日本の「琴」とは別楽器の中国の「琴」―専門家が特殊な文化的地位を解説

中国新聞社    2022年4月1日(金) 23時20分

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中国には「琴(きん)」などと呼ばれる、特殊な文化的地位を持つ伝統楽器がある。日本の「琴(こと)」とは別の楽器だ(写真)。

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中国には「古琴(こきん)」または「琴(きん)」と呼ばれる伝統楽器がある。孔子が愛したことでも知られ、思想や哲学とも深い関係がある特異な楽器だ。「琴」は日本にも伝わったが、後に演奏されなくなってしまった。そのため、系統が異なる「筝」も「琴(こと)」と呼ばれるようになった。アジア音楽学界区共同会長などを務める喻輝氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、中国文化における「琴」の地位などを説明した。以下は喻氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

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■数千年にわたる「琴」の歴史、最古の楽譜は日本に残されていた

「琴」は秦の始皇帝による中国統一以前から伝わってきた楽器だ。「琴」の最も古い楽譜は、南朝の梁代(502-557年)に書かれた「碣石調幽蘭」という曲の唐代の写本だ。この楽譜は、現在とは異なる古いタイプの楽譜として唯一のものだ。このタイプの楽譜は中国に残っておらず、「碣石調幽蘭」譜が1部だけ日本で保存されていた。「碣石調幽蘭」は中国で「琴」の名曲として復活した。

「琴」では絹弦が使われ、音は小さい。しかし夜更けなど静かな環境で演奏すると、その音色は実に繊細だ。「琴」の音楽は、道教が説く「大音は声希(まれ)なり」(真に影響力がある音は聴き取りにくい)の具体的な現れだ。演奏者は深い思いに浸り心を清めて曲を奏でる。

「琴」は本来、プロの音楽家が聴衆のために奏でる楽器ではなく、「琴」をたしなむ人が自分のために、あるいは目の前にいる人に対して奏でる楽器だ。中国語では、真の友人を「知音」と表現するが、この言葉は「『琴』の音楽を共に理解できる友」に由来する。

「琴」の演奏では、同じ高さの音を鳴らすのでも、いくつもの方法がある。弦は主に右手の指で弾くが、どの指でどの方向に弾くかで音色は異なる。左手による弦の押さえ方もさまざまだ。また、左手の指で弦の特定の場所に軽く触れることで、弦を通常とは異なる振動状態にするハーモニクスと呼ばれる技巧も多用される。このハーモニクスによる幽玄な音も「琴」の特徴の一つだ。

「琴」の演奏では、「減字譜」と呼ばれる楽譜が基本だ。「減字譜」はひとつひとつの音について、右手と左手の使い方や鳴らす弦を記号化して、それらを部首のように組み合わせて、一文字の漢字のようして示す。このような、一つの音の鳴らし方そのものを重視する東洋的な発想は、西洋の現代音楽作曲家の重要な作曲理念の一つになった。

■情操を養う文人のたしなみの一つ、伝統思想との深い結びつき

中国で、文人が情操を養うためのたしなみは「琴棋書画」と呼ばれた。この場合の「棋」は囲碁を指す。この「琴棋書画」は、士大夫階級の道徳や文化観、社会観、宗教観と密接に結びついた。

士大夫は儒学思想の影響を強く受けた。孔子は自ら「琴」を奏で、「琴」を片時も手放さない人生の伴侶にしたとされる。士大夫は権力から離れ隠棲すれば老荘思想に傾くことが多かったが、それでも「琴」を大切にした。魏(西暦220-265年)の末期の「竹林の七賢」のうち、稽康と阮籍はいずれも、有名な「琴」の名手だったと伝わっている。

中国に仏教が広まると、「琴」の音楽も影響を受けた。例えば著名な琴曲の「普庵呪」には、仏教音楽の要素が取り入れられている。

「琴」は中華伝統文化の集大成の一つであるので、中国が危機的状況に陥った時期には愛国運動とも結びついた。中国の近代において、大都会の上層階級の人々は、西洋文化に傾倒した。しかし実業家でもあった査阜西らは、「琴」の音楽的価値は素晴らしく、多くの点で西洋音楽を超える面があると主張して、上海で「琴」音楽の団体である「今虞琴社」を結成した。同団体は日本軍が上海を攻撃した1936-1937年にも活動を続け、「人々に中華文化の自信」を発信し続けた。

■国外にも広がる「琴」の音楽、出会いを求めて「宇宙の旅」も

国際間における文化文明の交流と相互吸収は国の「ソフトパワー」と切り離せない。「ソフトパワー」の「パワー」とは人を魅了する力、すなわち魅力だ。「琴」には中国の伝統哲学や思想、美学がともなっており、中国文化が持つ重要な価値観や文化的遺伝子が含まれている。「琴」の演奏を聴けば、中国文化へのあこがれが湧いてくる。音楽文化の交流ではこのような効果が期待できるが、公的な活動よりも、民間交流の方が効果的かもしれない。

海外でも「琴」は研究されている。有名なオランダ人中国学者のロベルト・ファン・ヒューリックは中国の「琴」に関連する文献を研究して、国際的に大きな影響力を持つ「中国琴学~琴の思想についての随想」という大著を著した。

中国の「古琴芸術」は2008年に、ユネスコの世界文化遺産に登録された。また、1977年に打ち上げられた米国のボイジャー1号と2号は、惑星探査を終えた後には太陽系を離れて広大な宇宙空間を跳んでいくので、知的異星人と遭遇する可能性があると考えられ、人類の姿や文化についての情報が搭載された。

文化については、各種言語によるあいさつや人類の芸術を代表する音楽として27曲が録音されたゴールデン・レコードが搭載された。うち1曲は、「琴」の名曲である「流水」だった。(構成 / 如月隼人

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