<直言!日本と世界の未来>コロナで変貌する世界経済=中国一人勝ち?―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年10月18日(日) 9時50分

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IMFの予測によると中国経済は21年に8%成長となり、米国の経済規模との差を縮める。徹底した新型コロナウイルス感染抑制が「中国一人勝ち」の最大の要因のようだ。コロナ禍で世界経済は転換点を迎えている。

国際通貨基金(IMF)の予測が先週改定された。注目は中国経済の復活ぶりである。2021年に8%成長となり、米国の経済規模の4分の3以上に迫るという。経済力の実態に近い購買力平価換算では既に米中規模が逆転したとされる。少し癪(しゃく)にさわるが、徹底した新型コロナウイルス感染抑制が「中国一人勝ち」の最大の要因のようだ。

10月上旬に中国・国慶節(建国記念日)大型連休の免税品購入客は前年同期比44%増。同時期の国内旅行者数は6億人強と前年の8割に回復した。中国では新規感染者数がほぼゼロまで減少、いち早く危機を封じ込めた。IMFによると、4~6月期に3.2%成長に回復。4~6月期の実質GDPは3.3兆ドル(約350兆円)となり、年率換算で30%超のマイナスだった米国(4.3兆ドル)との経済規模の差を23%に縮めた。

IMFの予測通りに推移すれば、米国のGDPは単純計算で21年に21.2兆ドル、中国は15.8兆ドルとなる。中国の経済規模は金融危機の08年時点で米国の3分の1以下(31%)だったが、21年には75%を超えるという。予測通りに推移すれば2030年までに米国を追い抜くのは確実とされる。

コロナ危機後の勝ち組の条件は「感染抑制」と「健全財政」のようだ。20年の見通しでは、中国が1.9%プラスと主要国で唯一プラス成長を確保。米国は4.3%のマイナスに沈むが、21年に3.1%の経済成長が見込まれる。トランプ政権はGDP比15%に相当する3兆ドルの財政出動に踏みきり、20年のマイナス成長幅は当初の予測より大幅に縮小した。

一方、日本ではデジタル化で後れを取った上に産業の新陳代謝も進まず、21年になっても2%台の成長にとどまる。日本は中期的な潜在成長率が高齢化などで0.5%と低いのが泣き所。巨額財政赤字に直面する日本は財政出動の効果も限定的で、大きな外需依存もマイナス要因となるという。

欧州も落ち込みが大きく、ユーロ圏の20年の成長率見通しはマイナス8.3%。中国向け輸出が多いドイツはマイナス6%と比較的底堅いが、経済が観光に依存するイタリアはマイナス10.6%、スペインはマイナス12.8%と大幅ダウンは避けられないようだ。

IMF報告書によると、2020年の世界全体の政府債務は、世界のGDP(約90兆ドル)にほぼ匹敵する規模に膨れるという。主要国は新型コロナウイルス対策として計12兆ドルの財政出動に踏み切ったが、膨らんだ債務をどう正常な水準に戻していくかがコロナ後に問われることになろう。

同報告書は21年の先進国の政府債務はGDP比125%と予測。第2次世界大戦直後の1946年(124%)を超えて過去最大。33年の大恐慌時(80%)や、2009年の金融危機直後(89%)を大きく上回るというから深刻だ。

新型コロナの感染第2波の懸念がくすぶる中、景気底割れを防ぐため財政出動がさらに膨らむ恐れもある。景気後退で税収が減り、歳入・歳出ともに悪化する恐れも否定できない。

各国の財政拡張は金融緩和で国債を大量購入する中央銀行が支えるが、債務の膨張が続けば、長期的には金利上昇を招いて財政の持続が危うくなりかねない。

新興国の政府債務も過去例のない高水準となる。21年にはGDP比で65%となり、09年の41%から大幅に膨らむ。1946年の終戦直後でも47%、32年の大恐慌時のピークは32%にすぎなかった。途上国も2021年に同50%となり、12年比で21ポイントも上昇する。

国別では、日本が20年にGDP比266%、21年は264%と突出し、19年(238%)から急増する。米国も3兆ドルの財政出動に踏み切り、政府債務は20年に131%と、19年から22ポイントも増加する。ユーロ圏は20年に101%となり、GDPを上回る水準になる。

各国は巨額の財政出動で企業の資金繰りや雇用などを下支えしており、IMFによると、2020年の世界全体の政府債務は国内総生産(GDP)に匹敵する規模になる。

コロナ禍で世界経済は大きな転換点を迎えている。ダイナミックな変貌から目を離せない。

<直言篇136>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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