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<コラム>「家庭も仕事も大事」ストイックに生きる中国のワーキングママ事情

吉田陽介    2020年6月4日(木) 20時20分

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中国人女性は独立心が強く、外で働く女性が少なくない。そのため、女性マネージャー、女性社長もおり、女性の社会進出が進んでいる。家事は分担が進んでいる。資料写真。

中国人女性は独立心が強く、外で働く女性が少なくない。そのため、女性マネージャー、女性社長もおり、女性の社会進出が進んでいる。家事は分担が進んでいる。私の家は妻が外で働いているので、子供の面倒は私の仕事だ。夜、子供の塾へ迎えに行くと、迎えに来ているのは大抵祖父母、または仕事が早く終わった父か母だ。

以前、私は新型コロナウイルス肺炎下の中国でのスーパーでの買い物を扱ったコラムでも述べたが、中国の男性は妻が外で仕事していることに理解を示しており、家事の分担に積極的だ。そのため、妻より家事がうまい夫も珍しくはない。

このように、日本でもそうだが、女性の社会進出に理解がある中国でも、家庭が昇進の「妨げ」になると考えられがちだが、社会で働いているワーキングママはやはり家庭を重視しつつも出世には楽観的のようだ。

「自分の価値を世に示す」

たくましく働く中国のワーキングママ

智聯招聘が5月8日に発表した「ワーキングママ生存調査報告」によると、向こう一年昇進する可能性のあるワーキングママは15.4%で、それに対し、未婚女性の13.8%は昇進の見込みがあるが、結婚しているが、子供を育てたことのないワーキングママで昇進の可能性があるのは11.6%だった。

ただ、育児が出世の妨げになるという現象は確かにあり、育児の段階で出世のチャンスを逃したという人が28.4%で、20.3%のワーキングママが、家庭のことが仕事に集中できないと答えた人が20.3%で、家事と育児のバランスを取るのが難しいと考えているようだ。

女性は家庭のことを考えて育児期には仕事をセーブする人も少なくないが、仕事を完全に諦めたわけではなく、向上心のある女性は自身のスキルアップなどを心がけているという。私の妻も、結婚前は早く仕事をしたいとよく言っていたが、結婚後間もなく子供ができたため、ずっと育児に専念していた。だが、子供が小学生になると、「そろそろ仕事始めようかしら」といったことを口にするようになった。

どうして仕事したいのかと彼女に聞くと、仕事は自分の価値を世に示すためだと言い、さらにこうも言った。

「せっかく大学で勉強してきたのに、学んだことが生かせず、ずっと家事をしてるなんてもったいない」。

大学で勉強してきたことがすぐに仕事に直結するというのは、いささか甘い考えだと思うが、自分の力を試したいというのは理解できる。また、人はそれぞれ潜在能力があり、仕事のチャンスを得れば、素晴らしい仕事をするかもしれない。そういう可能性を否定して主婦で収まっていろと言うのは、男性のエゴイズムかも知れない。未婚女性は仕事をする意味について、「経済上の独立」と考えるが、ワーキングママは「幸せな家庭を築くことが成功」と捉えているようだ。

「家庭のことを仕事に持ち込むな」

頭の痛い育児問題

仕事と家庭の両立は本当に難しいのは中国も同じだ。改革開放前の中国の企業はほとんどが国有で、職場に幼稚園や学校があるので、子育てには好ましい環境だ。改革開放後は民間企業がどんどん出てきて、仕事と家庭が切り離された。公的機関や事業体は今も職員の家庭の問題を考慮に入れてくれるが、民間企業は「仕事に家庭を持ち込むな」というスタンスだ。だから、休みなどで子供が家にいる場合、子供の世話をどうするかは働く夫婦にとって頭の痛い問題だ。

新型コロナウイルス肺炎の影響で中国の学校や幼稚園が休校・休園になったが、企業活動が再開してからは、子供の面倒を見ることができない親は、子供の世話が非常に大きな問題となった。知り合いの中国人(30代 女性)も、「仕事は始まったけど、子供をどうすればいいか、本当に頭が痛い」と言った。

ネット民のコメントを見ると、

「兄弟がいれば、上の子が下の子の世話をすればいいだろ」

「ある程度大きかったら、食事を用意して、やるべきことをリストにしておくといい」

「仕方ない。老人を呼ぶしかないんじゃないか」

上のようなやり方をする家は、自分の両親に世話を手伝ってもらえないか、かなり進んだ考えを持っている人だろう。私も取材などのために外出することもあるが、休みなどで子供が家にいる場合は妻の両親に連絡して一緒に留守番してもらう。

わが家は、上の子が13歳で、下の子が6歳なので、少しくらいの時間なら、食事などを用意して留守番させることもできると個人的には思うが、物騒だからと言って却下される。妻の両親は子供だけを家に置いていると、予測不能な行動をするから絶対にしてはいけないと言う。妻と妻の両親が心配するように、子供の誘拐などが起きているから、子供だけで留守番させることは確かに不安が残る。だから、悪いとは思っていても、妻の両親に面倒を頼んだ方が、いくらか安心感がある。

もちろん、お手伝いさんを雇う人もいるが、信用できる人を見つけるには金と時間がかかる。今年の全人代では、育児代行サービスを発展させることも報告に盛り込まれており、今後は育児の「社会化」も進むのではないかと思う。

女性のキャリアアップを支える

環境が整っている中国、育児の「二極分化」の解消が課題

ワーキングママが安心して働けるのは、女性だからという差別的な考え方がそれほど強くないこともあるが、高齢者が元気で、孫の面倒を生きがいとしていることも大きい。定年退職した研究者に、最近何をしているかと聞くと、「孫の面倒を見ています」という人が少なくない。

妻の両親も子供がらみのことで連絡しても、「大丈夫、任せて」と二つ返事で同意してくれる。逆に、孫が大きくなってからは、寂しくなって犬を飼ったりする人が多い。

また、男性の家事協力も大きい。中国人男性の家事スキルの高さは先ほど述べた通りだが、日本でも「家に入る」ことを選択する人もいる。私が下の子を幼稚園に迎えに行く時、40代後半のくらいの男性といつも顔を合わせる。働き盛りの世代である彼がなぜ夕方の早い時間に子供を迎えに来ているかと言うと、体を壊して退職し、家に入って家事全般を取り仕切る専業主夫になったからだ。これまで正社員としてバリバリやってきたのが主夫になるのだから、普通なら悲壮感を漂わせてもおかしくないのだが、彼は人生を楽しんでいるように見える。

日本でも主夫が徐々に出てきているが、周りからは訳ありの人のような目で見られる。私もフリーランスとして家で仕事しているので、家事は必然的に私の仕事だ。上の子供が通っている日本人学校の会合にも顔を出すが、参加者のほとんどは母親。立ち入れないような雰囲気で、なかなか気まずい。

中国にも、こういう生き方をしている人がいるかと思うが、主夫がまだ認知されていないせいか、なかなか表には出ていない。夫婦によっては夫よりも妻の方が出世し、稼いでいる人もいる。出世のために頑張る妻をサポートするような主夫の生き方ももっと出てくるのではないかと思う。

このように、今の中国は、ワーキングママが自分を発展させる環境が一応はあるが、そのような環境が整ってない人もいる。育児面での「二極分化」をどうするかは大きな課題だと思う。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

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