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<台湾危機をどう見るか> 中国と米国の出方と日本の方策を探る―赤阪清隆元国連事務次長

赤阪清隆    2022年10月22日(土) 9時0分

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最近つとに台湾海峡が緊迫の度合いを深めている。写真は台北。

最近つとに台湾海峡が緊迫の度合いを深めている。8月上旬、米国のナンシー・ペロシ下院議長の訪台を受けて、中国が大規模な軍事演習に踏み切ったことから、日本のメディアはこぞって、台湾への中国の武力行使の可能性が深刻に懸念される事態となったと報じるに至っている。

10月16日に開幕された共産党大会でも、習近平国家主席は、異例の国家主席三期目の決定を前に、台湾統一について、「最大の誠意と努力で平和的統一を実現するが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を残す。統一は必ず実現しなければならず、必ず実現できる」(読売新聞による)との強硬な姿勢を示した。このような状況を背景に、メディアが伝える緊迫の台湾情勢に関する識者の意見は、(1)中国は台湾の武力統一に踏み切るか、(2)米国は台湾を本当に防衛するか、および(3)日本はどうすべきかの三点を共通のテーマとしている。

◆中国は台湾の武力統一に踏み切るか

習近平主席は「決して武力行使の放棄を約束しない」と明言したが、はたして中国は本当に台湾に武力侵攻する意図があるのか、あるとしたら「いつ」か?

目下のところ、2020年代後半にもありうるという見方と、武力による統一の可能性を最後の手段として残しつつも、習近平国家主席は可能な限り平和的な統一を目指すとの見方が、識者の間では拮抗している。

前者の見方は、2021年3月に、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)が、6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性に言及して以来、米軍の関係者からしきりに表明されてきた。他方、後者は、中国問題の専門家に多い説だと言われる。中国は、現在進行中のロシアによるウクライナ侵略の事態の展開と、主として西側諸国によるロシアに対する制裁の動向を注意深く見守っていると見られる。武力による台湾統一の試みがなされた際に、ロシアのウクライナ侵攻と同様のシナリオが繰り返される可能性は高い。

マイケル・ベックリー米国タフツ大学准教授は、今後の5~7年間がおそらく最も危険な時期になると見る(『中央公論』11月号、「米国は中国を抑止できるか」)。中国が台湾の「封鎖」や「上陸侵攻」に必要な軍事力の整備を終えるからである。台湾の国家政策研究基金会の掲仲(けいちゅう)副研究員は、台湾海峡危機が起きる可能性が最も高まるのは、2030年から2035年にかけての時期と判断する。その時期には、中国が速戦即決で台湾侵攻を遂行する能力が整えられる時期となるからだ(『文藝春秋』11月号、「台湾危機「自衛隊は一緒に戦って」)。

他方、日経新聞コメンテーターの秋田浩之氏は、侵攻リスクを測る基準としては、中国軍の能力から判断するよりも、習近平国家主席の意図を重視しての予測のほうが現時点では妥当と見る(『VOICE』11月号、「台湾消滅」が招く現秩序の瓦解」)。この観点からは、仮に27年ごろまでに能力を整えたとしても、絶対に成功する確証がなければ、軍事オプションは取れないという見方を支持している。同様に、松田康博東京大学教授も、現在の中国にとって、台湾統一の優先順位はまだ高くなく、また武力統一の能力も足りないため、むしろ時間をかけて大軍拡を進め、米国が内向きになる瞬間を待ってその介入を抑止し、戦わずして台湾を屈服させる「強制的平和統一」の道を選ぶと推測している(『外交』9・10月号、「ペロシ訪台で顕在化した台湾海峡のリスク」)。ただし、松田氏は、台湾が屈服しなければ武力で統一するという、和戦合一の統一戦略を中国がとると見ており、武力行使の可能性を排除しているわけではない。

◆米国は台湾を本当に防衛するか

米国の台湾に対する防衛方針は、1979年の台湾関係法に基づく「戦略的あいまいさ」を特徴としてきたが、最近に至って、バイデン大統領が、たびたび台湾防衛について踏み込んだ発言を行っているほか、リチャード・ハース米外交問題協議会評議会会長などの識者から、有事の際の米軍の介入につき、「戦略的明確さ」へと舵を切るべきとの提言も行われつつある。このような中、米上院外交委員会は、9月14日、台湾への軍事支援の強化と、中国が台湾に対し敵対行為に出た場合の対中制裁を盛り込んだ台湾政策法案を可決した。

一方、米世論は、7月下旬に行われたシカゴ外交問題評議会の世論調査によれば、中国が台湾を侵略した場合、大多数が外交的、経済的な制裁(76%)や、追加的な武器の提供、台湾封鎖を阻止するための米海軍の派遣を支持したものの、台湾防衛のために米軍を派兵することを支持したのは、40%にとどまった。これに対し、台湾の国防部が設立したシンクタンク「国防安全研究院」が8月中旬に台湾で行った世論調査では、中台戦争が勃発した場合、米国は派兵して台湾を助けると思うかとの問いに、回答者の50%が、「派兵する」と答えている。ペロシ米下院議長の訪台直後でもあり、台湾の米国への期待が高まっていたと思われる。

マイケル・ベックリー米国タフツ大学准教授は、中国による台湾侵略の際、初動の対応を担うのは主に米軍と台湾軍になるが、戦争が中国による沖縄の米軍基地への攻撃で始まった場合には、米国は日本に単なる後方支援ではなく、中国との戦闘に参加することを求めるだろう、と予測する。同教授は、米国議会が台湾を見捨てることよりも、台湾に過剰な支援を行うというシグナルを中国に送ることのほうが心配であり、このような米議会の動きは、台湾の独立に向けた主張を強める可能性もあるほか、中国政府に軍事的解決を促す契機となるかもしれないとの懸念を表明している。

ジョゼフ・ナイ・ハーバード大学教授も、アメリカは台湾海峡で、中国の武力行使を阻むことと、台湾の法的な独立を阻止するという「二重の抑止」目的を持っており、台湾が独立を宣言したら米軍を派遣する意欲は格段に下がろうが、挑発なしに中国が台湾に一方的に侵攻すれば、状況は変わると説明している(『VOICE』11月号、「米国が中台に効かせる『二重の抑止』)。米軍の台湾有事への介入時期について、掲仲(けいちゅう)副研究員は、米軍は最終的には軍事介入すると思うが、すぐには政治的判断を下せない可能性もあり、そのタイミングが遅れることはあり得ると述べている。米軍が軍事介入に慎重な姿勢を示すかもしれず、適切なタイミングで台湾が米国から中分な支援を受けられない懸念があると指摘している。

◆日本はどうすべきか

日本政府は、台湾をめぐる問題は中台間の直接の話し合いを通じての平和的な解決を期待するとの公の立場を変えてはいない。しかし、昨年12月に安倍元首相が「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事である」と講演会で発言したように、台湾有事は日本にとっても有事となるとの一般的認識は広がっている。現に、日本経済新聞が8月上旬に行った世論調査によれば、中国と台湾が軍事衝突した場合に日本が巻き込まれる可能性について「恐れを感じる」との回答が、81パーセントにも達した。同紙は、8月上旬の中国の大規模な軍事演習では、5発の弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)に落下しており、政府や自民党で、台湾有事が日本有事につながるとの危機感が高まったと報じた。このように、日本での台湾危機への見方は、日本も「紛争に巻き込まれる」可能性を懸念する声が主流で、このため、後方支援や在留邦人保護などの危機対応を準備しておくべきとの議論が多い。これまでのところ、日本国憲法の制約もあり、日本自体の自衛の範囲を超えて、台湾防衛に日本も関与すべしとの議論は少ない。

◆日本の防衛力強化を求める声、内外から増大

松田康博東京大学教授は、習近平の「強制的な平和統一」を単なるスローガンに変質させることが大事であり、このため、台湾の国防力強化や日本の防衛力の抜本的強化が必要であり、中国の動きを注視し、次にやろうとしていることを予防的に無効化することを訴える。習近平の次の指導者は、政治的混乱と経済的停滞に直面し、身動きできなくなっているはずであり、それまでの時間を稼ぐのが大事と主張している。

ジョゼフ・ナイ教授も、日本が今進めている軍事増強の動きをさらに加速すべきで、日米が同盟関係において効果的に協力して行動していると中国に認識させることが、最大の抑止力になると力説している。佐藤正久参議院議員(前自民党外交部会長)は、10月8日付のニッポンドットコムとのインタビュー記事で、台湾有事の際の邦人保護あるいは第三国の国民保護といった点につき、日米両政府と台湾政府との間で事前調整をしておくことが必要と強調している。ウクライナの人々がポーランド経由で第三国へ避難したように、台湾有事では、避難する人々が日本経由で第三国へ移動することになると予測する。台湾有事を未然に防ぐ外交について佐藤氏は、日、米、豪、加、英、仏などの自由主義陣営の総和が中国の台湾進攻能力や軍事力を上回る体制を整えておく必要があると強調している。*

本年末までに日本の防衛政策につき、安全保障三文書(国家安全保障戦略、防衛大綱、および中期防衛力整備計画)の改定が行われることが予定されており、台湾有事の際の日本の対応についても含まれることが予想される。北岡伸一東京大学名誉教授は、ニッポンドットコムへの記事で、日本の安全保障環境は切迫さを増しており、三文書改正にエネルギーを割くよりも、台湾有事の際の米国との事前協議や在留日本人の避難などの目の前の課題を実行可能にすることが急務だと訴えている(9月6日付ニッポンドットコム、「日本が抱える安全保障・防衛政策の課題―三文書の改正をめぐって」)。このように、台湾に向けた中国の動きをにらみつつ、有事の際の日本の対応について、今後日本国内での議論がますます活発化することが予想される。

■筆者プロフィール:赤阪清隆

公益財団法人ニッポンドットコム理事長。京都大学、ケンブリッジ大学卒。外務省国際社会協力部審議官ほか。経済協力開発機構(OECD)事務次長、国連事務次長、フォーリン・プレスセンター理事長等を歴任。2022年6月から現職。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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