Record China 2014年7月4日(金) 23時10分
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「セントラル地区占拠運動」とは香港中心部の官庁・金融・ビジネス街である「中環(セントラル)地区」を1万人程度の市民で埋め尽くして、香港の行政や金融機能を麻痺させることだ。写真は香港市街地。2枚目はマーチン・リー氏。
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「セントラル地区占拠運動」とは香港中心部の官庁・金融・ビジネス街である「中環(セントラル)地区」を1万人程度の市民で埋め尽くして、香港の行政や金融機能を麻痺させることだ。これによって、香港では3年後に迫っている2017年、香港のトップである行政長官の選挙に一般市民も立候補でき、議会選挙でも完全で民主的な自由選挙システムを導入するという民意をはっきりさせ、北京の中央政府に圧力をかけ、香港の民主化を実現しようという奇抜なアイデアだ。
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これを発案したのが香港の名門、香港大学の戴耀廷副教授で、一昨年1月に「愛と平和によるセントラル占領運動」として公表。瞬く間にメディアの注目の的となり、急速に市民の支持を集めている。
香港最大の民主派団体「香港市民愛国民主運動支援聯合会」(支聯会)も戴氏の運動に支持を表明。支聯会は6月4日、ビクトリア公園での天安門事件25周年の追悼集会を主催し、18万人の市民を結集しただけに、「両者が協力すれば、セントラル地区を市民で埋め尽くすのはたやすいのではないか」(香港の外交筋)との見方も出ている。
▼セントラル地区の占拠は可能か
香港特別行政区政府の内部予測によると、運動参加者が2000人だけでも、セントラル地区の公共鉄道(MTR)の出入り口や主要道路をふさぐことができ、香港の行政・金融機能は麻痺し深刻な影響をもたらす。さらに、立法会庁舎は四方八方から出入りできるため、警備は極めて難しく、市民らが数百人でも押し寄せれば、すぐに内部に入り込め、占拠は容易だと分析。
また、香港政府ビルや香港上海銀行、多数の外国銀行や企業の本社機能が集中するセントラル地区占拠が長期化すれば、治安が不安定になり、周辺の不動産価格は暴落し、観光客も激減する可能性が大きい。「最悪の場合、経済的損失は毎日100億香港ドル(約1600億円)にも達し、香港の失業者も急増する」と内部予測は推定する。
「7月1日のデモ後、一部学生らのセントラル占拠の試みは失敗したが、民主派グループは年内にも再度実行すると宣言しており、これが現実化すれば、『東洋の真珠』と讃えられた香港の自由貿易港や国際金融都市というアジア経済の中心としての機能は完全に麻痺し、真珠の輝きは消え、混乱が続く軍事管制下の現在のバンコクのような状態に陥ることが予想される」と前出の外交筋は懸念する。
▼意外な人物に注目集まる
事態がまさに風雲急を告げようとしているなか、立法会占拠事件翌日の7日、予想外の人物の発言が香港中を震撼させた。その人物は1990年1月から97年7月の香港返還までの7年半、香港における実質的な中国政府トップを務めた周南元新華通信社香港支社長である。周氏は外務次官を経験した外務官僚出身で、当時の香港の宗主国だった英国政府や、最後の香港総督を務め香港の民主化を主張したクリストファー・パッテン総督を相手に激しい論戦や外交戦を展開したことで知られる。
しかし、周氏はすでに香港返還後に引退生活に入り、17年間も公の場に姿を現していない。香港ですら、その存在を忘れかけていた“亡霊”のような人物が突如、姿を現し、中国系香港メディア「文匯報」などのインタビューに応じ、セントラル地区占拠運動を激しく批判したのだ。
周氏は「運動は香港の法治に危害を加え、反中勢力の意図を体して、香港政府の統治権を奪おうというものだ。これは『台湾独立』と同じ論理であり、絶対に許されない」と運動は非合法であり犯罪行為だと指弾する。
周氏は「北京の中央政府は香港の高度な自治に干渉はしないが、香港で動乱が発生すれば、中央は一定の権利を保留する」と述べたうえで、香港返還当時の最高実力者、トウ小平氏の発言を引用して、「香港駐留人民解放軍は国家主権の象徴のような存在だが、それは一つの効能がある。動乱の発生を未然に阻止するばかりでなく、動乱が発生すれば、即時に処理させることだ」と主張。さらに、周氏は「動乱が発生すれば、中央政府は戒厳状態を宣言する。もし、香港で国家の根本利益が損害を受け、大陸の社会主義政権を転覆するための基地と化したら、中央は必ず関与し、適切に処置しなければならない」と語り、香港のセントラル地区占拠が現実化すれば、デモ隊排除のため、北京の習近平指導部が軍を導入することもあり得るとの見方を強調した。
▼中国政府、「香港白書」発表
周氏の発言から3日後の6月10日、中国政府は初の「香港白書」を発表。「香港で約束されている『高度の自治』は、完全な自治ではなく、地方分権的な権限でもない。それは中央指導部の承認に基づき、地方を運営する権限である。一部の市民はこの『一国家二制度』を十分理解していない」と述べて、「外部勢力」が香港を利用して中国の内政に介入したり、一部の香港人が「外部勢力」と結託して一国二制度を破壊することを防がなければならないと強く警告を発した。
この「外部勢力」とは米国を指すとみられている。香港の民主派指導者で、民主党を創設して初代代表を務めた李柱銘(マーチン・リー)氏や、香港特別行政区政府のナンバー2の政務官だった陳方安生(アンソン・チャン)氏が3月に訪米し、ホワイトハウスで会談。香港のトップである行政長官の次期選挙が3年後の2017年に行われるが、「中国共産党が選んだ候補しか出馬できない懸念が強い」と訴えたからだ。
このような運動に対する中国によるあからさまな干渉に民主派勢力は強く反発。運動の提唱者である戴氏は「この時期に、周南氏の発言や白書が発表されたのは香港の人々を恐怖に陥れようという狙いがあるのは明らかだ。我々が呼びかけているのは香港を動乱に巻き込むことではない。運動を通じて、公民が命をかけてでも、最終的に完全で自由な普通選挙を実施することだ。彼らが『罪を償え』と言うのならば、我々を逮捕し起訴すればよい。その結果、われわれには最初から政府を転覆する意図なぞないことが分かるだろう」と運動の正当性を力説する。
李柱銘氏は「周南氏の発言は詭弁であり、こじつけで、運動参加者を減らそうという意図がみえみえだ。運動に対処するのは香港の現在の警察力で十分であり、習近平中国国家主席も軽々に駐留軍を出動させるわけにはいかないだろう。軍を導入するのは警察力で抗しきれなくなったときであり、二の次、三の次の策だ」と中国政府の軍導入に否定的な見方を示した。
◆筆者プロフィール:相馬勝
1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。
著書に「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)など多数。
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