村上直久 2023年3月9日(木) 5時0分
拡大
ウクライナではロシアとの戦争で経済が大幅に縮小している。
ウクライナではロシアとの戦争で経済が大幅に縮小している。同国の経済省によると、2022年の縮小幅は30.4%に達した。主要農産物であるトウモロコシや小麦の輸出は滞り、ロシア軍の猛烈な空爆にさらされている東部では金属工場群の操業が停止に追い込まれている。こうした中で、戦時下のウクライナ経済の構造は急速な変化を迫られている。一方、ロシア経済は持ち堪(こた)えているようだ。昨年の同国経済の縮小幅は約3%にとどまったと推定されている。これは、対ロ経済制裁を行っている欧州諸国からの原材料・部品がトルコやジョージアなどを経由してロシアに活発に輸入されているためとみられる。
昨年の経済の縮小幅は、ウクライナが1991年に旧ソ連から独立して以来、最大となった。国際通貨基金(IMF)と世界銀行はより悲観的で、ウクライナ経済は22年には35%縮小したと試算している。
ウクライナでは現在、政府支出の3分の1が戦争遂行費用に充当され、典型的な「戦時経済」に陥っている。同国では多くの産業やインフラが部分的もしくは完全に破壊されたと米紙ニューヨーク・タイムズは報じた。そうした中で一部のウクライナ企業は事業所を比較的安全な西部に移転したり、新規分野に参入するなどの工夫を重ねたりして、適応力や強靭性を発揮している。
ウクライナ経済の主要なエンジンとも言える輸出は昨年35%急減した。中でも農産物輸出は、国連の仲介にもかかわらず、ロシアはウクライナからの輸出の大半をブロックし続けている。加えてエネルギー関連施設へのミサイル・ドローン攻撃で食料の流通が妨げられ、ウクライナから途上国への食料輸出が停滞しており、多くの途上国で食料危機を誘発している。
ウクライナからの穀物輸出は今では月間500万~600万トンで、侵攻前の800万トンから大きく落ち込んでいる。
ウクライナの都市を標的としたロシアのミサイル攻撃はウクライナの住宅や輸送網・エネルギーインフラに多大な損害を及ぼしてきた。キーウ大学経済学部大学院は昨年9月時点で、戦争に起因するウクライナのインフラへの直接損害額を1270億ドルと試算している。
ウクライナ政府当局者は同国の復興費用は7500億ドルに上ると見積もっている(世界銀行の見積もりは3490億ドル)。復興費用の大半は米国と欧州諸国が拠出すると予想される。ドイツのキール経済研究所によると、欧州連合(EU)はこれまで軍事援助、財政支援、人道支援で550億ドルの支出を表明。米国は510億ドルの支出を約束している。23年について国際通貨基金は、戦争の行方が不透明とし、ウクライナ経済は悲観的なシナリオとしては10%の縮小、楽観的なシナリオでは10%の成長を見込んでいる。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、同国に対する西側の大規模な経済制裁の影響は厳しいものになるとみられていた。しかし、ロシア産原油の中国・インド向け輸出の大幅な増加やトルコとジョージアを経由する欧州からの原材料、部品の輸入ルートの存在が制裁の影響を緩和し、事実上の抜け道となっている。
ニューヨーク・タイムズによると、ロシアに欧州からの物資を運ぶトラックの列は次第に長くなる傾向があり、時には国境から約100キロ離れたジョージアの首都トビリシにまで達することもあるという。トルコ―ロシア間の陸上貨物輸送量は22年前半、前年同期の3倍となり、その大半はジョージア経由だった。旧ソ連に属したジョージアは2008年のロシアによる侵攻などを受けて今では西側志向だが、経済的には依然ロシアに依存しているという。
ロシアは欧州から原材料や部品を輸入し、それらを使って同国の工場で製品を生産している。トルコ―ロシア・ルートにより、ロシアの欧州からの輸入は22年12月までにウクライナ戦争以前の水準まで回復した。
昨年2月の開戦以来1年以上経過したウクライナ戦争は膠着状態となっているが、経済のパフォーマンスではロシアとウクライナは明暗を大きく分けた形となっている。
■筆者プロフィール:村上直久
1975年時事通信社入社。UPI通信ニューヨーク本社出向、ブリュッセル特派員、外国経済部次長を経て退職。長岡技術科学大学で常勤で教鞭を執った後、退職。現在、時事総合研究所客員研究員。学術博士。
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