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<羅針盤>AI・高齢化時代に輝く、歌声の魅力―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2020年7月5日(日) 5時40分

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「日本オペラ振興会ファンの集い」は楽しく有意義な集まりである。若手からベテランまで幅広く70数人が出演、多くのファンを前にオペラの代表的なアリアを歌った。写真は2017年9月開催の一シーン。

前回のコラムでコロナ感染の影響を受けている芸術文化活動を取り上げたところ、多くの読者からご賛同をいただいた。さらに想起したのは、3年前の2017年9月に、都内のホテルで開催された「日本オペラ振興会ファンの集い」である。この会は藤原歌劇団・日本オペラ協会で構成されている公益財団法人日本オペラ振興会が主催した。振興会所属の歌手1000人余のうちから若手からベテランまで幅広く70数人が出席、多くのファンを前に、オペラの代表的なアリアを歌った。

新進気鋭の音楽家と愛好者たちが温かい雰囲気の中で交歓し、「カルメン」「椿姫」「セビリアの理髪師」「夕鶴」などのおなじみのアリアや重唱が次々と披露された。曲の合間に歌手と聴衆の当意即妙の掛け合いが爆笑を誘い、楽しいひと時であった。

私は長らく日本オペラ振興会の常務理事を務め、活動をお手伝いしてきた。日本のオペラ劇団や声楽家はもともと公演の機会が少なく、交響楽団や楽器演奏家よりも演奏家よりも恵まれていないケースが多い。

近年AI(人工知能)とロボット技術の世界は目覚ましい進歩を遂げており、AIが将棋や碁の世界で一流プロを凌駕するケースも出ている。今後10〜20年で、今存在するさまざまな仕事が自動化され、人間の仕事の領域が狭まるとも考えられている。音楽の世界でも、音響技術が急速に進歩し、臨場感のある迫力や艶やかな音色に驚くことが多い。

しかし、何ごとも生(なま)の迫力に勝るものはない。ソプラノ、メゾソプラノ、テノール、バリトンなどの朗々とした声や、ピアノ、ヴァイオリン、フルートなどの繊細な音色も、直接劇場で聴いてこそ心に迫り、感動を呼ぶ。音楽は人々の心を豊かにする。老化予防にも効果があるとされ、人々の生きがいを向上させることができる。AIやロボットが活躍する世界が到来しても、人間が紡ぐ歌や音楽に置き換わることはできない。生の音(おと)はさらに貴重なものになると考える。

日本では世界に例を見ない速さで高齢化が進行している。2025年には、いわゆる団塊の世代すべてが75歳以上となり、後期高齢者が全人口の5人に1人を占めるようになるという。1人ひとりの健康寿命を延ばしていく必要がある。このことは、人の余生も長くなることを意味する。

この点、音楽は人々の心を豊かにし和ませる力がある。人々の生きがいにつながり、老化予防にも効果があるとされる。AIやロボットが主役で人間が脇役になる世界は人間の尊厳を否定することになりかねない。人間のみが持つ感性を生かして音楽、舞踊、演劇、美術や文学など芸術を自らつくり楽しむことで、長い余生を豊かに過ごすことが可能になると考える。

<羅針盤篇57>

  

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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