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<コラム>目指すは日本式弁当か?変化している中国のお弁当事情

吉田陽介    2020年3月26日(木) 17時50分

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日本の弁当は色々な料理を少しずつ入れるというものだが、中国式の弁当はトマトと卵を炒めたものや野菜と肉を炒めたものがメインだ。写真は中国の弁当。

新型コロナウイルス肺炎の感染拡大ペースが鈍化している中国では、「震源地」となった湖北省以外は感染者があまり出ていないため、企業活動が次々と再開された。私が滞在している北京も、感染者は出ているが一時期ほどの増加ペースではなく、街も人や車が多くなった。

ただ、感染を恐れて人の集まるところへ行くのには慎重な人が少なくない。感染拡大が続いている春節頃、インターネット上では「北京の地下鉄はすごく混んでいるので心配だ」というように通勤について心配する声のほかに、「私の会社の近くには飲食店が少ないから、食堂で食べるけど、たくさんの人と一緒に食べるのが心配だ」と食事を心配する声もあった。インターネットユーザーの投票では、仕事再開後、心配なこととして、マスクがないと答えたユーザーは506人だったが、食事の問題が解決できないのは304人と、二番目に多かった。

企業再開後、企業や役所の食堂は多くの人が集まらないよう、席の間隔を開けて、試験会場のような雰囲気で食事できるようにしたり、料理を容器に詰めてオフィスに配ったりしているところもある。一方で、食堂がない企業に勤めている人は、出前を取ったり、自分で弁当を用意したりする。あるネットユーザーは、「出前の料理は体に悪いから、自分で用意した方がいい」という。中国は日本と違い、弁当を持って行くよりも、その辺の店で食べるというスタイルが多いイメージだが、弁当を持って行く人もいる。だが、その弁当は日本のそれとは少し違う。

「冷めたら食えたものじゃない」?

中国料理の炒め物は弁当に合わない

中国の家庭料理は野菜や肉を炒めたものが多く、だいたいは2~3種類の炒め物と主食というのが定番だ。外で食べる時は、一人だと一種類の料理、またはラーメンや餃子といった主食類しか食べられないので、たいていは友人らを誘って食べに行く。ただ、最近は「おひとり様」用の定食もあるので、必ずしも何人かで食べに行く必要はなくなっている。

中国料理は「涼菜」と言われる料理は冷えても大丈夫だが、「熱菜」のカテゴリーに入る炒め物は熱いうちに食べるのが美味しいとされる。私が中国人妻の実家に食事に呼ばれた時は、妻の両親は私たちが家に着いてから、炒め物を次々と作り始める。熱々で食べたほうが美味しいからだ。

昼に食べた料理が余って、夜に食べる場合は、中華鍋で温めてから食べる。というのは、炒め物は冷めたまま食べると、油っこさをより感じるようになる。レストランの炒め物はきれいに見せるためか、たくさんの油を使っているので、冷めると美味しさが半減する。

中国の家庭でも弁当を持って行く例があるが、炒め物にご飯というものだ。前述のように、炒め物は冷めると美味しくないが、弁当を持って行く中国人は弁当を食べる前に電子レンジを使う。

2006年にある学校で日本語を教えていた時、午前の授業が終わると弁当を出してくれた。おかずの中身は野菜の炒め物の二種類で、それに肉または魚がつくといったものだった。時間通りに授業が終わった時は温かい弁当にありつけたが、長引くとおかずは当然冷えている。野菜は冷えていてもまだ食べられるが、肉が入っている料理は、肉の質が悪かったというのもあるかも知れないが、お世辞にもと美味しいとは言えない味だった。

だからか、教師が食事をとる部屋には電子レンジがあり、授業が長引いて食事が遅れた中国人教師は弁当を電子レンジに入れて温めてから食べられるようになっていた。私は当時、中国人にそんな習慣があるのは知らなかったし、日本人には冷えた弁当をわざわざ電子レンジで温める習慣はないので、冷めた弁当をそのまま食べていた。後になって、同じように食事にありつくのが遅くなった教師が、「中国料理は冷えると不味いので、先生のも温めてあげますよ」と言い、私の分も温めてくれた。

中国人が冷えた弁当を避けるのは、料理の違いだけでなく、習慣上の違いがある。漢方では冷えたものを食べたり飲んだりするのは胃を痛めるとされている。冬にビールを飲むとき、常温で飲む中国人も少なくない。だから、レストランでビールを頼むと、決まって「冷えたのがいいですか、常温がいいですか」と聞かれる。日本人目線で考えると、ビールは冷たいものが当たり前だと思うが、中国人の中には冷えたビールを敬遠する人もいる。

そのほかの例を挙げると、中国人はヨーグルトを冷蔵庫から出してすぐには食べず、あらかじめ冷蔵庫から出しておく。このように、冷えたものが体に悪いという漢方の考え方が人々に浸透しており、それが弁当にも反映されている。

情報化の影響?

凝った弁当に目覚めた中国人

日本の弁当は色々な料理を少しずつ入れるというものだが、中国式の弁当はトマトと卵を炒めたものや野菜と肉を炒めたものがメインだ。多くの料理を入れると、それだけ多くの炒め物を作らなければならない。日本の弁当の場合は、作り置きできるものもあるが、中国の炒め物は作り置きできない。

日本の弁当を紹介しているブログのネットユーザーのコメントに、「日本の主婦は時間があるから、凝った弁当ができるんだろう」と冷ややかなコメントがあった。このユーザーのコメントは一理ある。中国は共働きがほぼ当たり前になっているので、複数の料理を作っている暇はない。料理をいくつか作るとなると、一つの料理を作り終わったら、中華鍋を洗って、再び炒めなければならないので手間がかかる。

日本の場合、冷凍食品が発達しているので、いくつかの料理を少しずついれることは難しいことではない。それに対し、中国の冷凍食品は日本ほど発達しているとは言い難い。例えば、白味魚のフライは中国のスーパーでも売られているが、日本のスーパーで売られているものは電子レンジで1分ほど加熱すれば食べられる。それに対して中国のそれは油で揚げなければならない。日本の冷凍食品も昔は今ほど便利でなく、油で揚げる必要のあるもの、オーブントースターで温める必要のあるものが多かった。今の中国のビジネスパーソンの生活はテンポが速くなっているので、忙しい人のライフスタイルに合わせて今後の中国の冷凍食品も変わってくるのではないかと思う。

また、中国の弁当と日本の弁当が違うのは両国の文化の違いもある。日本人は細かいものを作るのに長けているため、一つの弁当箱にたくさんの料理を詰め、見た目もきれいなものに仕上げる。それに対し、中国人は見た目よりも実を重視する。もちろん、商売物なら見た目も重視することもあるが、家庭料理なら、お腹いっぱいになればいいと考え、見た目をあまり重視しないし、前述のように、中国料理の炒め物は少しだけ炒めるということはなかなかできないので、たくさんの料理を小さい箱に詰め込むのには向かない。

中国のブログを見ていると、炒め物にご飯、フルーツという簡単な弁当ではなく、炒め物のほかに、日本の弁当を彷彿とさせる、いくつかの料理を入れている弁当も出てきた。それは複数の炒め物を入れるものではなく、作り置きのできるコロッケもどきの料理などを入れるものもある。主食も、白いご飯だけでなく、のり巻きにする人もいる。また、サンドウィッチの弁当を持ってくる人もおり、中国人の弁当も多様化している。それは情報化の発展によって人々が外国のお弁当の情報に触れることができるようになったこと、フライを作るときに使うパン粉、海苔巻きを作るときに使う巻き寿司用の海苔や調味料などが手に入りやすくなっていることが大きい。

中国の弁当も「新時代」に入っているのである。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

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