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GDP以外の角度からみる中国経済(4)社会格差

松野豊    2022年5月20日(金) 8時0分

拡大

中国は現在のところ、社会格差が継続的に拡大しているとは言えないが、この先もし拡大傾向がみられるなら、それは経済成長率の低下につながる可能性がありそうだ。写真は河南省鄭州市。

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一国内の所得格差と経済成長との関係については、米国の経済学者サイモン・クズネッツが提唱した「クズネッツ曲線(逆U字型曲線)」が有名である。この理論によれば、経済成長の過程では一時的に社会格差が広がるが、一定の期間後に経済が成熟すれば格差は解消していくことになる。

その他の写真

しかし2013年、フランスの経済学者トマ・ピケティは「21世紀の資本論」の中で、現在の資本主義の変容を加味し、米国以外のデータを分析に加えることでクズネッツ曲線を一部否定した。現代資本主義体制下では社会格差は拡大しているという主張である。

筆者にはこうした難解な論争にコメントする能力はないが、経済成長を持続させていくためには、社会格差を規定する所得分配等の政策が重要であることは間違いない。

中国は、2021年から始まった第十四次五か年計画において、「一人当たり可処分所得の増加率がGDP成長率を下回らない」というKPI(評価指標)を設定している。中国統計年鑑のデータで計算してみると、2021年の一人当たり可処分所得の増加率は9.1%で、実質GDP成長率の8.1%を上回っている。

また時系列に見ても、一人当たり可処分所得増加率は実質GDP成長率とほぼ連動しており、前者が常に後者を上回っている。この統計データで見る限り、中国の社会格差は拡大が抑制されている。

社会格差を表す指標として「ジニ係数」というものがある。中国のジニ係数は、2016年ぐらいまでは国家統計局が発表していたようだが、最近は統計局の発表の席上などにおいて口頭で伝えられるだけになっている。2021年9月に国家統計局が言及したところによれば、2020年のジニ係数は0.468となっている。

中国政府が発表するジニ係数の数値は、近年概ね0.46付近であり、わずかだが年々改善している。一方フランスの経済学者ルカ・シャンセルやトマ・ピケティらが運営する世界不平等研究所(World Inequality Laboratory)が発表している中国のジニ係数は、0.55強であり中国政府発表より高い数字になっている。また北京大学中国社会科学調査センターも不定期ではあるが国家統計局より高いジニ係数を報告している。

ジニ係数が0.5以上というのは、社会的不平等がかなり大きく社会の不安定化が危惧される水準である。しかし発表されている高い数値においても、時系列的には変化が小さく増大の傾向はみられていない。

筆者は、公式に発表される中国の統計データから、何とか社会格差を表現する数値をひねり出してみた。まずひとつは都市と農村の所得格差である。図1は都市部と農村部の一人当たり年間消費額を時系列で比較したものである。


図1によれば、都市と農村の消費水準値の差額は現在も少しずつ増大している。ただし都市と農村の消費額の比率を取るとほぼ横ばいである。

次に、統計年鑑にある「収入階層別可処分所得収入」と「省別一人当たりGDP」にも注目してみた。前者はジニ係数の概念に近い所得格差、後者は地域格差を表すだろう。図2はそれぞれの数値の各年の変動係数(バラつき)を時系列的に見たものである。

いずれの数値もバラつき度合い(すなわち格差拡大)は経年的にはあまり変化がなく、中国の社会格差は拡大も縮小もしておらず落ち着いているとみなすことができそうだ。


最後に、社会格差と経済成長の「持続性」との関係について触れたい。つまりジニ係数が増大(すなわち社会格差が拡大)していくとGDP成長率も低下していく傾向があるのではないかという仮説である。

米国、日本、ドイツ、イギリス等の国別に分析してみる。横軸にジニ係数、縦軸に実質GDP成長率をプロットした(グラフは省略)。その結果、ドイツを除けば中国以外の先進国(資本主義国)では、ジニ係数が増大すると経済成長率が低下していくという傾向がみられた。

中国は現在のところ、社会格差が継続的に拡大しているとは言えないが、この先もし拡大傾向がみられるなら、それは経済成長率の低下につながる可能性がありそうだ。中国が経済の持続的成長を継続していけるかどうかの判断のためには、今後も社会格差を表す統計データをモニタリングしていく必要がある。

■筆者プロフィール:松野豊

大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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