高度に発展した中国音楽、西洋より進んだ理論や音楽療法も存在した―専門家が解説

中国新聞社    2022年9月18日(日) 23時0分

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中国では古くから音楽が重視された。音楽美学や理論も高度に発達した。写真は二胡の演奏風景。ピアノのような西洋楽器との合奏も、盛んに行われている。

中国では極めて古い時代から音楽が重視された。中国は、歴史を通じて音楽における「律学」が極めて発達した国でもある。律学とは音楽の旋律で使うド、レ、ミなどの音の高さを厳密に決める理論だ。簡単そうにも思えるが、定め方にはさまざまな方式があり、いずれも極めて高度な知的作業が必要だ。現代五弦琵琶の演奏家で、ネットなどでも人気ある方錦竜さんはこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、中国伝統音楽の特徴や現状を解説した。以下は方さんの言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■さまざまな音楽文化が融合、人と自然の調和や人間性の表出を重視

中国音楽の旋律ではド、レ、ミ、ソ、ラの5音しか使われない場合が多い。ペンタトニックなどと呼ばれる音階だ。ごく大雑把に言えば、西洋音楽では基本的にド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シの7音を使う。だから、使う音が少ない中国音楽は西洋音楽より劣ると極論する人まで出現した。

まず知らねばならないのは、中国音楽は必ずしもペンタトニックではないことだ。中国河南省舞陽県賈湖村で1980年代に見つかった新石器時代前期からは、精巧な骨笛が26本出土した。このことから、中国では7000-9000年前に、楽器が用いられていたことが分かる。しかも指穴の位置から、出土した笛には1オクターブ内で8音を出せるものもあることが分かった。

中国の伝統音楽は、黄河流域を中心とする中原音楽に、周辺から入って来た音楽が融合して形成された。中国音楽が重層的に発展してきたことは、楽器名からも分かる。中原で発生した、あるいは極めて古くから存在した楽器名は琴、筝、笛、鼓、鐘のように漢字一文字でその楽器を特定できる。現在では「笛子」などと二文字で楽器名を表す場合も多いが、「笛」だけでも理解できることが重要だ。

一方で、二胡、琵琶、篳篥などは、1文字ずつにばらばらにしたのでは、楽器としての意味をなさなくなる。これらは基本的に、中国音楽にとってどちらかと言えば新来の楽器だ。中国伝統音楽は、極めて広い領域の音楽が積み重なり融合して形成された特徴がある。これは中華文明全体の特徴でもある。

西洋音楽の最大の特徴は、和音など音の重ね合わせだ。中国伝統音楽の最大の特徴は旋律だ。軽やかで洒脱で上品な旋律を基本的な表現手段とする。

西洋では和声楽や対位法という、複雑な音楽理論が構築された。しかし中国人は面倒な論証を好まなかった。それよりも、瞬間的に物事の本質を見抜くことを重視した。中国の伝統音楽は、「天人合一」という、人と自然の調和と融合を追求した。

中国音楽では、琴(古琴)という士大夫などと呼ばれる社会の上流楽器が特に愛した楽器が重要だ。彼らは琴の演奏には演奏者の志の高さが反映されることを重視した。つまり中国における音楽は、人生に対する洞察を価値観の基本とした。

■高度に発達した「律学」、音楽治療は西洋より2000年も先行

中国では律学も大いに発達した。西洋で発達した方法とは異なるが、楽音の高さは厳密に計算された。しかも、明代の音律学者である朱載堉(1536-1611年)は、12平均律という音律法を確立した。これは、1オクターブの中に含まれる半音の音程も含めたすべての音の高さを均等に割り振るものだ。算出するには「2の12乗根」という極めて高度で精密な数学上の計算が必要だ。

朱載堉の12平均律の算出は、西洋よりも数十年先行していた。朱載堉の12平均律は、キリスト教の宣教師により西洋にも伝えられた。そのために、西洋での12平均律の出現に大きな影響を与えたとの見方がある。

ただ、中国人がペンタトニックを好んだことも事実だ。一方で、中国医学では「五臓」という考え方が出現した。近代西洋医学の解剖学のように、個別の臓器を「物」として考えるのではなく、その機能を含めて「臓」を認識し、「臓」それぞれの相互作用を総合的にとらえたものだ。そして中国音楽で常用される「五つの音の高さ」と「五臓」の概念が結びついた。

西洋音楽の用語を借りるならば、例えば「ド」を中核としてに上下する旋律と、「ラ」を中核とする旋律では、聴く者に与える印象が大きく異なる。中国ではこの、中核になる音が異なる旋律が人の情緒に与える影響に注目し、対応する五臓それぞれに与える影響を考慮して、健康への効能が説かれた。これらは、2000年以上前に書かれた「黄帝内経」にも記述がある。現代医学では、音楽が人の健康促進にさまざまな効果があることが証明されている。中国では音楽の健康効果が、極めて古くから研究されていた。

■自らの文化に対する自信や誇りと他者に対する包容力は共に不可欠

私は国外のステージに立ったことで中国伝統音楽の魅力を痛感したことがある。18歳の時に、フィンランドで開催された世界数十カ国の演奏者が出演するマラソンコンサートに出演した。私は琵琶で「春江花月夜」と「十面埋伏」を演奏した。「春江花月夜」はのどかな春の月夜の情景を描いた曲だ。「十面埋伏」は劉邦と項羽の最後の激戦を描いた曲だ。

聴衆は、夢中になって私の演奏に聴き入ってくれ、私に4度もカーテンコールを要求した。フィンランドのメディアは「春江花月夜」を「フィンランドに数多くある湖のように美しい」、「十面埋伏」を「千軍万馬の勢い」と評した上で、「一つの琵琶だけでの演奏なのに、まるでフルオーケストラのようだ」と称賛してくれた。

私はこの経験で、中国の音楽には独特な魅力があり、素晴らしい音楽は世界のどこでも歓迎されると信じるようになった。現在では、西洋音楽の側も中国の伝統音楽を含めた世界の音楽との融合を試みている。私も、東西の音楽は対立すべきではなく、融合こそが「主旋律」と考えている。

このインターネット時代には、伝統音楽の演奏者からも「ネット有名人」が出現すべきだ。より多くの人に伝統的な音楽文化を理解してもらわねばならない。伝統音楽は大衆から乖離(かいり)してはならない。ネットという手段を利用して、再び大衆の中に入っていかねばならない。より多くの人に聴いてもらい、より多くの人に「音楽の輪」に加わってもらってこそ、最終的にはレベルが高く、かつ民衆に支持される音楽を実現することができる。

また中国は国土が広く、多くの民族が存在する。風土や人情もさまざまだ。これは文化の巨大な宝だ。だから、各地の音楽、各民族の音楽の要素を掘り起こさねばならない。

最後に、中国の音楽関係者は自らの文化に自信と誇りを感じねばならない。そうしてこそ、中国伝統音楽の強みを発揮できる。排他的であれというのではない。中国人として自らに誇りを持ちつつ、自らと異なるものに包容力を持たねばならないのは、音楽以外の分野と同じだ。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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