中国系格安航空(LCC)の日本国内線進出、成功の見通しは?

Record China    2013年12月31日(火) 23時40分

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格安航空(LCC)が日本の方にもなじみの言葉になりましたが、今年ANAのLCCブランド「バニラ航空」の運行開始など、LCCを巡るニュースも続々に出ているようです。

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格安航空(LCC)が日本の方にもなじみの言葉になりましたが、今年ANAのLCCブランド「バニラ航空」の運行開始など、LCCを巡るニュースも続々に出ているようです。

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つい最近のニュースでは、中国の格安航空「春秋航空」が日本において国内線を運行する予定が明らかにされたという。しかし、ジェットスターやAir DOなどの会社が日本人の航空利用者にとっては見慣れたものである一方、春秋航空は初耳だという方がほとんどでしょう。実は同社は数年前から日本に進出しているのですが(上海と日本の3つの地方空港を結ぶ便がある)、就航する空港が市場の大半を占めている羽田・成田・関空などではなく、地方の空港ばかりであることから、ほとんどの人の目には入らないというのが現状です。

しかし、この会社は既に順調に事業を展開していて、かなり利益もあることから日本国内の市場にも進出するようになりました。その背景には何があるのでしょうか。

▼利用者のニーズに応えた「価格」

実は多くの中国人にとって、この春秋航空は重要な存在だと言っても過言ではありません。なぜかと言いますと、真の「格安」であるということです。

茨城−上海便を例として、早めに予約すれば5000円台で片道チケットが入手できます。変な表現ではありますが、これは首都圏の一部のところから成田までのJR特急自由席乗車料と同じ値段です。

「でも茨城だから」と思いがちですが、中国人にはたいしたことではありません。中国国内では飛行機に乗るためにバスや鉄道に何百キロ乗ることは少なくないからです。佐賀便も同じで、福岡からの利用者が多いそうです。そして、実は茨城空港には東京駅から500円で利用できるシャトルバスのサービスもありますから、利用者にかかる経済的な負担も無いので、まさに中国人には大ウケです。

これを聞いた日本人の知り合いは大体、「その安さの代わりに必ず何かを失っている」「安全かどうか心配」というような見方をします。確かにLCCだからコスト削減で安い値段が実現するのは当たり前のことですが、ほかのLCCと比べても国際線なのに他社国内線より安い、ということは不思議だと思えるでしょう。

▼中国人はなぜ春秋航空を選ぶのか

普通のLCCのコスト削減とは、安い航空機(中古や基本装備のみのもの)を使用したり、空港では搭乗口直結でなく構内シャトルバスによるターミナルから顧客を輸送したりすることですが、春秋のような中国系LCCはそれだけでなく、広告・デザインなどあらゆる分野でコスト削減をしているようです。ピーチやジェットスターに比べて春秋のデザインはずっとダサいですし、広告を出しているのを見たこともありません。しかし、これでかなりの費用を抑えることができるのです。もちろん、今まで使ってきた茨城・高松・佐賀がいずれも地方であるため、空港の使用料が成田などと比べると段違いの安さでしょうし、むしろ地方自治体が国際便に歓迎の姿勢を示して、春秋になんらかの便宜を図っているのかもしれません。

たくさんの要因を挙げてきましたが、最も重要なものは利用客のニーズにぴったり合わせたということです。春秋を利用する人にとっては、「『安さ』を重視」というのではなく「『安さ』以外何も要らない」といった方が適切なのです。中国人には、1円でも節約したい人が多く、お金がかかるから何年間も国に帰らない人もいます。その一方で中国人は、ふるさとを重視する国民性でもあり、安く帰れれば必ず帰ります。春秋航空はこれをよく分かっていてサービスを提供しているのでしょう。

だから、空港も遠いですし、飛行機の乗り心地も良くはない。しかし安いからこれでも乗るという人がたくさんいるからです。

客層を見ても、在日中国人や中国籍観光客がほとんどであり、さすがに日本人はこの航空会社の存在を知っていてもあまり利用する気がないようです。

▼日本人がLCCに望むもの

日本のLCCと比較すると分かります。日本のLCCは確かに大手航空会社に比べて安くしていますが、集客用の広告も多くて主要空港に就航するのがほとんどで、黒字を維持するにはやっぱり「あくまでも飛行機ですね」と思わせる値段ではないと運営できないようです。しかし早朝深夜の時刻やその乗り心地はもう日本人にとって限界になり、これ以上きつくさせてコストダウンをすることはできないでしょう。これがチケット代に反映され、そのチケットを購入しようとする際に中国人としては「あれ?これでもLCCなの?」と思ってしまいます。中国では大手航空会社のチケットでもネット予約などで5割引で購入可能ですし、LCCのイメージだと通常の1/10になります。

ここでポイント:日本人は「安くなくていいからサービスのレベルもそれなりに」と思う傾向にあり、その点では、中国人とは異なります。しかもその安さから安全性を不安視するのも日本人の考え方です。こうした考え方が春秋を利用する日本人の少なさにつながり、引いては中国人から見て受け入れられないぐらいの「高い」値段の日本のLCCが順調に運営されているのも理解できます。

▼春秋航空が直面する課題

問題は、今回春秋航空が展開しようとしているのは日本の国内線になるということです。日中間の便なら値段や品質などをどう設定しても需要があるからなんとか運営できますが、日本国内線だとしたら中国人ばかりを狙う話ではなくなります。そのため、今回の就航する空港は成田が主役になるのです。そして日本国内になれば、これまでの客室乗務員に日本人1人、ほかは全部中国人とすることができなくなり、逆に人件費が国際便よりも高くなることになります。

こうしてみると、今後就航する成田−広島・高松・佐賀便は決してこれまでの値段では儲けられないでしょう。まさに日本の既存のLCCと同じようになりそうです。これでは差別化ができず、新たな需要(在日中国人の利用)が喚起できず、単に競争に参入するだけになると思います。しかも安全に疑問があると思い込む日本人は本当に利用する気があるかどうかもわかりません。

ただ、支出・収入のバランスが取れる価格にする前に、集客・アピール目的で上海便のようにとんでもない安い値段で始まり、その後だんだん市場平均のレベルになることも予想されます。

▼春秋航空はどこへ向かうのか

結論としては、今回の春秋の決断は、やはりかなりのハードルを乗り越えなければ成功しないでしょう。航空業界では安全性の追求はどこの会社でも同じですが(航空機も全部アメリカのものですし操縦士も世界共通レベルの専門教習・訓練を受けなければならない)、中国の会社であることだけで日本人に安心して利用してもらうための心構え、そして中国人にほかのLCCと同じ値段でも春秋を利用するための広告がともに必要となってきます。言い換えればこれまで問題にならなかった宣伝・乗り心地などの課題を解決しなければならないのです。つまり、対応するニーズが変わると同時に、コストも上がります。

しかし分からないのは、春秋航空の戦略です。もし最初から儲けることを目的として設定せずに、ほかの儲けている便(例えば上海便あるいは中国の国内線)で新しい赤字便の損失をカバーする覚悟をしてから今回の展開を行うのであれば、話がまた違います。その後、続々と新しい就航地を開き、網を張っていくといつの間にか市場を獲得し、そして利益が得られるようになります。

これもなかなか難しいことになりますが、実際の展開がどうなるかを楽しみにする価値があります。そして中国企業の日本進出は多くの日本人の気分を害するニュースにもなると思いますが、こうしたことは時代の変化を映すことでもあり、該当する企業や業界とそれに関わる人々にもある程度の意味があるはずです。

◆筆者プロフィール:ボクヨウ

1991年中国湖南省生まれ、2011年に留学生として来日。2012年から日本での車旅行を始め、翌年に日本列島走破という目標を達成。現在でも様々な旅を続けている。

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