「マーダーミステリー」体験店3万店突破、なぜ若者の心をつかんだか―中国

人民網日本語版    2021年4月3日(土) 18時0分

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2016年頃にひっそりと登場した推理ボードゲーム「マーダーミステリー」は、その後わずか数年で多くの若いファンを獲得した。資料写真。

2016年頃にひっそりと登場した推理ボードゲーム「マーダーミステリー」は、その後わずか数年で多くの若いファンを獲得した。生活サービスプラットフォームがまとめた統計では、2020年末現在、ゲームの世界を体験できるオフライン店舗はすでに3万店を超え、アプリケーションもアップストアの無料ゲームアプリランキングで3位に躍進し、今やすっかりゲーム界の王様のようになっている。光明日報が伝えた。

「マーダーミステリー」はどんなゲームか。「murder mystery game」の訳語から来ているこのゲームは、欧米の若者が好む、複数の人が与えられたキャラクターを演じながら推理を進めていくゲームで、芝居とゲームと2つの要素を兼ね備える。中国の一部のバラエティー番組などで、このゲームのスタイルを参考にしたコンテンツが打ち出されると、中国でも流行するようになった、現在、中国ではこのゲームの遊び方が多様化しているが、シナリオの構成と土台にあるロジックは共通で、「殺人—捜査—推理—真犯人を見つけるまたは無実の人の容疑を晴らす」という流れは変わらない。複数のプレイヤーが1つの事件をめぐり、それぞれに敵味方のキャラクターを演じ、最後には力を合わせて真犯人を暴き出す。こうしたプロセスは中国語で「打本」、「玩本」、「盤本」(ストーリーの世界で遊ぶ)などと呼ばれ、1回のプレイ時間は4~6時間だ。

現在、「マーダーミステリー」にはオンラインとオフラインの2つの形がある。オンラインアプリが提供するシナリオの大部分は無料で、一部の優良シナリオは有料になる。プレイヤーは1つの「部屋」で音声を通じてキャラクターを演じ、ゲームを楽しむ。オフライン体験型店舗は通常はシナリオに沿って場面が設定され、プレイヤーは実際に1つの部屋に集まって、声や表情、話しぶり、体の動きなどでシナリオの世界を演じる。ここからわかるのは、これが「90後」(1990年代生まれ)と「00後」(2000年代生まれ)が好む流行の文化的スタイルを集めたということで、リアリティーショー、ライブ配信、トークショー、コスプレ、ツッコミなどの要素が備わる。異なる点としては、「マーダーミステリー」は一般の観客をシナリオの世界を表現する人へと変身させることで、これによりプレイヤーは全方位的で、さまざまな感覚が揺り動かされ、深く入り込む究極の体験をすることになる。

チームを作ってシナリオを選び、中身をじっくり読んで演技をスタートする。「マーダーミステリー」は長時間にわたり頭と体を使う没入型のゲームで、周囲を観察し、推理を組み立て、他のプレイヤーとの対話を重ねるそのプロセスは、本質的に人との人との貴重な深い交流とコミュニケーションだ。少しの誇張でもなく、「マーダーミステリー」は今や若者が人間関係を広げるときの有効な媒介になった。チーム作りについて言えば、オンラインでは知らない人同士でチームを組むことが多く、オフラインでは知り合いもいれば知らない人もいる。筆者の研究チームが取材してわかったことは、若い人がオフラインの体験スタイルを好む理由は、ゲームの中で、SNSメディアの「弱いつながり」によって減ってしまったオフラインの本当の自分が顔を出すリアルな「強いつながり」を回復できること、日常生活や仕事の人間関係から飛び出して興味や関心が共通の楽しい人とより多く知り合えること、さらには発展して友達になれるかもしれないことにある。ゲームとは別のプレイヤー同士のオフラインの活動は、「1人でボーリングをしている」ような「空の巣青年」でも断りにくい。

時代によって遊び方は変わる。石けり、かくれんぼ、レゴブロック、「王者栄耀」……さまざまなタイプの遊びの中で、最も人を夢中にさせるのは「もし自分が○○だったら」と空想し、さまざまなキャラクターを演じることだろう。言い換えれば、すべての人は心の中に「もう1人の自分」がいて、現実の生活の中で自分に割り当てられた役割はいやだと思い、現実の自分を超越するチャンスを待ち続け、探し続けているということだ。「マーダーミステリー」が、平凡な日常生活を送る若者にイマジネーションと飛躍にあふれたゲームの世界を提供することは間違いない。「マーダーミステリー」の大量のシナリオは架空の時代と空間を設定し、本当の自分は伏せておきながら、想像の翼をはためかせる余地を残している。こうした異なる時間、空間、キャラクターは、ある意味で、緊張した関係性を解きほぐし、対立する感情を和らげ、心のバランスを獲得する1つの方法だと言える。

「マーダーミステリー」で、プレイヤーが自分でキャラクターを選び、想像力をふくらませて肉付けする過程は、自分をゆっくりと解放し、想像の世界に入り込み、「他者」になりきる過程でもある。フロイトの言葉を借りれば、プレイヤーは「エゴ」を忘れ、「スーパーエゴ」を恐れず、「イド」があるだけの状態でゲームに参加していることになる。たとえば、現実の世界における規範、法則、道徳はその拘束力を失い、プレイヤーはゲームのルール、現実とは異なるルール、本能と快楽の原則に基づいた非社会的で非道徳的な原則に従って動く。さらには「エゴ」の最低ラインを絶えず刺激し、「スーパーエゴ」に挑み、ゲームの世界で現実世界では認められない奇妙奇抜な発想やファンタジーを安全に楽しむこともできる。オープン型のシナリオでもクローズド型のシナリオでも、そこに参加するプレイヤーはよりよいゲーム体験と人生体験をすることができる。

遊びは人間の本能的欲求であり、完全な人格を作り、それを整える上で欠かせない構成要素だ。現代社会のスピードの速い発展に伴うコントロールを失った感じが、完全な人生を打ち破りつつある。私たちは疎外感の脅威に直面せざるを得ないため、こうした束縛から抜け出すために、一面的で功利的な人間から完全な人間に戻っていくことが人々がゲームをしたいと思う重要な動機だ。「マーダーミステリー」はプレイヤーに非日常のゲームとエンターテインメントの空間を提供し、シナリオに没入する過程にはプレッシャーをはねのけ、刺激を追い求め、楽しみを得る一種の癒やし効果がある。ゲームが提供するイマジネーションにあふれた非日常の世界の中で、プレイヤーは日常のしがらみから抜け出し、「他者」となって自由に空を駆け巡るような多彩な人生を体験することができる。媒介としてのゲームは、若者のために深いレベルで他者と双方向に交流し、人間関係を広げる可能性を生み出してもいる。(提供/人民網日本語版・編集/KS)

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