米バイデン政権、「インド太平洋経済枠組み」の中南米版を提案―新味なく実現は不透明

山崎真二    2022年6月30日(木) 7時30分

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米国は5月のバイデン大統領訪日を機に発足させた「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)の中南米バージョンの実現を目指している。写真はホワイトハウスのツイッター・アカウントより。

米国は5月のバイデン大統領訪日を機に発足させた「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)の中南米バージョンの実現を目指している。中国の影響力に対抗するのが米国の狙いだが、コトはそう簡単にはいきそうにない。

◆強力なサプライチェーン構築も計画

バイデン政権のIPEFの中南米版は「経済繁栄のための米州パートナーシップ」(APEP)構想と名付けられ、6月初めロサンゼルスで開催された米州首脳会議(米州サミット)の開会式でバイデン大統領が提案した。ホワイトハウスはAPEPについて北米、南米およびカリブ海を網羅する西半球の経済回復と成長を図る歴史的な取り組みと強調する。

米国務省報道官らの説明によれば、(1)米州開発銀行(IDB)など経済機関の再活性化、(2)一層強力なサプライチェーンの構築、(3)公共投資の基盤強化、(4)クリーンエネルギー産業の雇用創出、(5)持続可能で包摂的な貿易の実現とデジタル経済-という5つ分野で各国との協力や連携を図るという。米国主導で貿易・投資のルールづくりを進めるが、中南米各国はこれら5分野すべてに同意する必要はなく、希望する分野だけに参加することができるとされている。

バイデン政権は今後、各分野の交渉内容や進め方について詰め、今秋に閣僚レベルの会合を開催する方針である。米国の貿易問題に詳しい専門家の多くが「関税引き下げを想定していない上、交渉への各国の参加の裁量が大きい点からみて、緩やかな連携を特徴とする経済圏づくりで、5月に立ち上がったIPEFに非常に似た構想だ」と指摘する。

◆米国の復権目指すバイデン大統領

APEPの目的に関しバイデン大統領はサミット開会式の演説では「中国」といった言葉は一切使っていないが、これが中国に対抗するためであるのは明らか。かつて「中南米は米国の裏庭」と呼ばれていたが、近年は同地域での米国のプレゼンスの減退が目立つ。2001年の米同時テロ事件以後、中東への米国の関与が強まる一方、中南米への取り組みが全般的に低下したことがその背景にある。キューバとの国交を回復したオバマ政権時代のケースは例外的と言っていい。

とりわけ、「米国ファースト」を唱えるトランプ前大統領はベネズエラ問題以外は中南米への関心が極めて低かった。中南米への米国の関わりが弱まる中、中国がこの地域に大幅進出したのは周知の事実。中南米諸国の貿易・投資分野を中心とする中国の影響力は資源ブーム終焉後の2015年以降一時減少したものの、依然として大きいことは否定できない。

中国の習近平国家主席の唱える「一帯一路」構想には今や、中南米地域から20カ国が参加を表明している。オバマ政権の副大統領時代に16回も中南米を訪問し、自ら「中南米通」と称するバイデン大統領は「APEPの推進によって中南米における米国のリーダーシップを取り戻したい考え」(米国の中南米専門シンクタンク専門家)とみられる。

◆目立つ“米国離れ”の傾向

だが、バイデン大統領の思惑とは裏腹に新たな米国主導の経済圏構想に対する中南米諸国の期待と熱意はいま一つ。同構想提案の舞台となった米州サミットそのものが、盛り上がりに欠けたことは否定できない。米州サミットは1994年にマイアミで開催されて以来、おおむね3年ごとに定期的に開かれてきた。9回目となった今回はバイデン政権の新たな中南米プランが打ち出されることが事前に伝えられていたにもかかわらず、結局、サミットに参加したメンバー国首脳は35カ国中、27カ国にとどまった。

地域大国メキシコは代表団は派遣したものの、肝心のロペス・オブラドール大統領は、友好国のキューバ、ベネズエラおよびニカラグアの反米左派3国が招待されなかったことに抗議し欠席。参加したアルゼンチンやチリの両大統領も米国のサミット対応を批判、さらに米国と中南米各国との協力による移民問題支援を盛り込んだ共同宣言の賛同国は20カ国足らずとなり、近年表面化した“米国離れ”の傾向が改めて印象付けられた。米国の新たな経済圏構想の下に中南米諸国が結集する状況にはとてもないと言っていい。

APEPについて元メキシコ外相で中南米問題専門家として知られるホルヘ・カスタニェダ氏が「内容に乏しく新味はない」と批判するなど、否定的な声が米メディアの間でも広まっている。APEP構想実現の見通しは不透明と言わざるを得ないようだ。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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