政府は春闘賃上げ「3%」期待、優遇税制で促す=1人当たりGDP、韓国・台湾に劣後回避へ

八牧浩行    2021年12月17日(金) 7時50分

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来年の春闘に向けた政労使の議論がスタートした。閉塞感が漂う日本経済の浮揚には消費減退の抑止が急務。着実な賃上げが不可欠だが複雑な事情が交錯、景気を支える賃上げにはハードルが高い。

来年の春闘に向けた政労使の議論がスタートした。閉塞感が漂う日本経済の浮揚には消費減退の抑止が急務。着実な賃上げが不可欠だが複雑な事情が交錯、景気を支える賃上げにはハードルが高い。コロナ禍の長期化により業種ごとのばらつきが目立ち、企業経営と雇用に関する抜本改革が期待される。日本の労働生産性の低さが際立ち、このままでは一人当たりの名目国内総生産(GDP)が2027年に韓国、28年に台湾を下回ると予測されている。

◆平均給与2年連続で減少

海外のインフレの影響は徐々に国内にも及んできており、1922年度は0.5~1%程度の物価上昇になるとの見方が有力である。食料品や燃料など必需品の値上がりが目立つ中で、ベースアップの水準が低ければ賃金は実質的に目減りし、経済回復の基盤になる消費に水を差す恐れがある。

ベアが2014年ごろから復活するなど過去数年の春闘は一定の成果を上げてきた。しかし景気後退期に入った19年ごろから賃上げ率は頭打ちとなり、コロナ禍で低下傾向にある。国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、昨年の1人あたり年間平均給与は433万円(男性532万円、女性293万円)。前年と比べて0.8%減で、2年続けて落ち込んだ。給与総額の内訳の賞与が65万円と前年比8.1%も減り、リーマン危機後の09年の13.2%減以来の急落となった。

◆コロナ禍の影響、業種でばらつき

コロナ禍による経済や雇用への影響は二極化している。コロナ禍の影響が大きいのは宿泊・飲食サービスで、前年比3.2%減の251万円。業種別の給与所得者数で、医療・福祉(709万人)や卸売り・小売り(837万人)など働き手の多い業種も軒並み減った。一方で、情報通信や金融・保険など前年より伸びた業種もある。

雇用の不足や過剰も業種によって分かれ、景気悪化の中の人手不足といった状況が起きている。最新の21年10月の有効求人倍率は1.15倍で、20年9~10月の1.04倍を底に緩やかに回復している。リーマン危機後の09年8月には0.42倍と1を大きく割り込んでいた。

企業業績は業種による相違はあるものの、全体としてはコロナ禍以前の水準に復調。オミクロン変異株の蔓延など先行きはなお予断を許さないが、各種の政策的支援もあり、企業の多くは賃上げが可能な経営体力が回復しつつある。

政府が賃上げを要請する「官製春闘」は第2次安倍政権の2014年春季労使交渉から始まった。厚生労働省によると、賃上げ率は直近のピークだった15年の2.38%から低下傾向となり、今年は1・86%と低水準にとどまった。

政府が21年11月の「新しい資本主義実現会議」で事務局が示した資料によると、主要国の中で日本の賃金水準の停滞が目立つ。過去20年間、企業が現預金や配当金を大きく増やす一方、人件費は横ばい以下だったという。岸田首相は「業績がコロナ前の水準を回復した企業」との条件をつけた上で、「新しい資本主義の起動にふさわしい3%を超える賃上げを期待する」と述べた。

◆政府介入は市場機能を歪めるリスクも

民間の賃金決定への政府介入は市場メカニズムを歪めるリスクもある。コロナ禍で業績が回復していない企業も多く、経団連は一律での賃上げに慎重。経団連は春闘に向けた経営側の指針に、岸田首相が期待する「3%超」賃上げ目標は盛り込まない方針だ。新型コロナ禍で引き続き企業業績の明暗が分かれる中、十倉雅和会長は具体的な数値の明記には否定的な考えを示している。岸田首相の呼びかけは「要請」ではなく「期待」との表現だが、可能な企業はこれに応じるべきだろう。

政府は賃上げを促進する優遇税制として、法人税額から賃金の増額分などを差し引く控除率を大企業で最大30%、中小企業は最大40%と異例の高水準とする方針だ。大企業は継続して雇用する人の給与総額を3%以上増やせば対象となり、中小企業は新規採用も含めた雇用者全体の給与総額を1.5%以上増やすことを条件とする。また大企業で給与総額の伸びが小さければ研究開発に関する投資資減税の対象から除く。

ただ中小・零細企業を中心に赤字企業が4割に達し法人税を払っていない企業も多い。ボーナスでなく基本給の引き上げを条件とすれば、後年に負担が続くため企業は制度を活用しにくくなる。

連合は12月初旬、来春の春闘方針を正式に決めた。ここ数年と同様、ベースアップ2%、定期昇給分を含め4%程度の賃金の「底上げ」を目指すことに加え、企業規模や雇用形態による「格差の是正」、企業内最低賃金協定などを掲げた。

◆生産性向上が最優先課題

今後、コロナ禍で緩和されていた人手不足が経済の回復とともに再び強まる見通し。シンクタンク幹部によると、給与も短期的には残業代や賞与の落ち込みが持ち直し、中長期的には少子高齢化による人手不足で押し上げられるという。リーマンショック時は製造業の打撃が大きく、正規・非正規ともに男性の雇用減が目立った。コロナ禍では宿泊・飲食や卸売り・小売りで女性の非正規雇用が大幅減。一方で、医療・福祉などで女性の正規雇用が増えた。

日本経済研究センターの試算によると、日本の1人あたり名目GDPが行政デジタル化の遅れや労働生産性の鈍化により2027年に韓国、28年に台湾を下回る見通し。試算では、25年まで韓国は1人あたりGDPが年6.0%、台湾は8.4%増える一方、日本は2.0%の伸びにとどまるという。

重要なのは継続的に賃金を上げられる恒久的な手立てをつけることだ。主要7カ国で最も低い労働生産性を高めることが優先課題になる。企業は業務のデジタル化や人材教育へ積極的に投資し、政府がそれを強く後押しする必要があろう。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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