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<激動!世界経済>サントリーとレノボによる米有力メーカー巨額M&A、驚きの真相―アジアの時代を象徴

八牧浩行    2014年2月4日(火) 8時34分

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今年に入って、日本と中国企業による米国企業M&A(が世界的な話題となった。サントリーが米蒸留酒大手ビーム社の買収を表明したのに続いて、中国のレノボ・グループが米グーグル傘下の、モトローラ・モビリティーを買収すると発表した。写真は洋酒販売売場。

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今年に入って、日本と中国企業による米国企業M&A(買収・営業譲渡)が世界的な話題となった。日本を代表する飲料メーカー、サントリーが米蒸留酒大手ビーム社の買収を表明。続いて、中国のレノボ・グループは、米グーグル傘下の携帯端末メーカー、モトローラ・モビリティーを買収すると発表した。

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サントリーの買収総額は160億ドル(約1兆6500億円)と巨額。「ビーム社」は、売り上げ規模は約25億ドル(約2500億円)。世界最大のバーボンブランド「ジムビーム」「メーカーズマーク」のほか、スコッチウイスキー、コニャック、テキーラ、ウオッカまで幅広い蒸留酒の品ぞろえを誇る。サントリーHDの「山崎」「オールド」「角瓶」などと合わせた両社の蒸留酒事業の合計は43憶ドル(約4500億円)を超え、世界第3位に躍り出る。

サントリーは、人口減少で市場縮小が不可避な日本国内市場の将来を見越して、国際化を積極的に推進。2009年にはフランスの清涼飲料メーカー「オランジーナ・シュウェップス・グループ」を約3000億円で買収、13年には巨大薬品メーカーである英国のグラクソ・スミスクラインから、約2100億円をかけて、機能性飲料「ルコゼード」と果汁飲料「ライビーナ」を買収した。これら買収はアフリカなど新興国で知名度があることが最大の理由。国内飲料各社も、需要の高い伸びが見込める新興国に注力し、キリンHDやアサヒグループHDはブラジルや東南アジアで、現地企業の買収や合弁会社設立を繰り返してきた。

◆「時間を買った」サントリー

 日本国内では若者の低アルコール酒選考もあって、頭打ち傾向にある市場に打って出たように見えるが、世界的には蒸留酒市場が成長しており、世界の市場規模は2012年1711億ドル(18兆円弱)で、対前年比で6%も伸びている。サントリーホールディングスの佐治信忠社長は「ビールより、利益率が高く、新規参入の少ない洋酒が中心になる」と明言。価格競争が激しく、消耗戦が避けられない国内市場からの大胆なシフトを模索していた。

酒分野では世界で通用するブランド作りは至難の業。ウイスキーの場合、原酒の熟成に10年単位の年月を要し、新規参入も少ない。ただ、自社のブランドだけで成長するには時間がかかりすぎる。「ジムビーム」をはじめとする老舗ブランドを持つビーム社に目を付けた。

 高成長が続く米国のほか、インドやロシアなどにも販売網があるビーム社は買収先として残された数少ない企業とされ、巨額の買収資金で、サントリーは「時間を買った」と見ることもできる。今後は両社で需要の高い伸びが見込める新興国中心に海外市場を開拓する構えだ。蒸留酒の世界市場は拡大を続け、新興国はほとんど手つかず。世界的な需要拡大が期待でき、上位に欧米ブランドが並ぶ蒸留酒で勝負をかける。

  

サントリーに限らず、日本企業は海外企業の巨額買収に走っている。最大の要因は、少子高齢化などで国内市場は先細りが避けられないことだ。2040年代にも日本の人口は1億人を切ると予測される中、余力のあるうちに成長性のある海外企業を買っておく戦略である。

 

日本企業による巨額M&Aの先駆けは、日本たばこ産業(JT)による英ギャラハーの2兆円超の買収だった。たばこは国内消費が減っており、12年のJTのたばこ海外販売量は国内の4倍近くに達した。JTは連結売上高2兆1千億円の半分近くを海外のたばこ事業が占め、最高益をうかがう勢いだ。

このほか、ソフトバンクが06年3 月に英国ボーダフォンの日本法人を1兆9172億円で、13年7月に米スプリント・ネクステルを1兆8000億円で買収、大きな話題を呼んだ。武田薬品工業も11年5 月にスイスのナイコメッドを1兆1086億円で買収している。

 

 

◆世界規模で進むM&A

これら企業には、「5年先、10年先、20年先、世界のマーケットの中で、自社はどのようなポジションを占めるのかを見通し、「世界市場で勝ち残る」という先見性のある戦略がある。サントリーが今回の買収劇で着目したのはブランドだけではない。世界で経営できるマネジメントである。JTが1999年にRJRナビスコから米国外のたばこ事業を買収して以来、海外事業はスイスに本部を置くJTインターナショナルに任せる体制を作ってきた。サントリーも今回の買収で蒸留酒についてはビーム社を軸に経営を進め、国内外での成長策を練る方針だ。

 

一方、中国のレノボ・グループは米グーグル傘下の携帯端末メーカー、モトローラ・モビリティーを29億1000万ドル(約3000億円)買収すると発表した。米IBMの低価格サーバー事業買収に続く大型案件である。

パソコン分野ではIBMのパソコン部門を2005年、17億5000万ドル(約1800億円)で買収。世界市場に打って出るために、IBMの「ThinkPad」などブランドの獲得が目的だったが、この買収以来、次々と関連企業をM&Aで飲み込み、10年足らずで世界最大手パソコンメーカーに浮上した。今度はスマホやサーバーでも世界制覇を狙う。

◆スマホ世界3位に浮上―レノボ

 レノボの黄偉明・最高財務責任者(CFO)はモトローラ買収の意義について「モトローラは成熟市場に精通。特に北米、南米市場で我々の存在感を高めてくれる」と強調している。レノボはモトローラから製造や販売などスマホ事業の大部分を買い取る。2000件の特許資産も含まれ、グーグルからは関連技術のライセンス供与も受けるという。

 

 100ドル前後の低価格スマホに強みを持つレノボは、中国市場では販売シェアが11%強と韓国サムスン電子に次ぐ2位の座にあるが、中国以外では目立った実績がなく、特に北米や南米では苦戦している。これに対しモトローラは米国3位、南米では8.0%と高いシェアを確保。「中国に強いレノボと、米州市場に強いモトローラの組み合わせは最良。両社が組めば必ず成功する」(黄CFO)としている。レノボの13年のスマホ分野世界シェアは4.5%で世界5位。モトローラと合わせ約6%にシェアが拡大し、世界3位に急浮上する見通しだ。

さらに、レノボがソニーとPC事業について、海外事業を手がける新たな合弁会社設立に向け交渉に入ったとのニュースも最近報じられる(ソニーは否定)など、レノボは世界のパソコン、スマホメーカーに食指を伸ばしているようだ。

中国家電大手の海爾集団(ハイアール)は、パナソニック傘下の三洋電機を2011年に買収。「AQUA(アクア)」ブランドとして売り出したところ、冷蔵庫や洗濯機事業の2012年の日本事業の売上高が前年の4.5倍に相当する483億円に達した。日本国内シェア(台数ベース)は洗濯機で約10%、冷蔵庫で約7%に達している。ハイアールはこうしたM&Aなどにより世界一の白物家電企業に成長した。

今後グローバル化がさらに進展し、消費マーケットが拡大する中、世界は一段と「一体化」する。生き残りのため、世界標準で競争できるブランド、人材、ノウハウを手っ取り早く取り込む戦略が欠かせず、M&Aの有用性と勢いはさらに強まるとみられる。こうした中で新年早々浮上した日中企業による米有力メーカーM&Aは「アジアの時代」の到来を象徴していると言えそうだ。(Record China主筆・八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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