Record China 2014年3月19日(水) 5時40分
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ウクライナのクリミヤ自治共和国における住民投票は、96.77%という圧倒的多数で「ロシアに帰属する」方に軍配が上がった。ロシアはクリミヤを独立国家と認めただけでなく、ロシア編入に関しても同意した。写真はモスクワ・赤の広場。
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ウクライナのクリミヤ自治共和国における住民投票は、96.77%という圧倒的多数で「ロシアに帰属する」方に軍配が上がった。ロシアは「これは住民の意思決定だ」として、クリミヤ自治共和国を独立国家と認めただけでなく、ロシア編入に関しても同意した。
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欧米諸国は、そもそもこの住民投票自体がウクライナ憲法や国際法に違反するとしていた。プーチンがロシア編入にまで踏み込んだことにより、ロシアに対する制裁を強化する方向で欧米諸国は「概ね」一致している。日米同盟がある日本にとっては、アメリカと歩みをともにしなければならないが、北方領土解決のために安倍政権が取っている親ロ姿勢との間で板挟みになっている。
しかし習近平が置かれている板挟みは、さらに深刻だ。
なぜならクリミヤの住民投票による「民族自決」は、そのまま中国国内の新疆ウィグル自治区やチベット自治区の「民族自決」と相似形を成すからだ。
ロシアの側に立ってクリミヤ住民の「民族自決」を容認するなら、自国のウィグル民族やチベット民族による「民族自決」すなわち「独立」を認めるという論理につながってしまう。だから中国としてはクリミヤの住民投票を「無効」とする欧米側に立ちたかったが、何と言っても「合法」と主張しているのは戦略的パートナーとして最も親密な関係にあるロシアだ。
その結果、3月15日に国連安保理事会で出された住民投票を「無効」とする採決案に対して中国は棄権した。周知のようにロシアが拒否権を行使したので、この採決案は否決されたが、中国が「棄権」という選択肢を選んだところに、習近平の苦渋が滲んでいる。
◆矛盾する民主主義の原則
中国には漢民族以外に55の少数民族があり、特に中国の全面積の16.7%を占める新疆ウィグル自治区と12.7%を占める西蔵(チベット)自治区の場合は独立傾向が強く、暴動が絶えない。その暴動を武力で抑えている中国としては、自らの運命を各民族が決めていいなどという「民族自決」行動は、絶対に許されないのである。
新疆ウィグル自治区やチベット自治区はウクライナに組み込まれていたクリミヤ自治共和国と同じで、より強大な力によって民族の尊厳を踏みにじられ、より大きな力を持っている国(中国)に組み込まれてしまった。組み込まれるときから「民族の独立」を叫んで抵抗してきたが、鎮圧された状態になっているのが現状だ。
クリミヤ同様、もしウィグル族やチベット族が民族自決という手段で独立を勝ち取ろうとしたら、どうだろう。欧米西側諸国は、それは「中国の憲法に違反する」とか「国際法に違反する」として少数民族の独立を非難して中国政府側に付き、中国政府側を守ろうとするだろうか。決してしないだろう。
このたびのクリミヤの住民投票は、たとえロシア軍の影がちらついていたとしても、住民が命がけで守った「民主的な投票行動」という、まさに民主主義の原則に則って住民が自ら選んだ意思表示だ。
それを「違法」と断罪する欧米の非難は、中国にとって、実は大変ありがたいことで、是非とも、その同じ非難をウィグル族やチベット族の独立運動に対しても言ってほしいと思っているだろう。
しかし実際は、アメリカにはウィグル族の亡命政府があるし、インドにはチベット族の亡命政府があり、オバマはその長であるダライラマと会談もしている。
◆「民族自決」におののく習近平
もしその国の憲法と国際法に基づいて、当該国に編入された区域あるいは民族を、住民投票によって独立させてはならないとするならば、この亡命政府も受け入れてはならないし、ましていわんやオバマがダライラマと会談するなどということもあってはならないはずだ。
しかし会談するだけでなく、西側の価値観は中国の少数民族弾圧を非難し、中国の民主化を望んでいるのではないのか。中国から見ればこれは「内政干渉」で、今般の住民投票を「無効」と主張する欧米側の論理とは相容れない。
欧米も矛盾していれば、中国もまた矛盾しているのである。
プーチンは、欧米の非難は「これまで欧米が主張してきた民主主義の原則に反している」と反撃。東西ドイツが一つになった例を引いて、「民が選んだ結果」を重んじるべきで、軍事クーデターや反政府テロで政権を奪還したウクライナ暫定政権こそ非合法と断罪した。選挙による民主主義の原則に対する主張の立場が、ロシアと欧米で逆転した格好だ。
中国は日米に対抗するためにもロシアとの親密度を常にアピールし、親ロ路線を取ってきた。しかしクリミヤの「民族自決」には断固反対したい。だというのに中ロ関係を重視して「反対」を叫べないでいる。まさか、ここで欧米側に付くなどということは絶対にできることではない。そのようなことをしたら共産主義の統治理論を破壊する。
しかし、ひとたび住民投票による民族自決の方法を認めてしまえば、中国は一瞬で内部崩壊するし、また悲願の台湾統一も不可能となり、台湾の独立派を認めることにつながってしまう。
ウクライナ問題は決して中国が高みの見物をして「にんまり」しているわけではない。たしかにロシアもアメリカも中国を味方につけたいと思っているだろうが、しかし習近平自身は「民族自決」におののいている。国家崩壊につながりかねない爆弾を内包しているからだ。
<遠藤誉が斬る>第25回)
遠藤誉(えんどう・ほまれ)
筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子チャーズ―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』、『中国人が選んだワースト中国人番付』(4月1日発売)など多数。
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