<独ソ戦と現代>80年前の不可侵条約、今の国際政治にも影―ウクライナなど国際情勢は酷似?

長田浩一    2022年2月21日(月) 9時40分

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現在の国際情勢は、独ソ戦前に酷似しているように私には思える。現在のウクライナ危機が、これ以上80年前に近づくようなことのないよう、祈らずにはいられない。写真はスターリングラード攻防戦(油絵)。

私事で恐縮だが、先日、地元の自治体の市民大学で、「独ソ戦―史上最大・最悪の戦い」というテーマで講演した。およそ30年前、ひょんなことから独ソ戦に興味を持ち、関連する書籍や資料に目を通してきたので、恥ずかしながらその“成果”を披露した次第。仕事絡みのテーマならともかく、80年前から続く「壮大な歴史」について多くの人の前で話すのはほぼ初体験なので冷や汗をかいたが、何とか2時間、話し終えることができた。

◆史上最大・最悪の戦い

第2次世界大戦でドイツを中心とする枢軸国とソ連の間で展開された独ソ戦については、改めて説明する必要はないだろうが、ドイツ軍の戦死者数が西部戦線(米英軍との戦い)より4~5倍も多かったことから、欧州戦線の行方を決した戦いと言える。大戦中に最も多くの兵士が動員され、最も多くの戦死者を出したのも独ソ戦だった。民間人を含む両国の死者は約3500万人に上るという(死者数については諸説あり)。敵国民はもちろん自国民の犠牲も意に介さなかったヒトラーとスターリンという2大独裁者の存在が、けた外れの殺戮をもたらした主因だろう。しかも、ナチスによるユダヤ人虐殺の大半が、独ソ戦の舞台となったポーランドとソ連の領内で実行された。「史上最大・最悪の戦い」と呼んでも間違いではないと思う。

開戦の2年前、ポーランド侵攻への他国の介入を嫌ったヒトラーと、ドイツとの戦争準備を整えるまでの時間を稼ぎたかったスターリンが独ソ不可侵条約を結んだことも、世界に衝撃を与えた(ドイツとともに反共政策を推進していた日本の平沼騏一郎首相は「欧州情勢は複雑怪奇」の言葉を残して辞職)。しかも同時に取り交わした秘密議定書で、ポーランドの分割や、フィンランドなど北欧・東欧諸国についてそれぞれの勢力圏を定めたことは、まさに悪魔の取引と言っていい。ドイツは条約締結の9日後にポーランドに侵攻し、第2次世界大戦が勃発した。

◆欧州議会のソ連非難決議

それにしても、80年も昔の話である。歴史としては興味深いが、現代とは関係ない、と思われるかもしれない。しかし、それは違う。独ソ戦と不可侵条約は、現代の国際政治にも影を落としている。

日本ではあまり報道されなかったが、2019年に欧州連合(EU)の立法機関である欧州議会が、独ソ不可侵条約と秘密議定書を正面から批判する決議を採択した。「80年前、ソ連とナチスドイツが不可侵条約を締結し、その秘密議定書で独立諸国の領土を分割、第2次世界大戦への道を開いた」という内容だ。ナチスとともにソ連を大戦の引き金を引いた張本人と位置付けたわけで、ロシア政府は「欧州をナチスから解放したのはソ連だ」と猛反発した(東京新聞などによる)。それにしても、ソ連を第2次大戦の正当な勝利者とする従来の歴史観に見直しの動きがあることは注目していい。

◆クリミア併合に国際社会の無力

それだけではない。ロシアは2014年にウクライナのクリミア半島を併合したが、これは独ソ不可侵条約の秘密議定書に基づき、ソ連が1940年にエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国を併合したのと同じではないか?ロシア側には、もともと自分たちの領土だった、住民もロシア系が多いなどの言い分はあるだろうが、国際的に認められた国境線が一方的に変更されていいはずはない。それに対し国連をはじめとする国際社会が有効な対抗策を打ち出せていない事実が歯がゆい。

また、ロシア議会下院はこのほど、親ロシアの武装勢力が支配するウクライナ東部を、独立国家として承認するようプーチン大統領に要請する決議を採択したと報じられている。これが実現すれば、第二次大戦中にドイツが占領地に傀儡国家を樹立した歴史を思い起こさせる。そして、もしロシアがウクライナに侵攻したら、それこそ1939年のドイツによるポーランド侵攻の再現だ。

北朝鮮の動向も要注意

東アジアに目を転じてみよう。独ソ戦は20世紀を代表する2人の独裁者の対決だったが、現代の独裁国家として真っ先に頭に浮かぶのは北朝鮮だ。北朝鮮は今年に入り、弾道ミサイルや巡航ミサイルとみられる飛行体の発射を繰り返し、周辺諸国に脅威を与えている。北朝鮮が近い将来に極端な手段に訴える可能性は低いと思うが、独裁国の動向は予測が難しい。引き続き注意が必要だ。

あれこれ考えると、現在の国際情勢は、独ソ戦前に酷似しているように私には思える。人類は、第2次世界大戦という高い代償を払っても、教訓を読み取っていないのか。現在のウクライナ危機が、これ以上80年前に近づくようなことのないよう、祈らずにはいられない。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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