中国新聞社 2022年11月27日(日) 23時40分
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人類の歴史は30万年に及ぶが、急激に変化したのは過去200年に限られる。進歩は何をもたらしたのか。そしてコロナ禍は人類の港に何をもたらすのか。写真は貿易で栄えるドイツのハンブルク港。
現生人類、すなわちホモ・サピエンスが出現したのは、今から約30万年前とされている。しかし長きにわたって「停滞の歴史」が続いた。人類が農業という新たな食料入手の手段を手にして社会の変化が始まったのは今から数千年前だった。それ以上の人類の激変が始まったのは、今から200年ほど前だ。200年の年月とは、人類30万年の歴史を1日に圧縮すれば、わずか58秒ほどだ。この短い時間内に人類のうちのわずかな一部は、物質面で豊かな生活を享受できるようになった。しかし多くの人は取り残された。すなわち格差の発生だ。いったい何が起こったのか、何が起こりつつあるのか。統一成長理論の提唱者である米ブラウン大学のオデット・ガロー教授は、人類30万年の歴史を見据えた上で、新型コロナウイルス感染症は、人類に新たな進歩、すなわち「福」をもたらす可能性があると主張する。ガロー教授はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、自らの歴史認識を披露した。以下はガロー教授に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。
■人類は長い長い停滞の歴史の後に急激に変化しはじめた
私は今年になってから出版した著作の「人類の旅:富と不平等の起原」で、30万年に近いホモ・サピエンスの出現と人類社会の進化を扱った。この著作では、人類の旅をめぐる2つの最も基本的な謎を解いた。
第一の謎は、長期にわたって停滞していた人類が、過去200年間でなぜ、劇的に変化したのかだ。過去200年間で世界の1人当たり所得は14倍になり、平均寿命は2倍以上になった。このような変化はなぜ、それ以前には発生しなかったのか。第二の謎は、国や地域よる不平等の根源は何か、ということだ。同時に、この不平等がなぜ、過去200年で急速に進行したかだ。
私の統一成長理論では、人類が出現して以来、長期にわたって、イノベーションがあっても、それが経済の繁栄を促進したのは、たかだか数世代という期間だったと認識している。イノベーションにより生産性は向上するが、すぐに人口の増加がもたらされ、一人当たりが受ける恩恵は元の木阿弥になってしまうからだ。すなわち「停滞の歴史」だ。そしてその結果として、19世紀初頭まで、世界のさまざまな地域の経済格差は、比較的穏やかだった。
しかし、19世紀になってから現在までに、世界の1人当たりの所得はそれまでの14倍になった。このことが大きな格差をもたらした。まず19世紀初頭に一部の国で経済が急成長した。20世紀の末にも、多くの開発途上国が急速に発展する現象が発生した。
早い時期に経済を発展させた先進国では現在、投下資本利益率が低下し、技術の進歩も独占できなくなった。そのため、中国のような経済急成長の後発組の急成長が目立つようになった。先進国との格差を縮める国の出現だ。
■新型コロナは人類にとって「災い転じて福」の可能性あり
新型コロナウイルス感染症にも注目せねばならない。単発の問題としてではなく、これから先にも直面するであろう、大きな試練への人類の対応能力に関係するからだ。人類はまず、大きな問題に対する自らの脆弱(ぜいじゃく)さを思い知らされることになった。そして、相互依存する世界では、国際協力と透明性が重要であることが、強調されるようになった。
また、新型コロナウイルスの流行は、企業の生産方式や従業員の福利厚生に永続的に有益な影響を及ぼす可能性がある。人類は、仕事の変革を強制された。例えば企業は従業員に、在宅勤務を認めざるを得なくなった。その結果、在宅勤務による生産性の低下はそれほど大きくなく、従業員が得られる恩恵は相当に大きいことが分かった。
雇用側もとしても、用意せねばならないオフィスの規模は小さくなり、交通費支給も削減できる。従業員のために職場環境を整える費用も削減できる。とすれば、コロナ禍の中から、新たな仕事のモデルが登場するかもしれない。
もちろん、このような変革は技術の進歩が大前提だ。実際には、技術革新の速度は落ちるのではないかとの見方もある。しかし私は、そのような悲観論には賛同できない。技術進歩の速度は維持され、人類が未来への旅に向かう変革の輪は回り続けると思う。
ただし、将来の方向性と教育を、より重視せねばならない。そして、繁栄の鍵となる性の平等、多様性、差異を尊重せねばならない。これらは、イノベーションを促進し、社会のぎくしゃくした部分を減らす力となる。
次の技術革命の中心的な特徴を特定するのは時期尚早かもしれないが、より安価で環境に優しいエネルギーを取り出すことを可能にするイノベーションや、人間の生命を著しく延長し認知機能を改善することを可能にするイノベーションが出現するかもしれない。
■少子高齢化も人類に「福」をもたらす可能性、ただし「大前提」がある
先進国ではいずれも、少子高齢化が進んでいる。今のところは開発途上国に位置づけられる中国でも、2021年には人口1000人当たりの出生数が7.52人と、1990年の21.1人に比べて大きく下落した。中国でも少子高齢化の傾向は顕著だ。
しかし私は、人口増加率と最終的な世界人口の減少は、世界に利益をもたらすと考えている。例えば、人類の活動のよる環境への負荷を減少させることにもつながるだろう。ただし、人口増加率の低下を人類の利益に結び付ける大前提は、若年層の教育水準と生産性の大幅な向上だ。若年層の生産性が大幅に向上せねばならない。生物というものは、子孫を増やそうという本能がある。しかし人類の場合、人口という「量の増加」を求める方向性を、一人ひとりの生活を改善することを最優先する「質の向上」の追求に転換できる可能性がある。それができれば、世界の人口が減少しつつある中で、一人当たりの収入は増加することになる。
第二次世界大戦終結後に発生したグローバル化は、世界経済の成長に重要な役割を果たしてきた。しかし現在は、一部の地域で紛争がこの重要な流れを危うくしている。私は、米中両国が政治の手段を通じて相互信頼を構築し、グローバル化の度合いの低下と、その世界経済全体への悪影響を防止することを望む。中国の過去数十年間の著しい成長が、中国自身と世界経済の両方に大きな恩恵をもたらしたことは事実だ。(構成 / 如月隼人)
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Record China
2022/11/21
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