してきた。このように、途上国グループに属するということは、大変大きなメリットがある。

さらに話は一層複雑化するが、世界貿易機関(WTO)には、途上国優遇制度がある。そこでは、どの国が途上国であるかは、加盟時の自己申告に任されている。その結果、現在164のWTO加盟国中、約3分の2が、「途上国」を自称している。中国、インド、カタール、アラブ首長国連邦といった国々が、「途上国」として大手を振っている。これに業を煮やした米国は、2019年に一定の卒業基準を提案した。その提案は、OECD加盟国、G20メンバー、世銀の「高所得国」、世界貿易シェア0.5%以上の4つの要素を基準に、いずれかに該当すれば途上国待遇から卒業させようというものだ。しかし、いまだまとまっておらず、わずかに、台湾、ブラジル、シンガポール及び韓国の4カ国のみが、卒業に応じる宣言をしているにすぎない。

筆者がOECDに勤務していた時期(2003年から07年まで)、東南アジアでは、タイとインドネシア、それにマレーシアが、近い将来のOECD加盟に多大の関心を寄せた。特にタイは、当時のタクシン首相が2020年までのOECD入りを目指していたのだが、2006年に彼が退陣を余儀なくされたあと、OECD入りの件は頓挫した。なお、シンガポールは、特別に脆弱な都市国家などという理由と、先進国扱いされることのメリットを見出さないからか、OECDへの加盟には関心を示さなかった。そろそろ、これら東南アジア諸国のいくつかの国も、OECDに加盟して、名実ともに「先進国」を名乗ってもよい時期が近づいていると思われる。

以上のような様々な視点から見てみると、これまでの「先進国」対「途上国」という伝統的な構図や、国連での交渉グループとしての先進国グループ対途上国グループたる「G77プラス中国」という構図も、現実とはかなり食い違っているのがわかる。国連の環境交渉やWTOでは、常に、途上国の扱いが厄介な問題となってきた。象や虎のように大きな中国やインドが、「自国は途上国だ」といって、ネズミみたいに小さな他の国と同様に、優遇措置や差別待遇を要求してきた。米国などは、「ネズミの後ろに象が隠れている」と歯に衣着せぬ言い方で、このような状況を批判してきた。

グローバルサウスという言葉がはやり言葉になった一因は、途上国がもはや一枚岩ではなく、その中で、経済大国や、非常にリッチな国々と、まだまだ貧しい国々との格差が広がっており、すべてを「開発途上国」というくくりではとらえ難くなっていることがあげられよう。その実態をオブラートで包み隠すため、「グローバルサウス」という言葉は、曖昧ではあるものの、新鮮味があり、使いやすい新語とみなされるようになったのではないだろうか?特に、インドのように台頭著しい新興国にとっては、便利な言葉なのだろう。「開発途上国」だと主張してきたいくつかの国々が、実際上はだんだんと先進国を上回る経済レベルをおう歌するようになっているように、このグローバルサウスという言葉も、長い歴史の中では、一過性のはやり言葉で、実体の変化とともに、そのうちに消えてなくなるのかもしれない。

このような事情で、このグローバルサウスという言葉に、何かうさん臭いにおいが感じられてならない。従来から慣れ親しんだ「先進国」、「新興国」、「中進国」、「開発途上国」といった言葉遣いのほうが分かりやすい気がするのだが、それだと上述のような諸問題に直面してしまう。前述のWTOでのアメリカ提案のような、明確な基準があればこれも解決できるのだが、そのためには国際的な合意が必要だ。この国際的な合意が困難なのは、早く先進国グループに入りたいという途上国がある一方で、反対に、できるだけ長く途上国グループに残って、優遇措置を受けていたいと思う国もあって、意見がまとまらないからである。

現在途上国グループに属しているいくつかのリッチな国は、実態は先進国並みあるいはそれ以上だけれども、分類上は先進国と途上国との間のグレーゾーンにあるということだろうか?そして、このようなグレーゾーンにある国も、強いて言えば、グローバルサウスに属しているとみるべきなのだろうか?曖昧な言葉だけに、融通無碍な使い方ができる言葉ではある。

「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」(方丈記)―他の国のことはいざ知らず、急速な人口減少の日本の将来も心配だ。グローバルサウスの後任の、そのまた後任のグループ名ができるような将来に、「日本もメンバーになりませんか?」という声がかからないことを望みたい。

■筆者プロフィール:赤阪清隆

公益財団法人ニッポンドットコム理事長。京都大学、ケンブリッジ大学卒。外務省国際社会協力部審議官ほか。経済協力開発機構(OECD)事務次長、国連事務次長、フォーリン・プレスセンター理事長等を歴任。2022年6月から現職。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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