独身の日「ダブルイレブン」セールの売り上げ発表を見送り、ネット通販新時代の幕開けとなるか

高野悠介    2022年11月24日(木) 6時0分

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14回目を迎えた中国最大の小売イベント「ダブルイレブン」が終わった。しかし、例年とは様相が異なり、ひどく大人しかった。資料写真。

14回目を迎えた中国最大の小売イベント「双11(ダブルイレブン)」(11月11日独身の日セール)が終わった。しかし、例年とは様相が異なり、ひどく大人しかった。GMV(Gross Merchandise Value=流通取引総額)を速報するおなじみのカウントダウンイベント中止はされ、昨年まで大々的に展開されたプロモーションもさっぱりだった。中国の個人消費の指標であり、多くの日本企業も関わっている。この大きな変化の真相に迫ってみたい。

■データの発表なし…アリババ、京東が示し合わせ?

最大の不思議は、GMVの発表がないことだ。この数字は、中国の個人消費の動態を表す格好の指標として、世界中の注目を集めていた。

2021年の双11では、全通販サイトのGMVは9651億元に達した。そのうちアリババが5403億元、京東が3491億元と、この2トップで全体の92%を占めた。その2社とも音沙汰なしというのは、示し合わせた行動に間違いない。特にアリババのそれは、中国小売業と経済成長の象徴だった。推移は以下の通り。13年間でなんと1万倍以上に増加した。

2009年 5000万元

2010年 9億3600万元

2011年 52億元

2012年 191億元

2013年 352億元

2014年 571億元

2015年 912億元

2016年 1207億元

2017年 1683億元

2018年 2135億元

2019年 2683億元

2020年 4982億元

2021年 5403億元

以前は、ユニクロがレディース、メンズ、インナーの衣料3冠王に輝いた、ヤーマンの美顔器が大きく伸びた、パナソニックがバス、キッチン商品で多数ランクインしたなど、日本のブランド情報も豊富にあった。しかし、今年はそれらもほとんど表に出てこない。

■実際の数字は…公式発表の60%?

中国メディアも真相に迫ろうとしている。調査機関、星図数据のレポートによれば、今年の双11の全サイトの流通取引総額は前年比15.6%増の1兆1154億元だった。この数字だけを見れば順調だ。

しかし、実態は額面どおりではないようだ。ネット通販界のオピニオンリーダー、李成東氏が2020年に結成した「海豚社」という組織がある。EコマースとO2Oなどの新消費、新国産商品などを考える先端のコミュニティーで、20社以上の100億元級ネット通販創業者、500社以上の新国産ブランド創始者が参加している。

この海豚社メンバーによれば、大部分の双11加盟業者が売り上げを落とすダウントレンドに間違いないという。そして実際に納品完了した商品の総額はGMV公称データより40%ほど少ないと指摘した。例えばあるジュエリーは1億元の予約注文があった。しかし出荷前に50%がキャンセルされた。残り5000万元分のうち、実際に決済され出荷されたのは、またその50%だった。配達された商品のうち、さらに50%が返品され戻ってきた。こうしたケースでは、どの時点のGMVをカウントしているのか定かではない。

■その他のデータ…下降は鮮明

国家統計局データによれば、11月1~11日の全国の宅急便取扱量は前年比10.6%減少した。11月11日当日に限れば20.7%の減少だった。また、中金交運という民間物流企業によれば、セール期間の1日平均集荷量は前年比9%減の3億8800万件だった。2021年は平均4億2500万件で、前年比18%も伸びていた。

アリババのプレセール(本番前の10月24日~10月31日)データが発表されている。なお、このデータも双11の全体GMVに含まれる。それによれば、主力の化粧品・コスメが5.2%減、服装・バッグが42%減だった。一方、家電は40.6%増、ペットは44.2%増、文具は11.4%増となっているが、構成比3分の1を占める化粧品・コスメの減少が大きく、全体では3.4%減だった。この数字もセールの全体傾向を表していると考えられる。

■アリババと京東…実体経済への貢献を宣言

11月11日夜、アリババ国内デジタル商業部門責任者は、「我々は今年の双11を通じて、国内市場の巨大な潜在力と消費活力、中国経済と産業の持続的回復を見た。我々は実体経済の発展にさらに奉仕できる自信がある」と述べた。京東の小売部門責任者も「我々は、実体経済の一員として、すべてのパートナーと手を携え、より強固な実体経済の建設に最大の貢献をする」と述べている。ここでも示し合わせたように実体経済を強調した。これまでのGMV競争は実体ではなかったと告白したようにも見える。一方で、過酷な争いをリセットできるとホッとしているようでもある。

■イノベーション…新勢力の台頭

業界消息筋は、今後のネット通販の発展には商品とビジネスモデル、双方のイノベーションが欠かせないと強調する。

例えば、ショートビデオアプリ、抖音(海外名TikTok)だ。抖音の発表によれば、ライブコマース「抖音電商」の10月31日~11月11日の加盟業者は86%増、延べ3821万時間のライブにより、100万元を売り上げた番組は7667に達した。抖音電商最大の特色は、MAU6億8000万(2022年6月)を生かし、「興趣(興味)電商」を構築しつつあることだ。膨大なショート動画の投稿、視聴履歴からユーザーの興味分野の商品を割り出し推奨する。商品検索と購入履歴に依存した従来型のレコメンド機能にはない画期的な仕組みだ。ビジネスモデルのイノベーションが進行している好例だろう。

何の発表もなく、うやむやに終わった感の強い2022年の双11だが、ネット通販新時代への契機ともなりそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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