Record China 2013年11月8日(金) 7時20分
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6日、通勤時間帯で込み合う7時40分に、中国共産党山西省委員会の庁舎前で連続爆発が起きた。最初の爆発は政府などへの不満を抱えた人民が抗議するために訪れる窓口前だった。写真は山西省爆発事件現場。共産党委庁舎前に煙が上がっている。
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また事件が起きてしまった。
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11月6日の朝、通勤時間帯で込み合う7時40分に、中国共産党山西省委員会(山西省党委)の庁舎前で連続爆発が起きた。それも最初の爆発は「信訪部」の入り口前。「信訪」とは、政府などへの抗議を抱えた人民が抗議文を提出したり、口頭で陳情するために訪れる窓口である。
◆「中央巡視組」(視察団)の山西省入りを狙った
なぜこの日を選んだのか。
実は10月31日午前、中国共産党の中央紀律検査委員会が「中央巡視組」を山西省に派遣し「山西省巡視工作動員会」なるものを党委庁舎で開催していた。
「巡視組」とは本来は党幹部が紀律違反をしていないかどうかをチェックするために地方巡業をする組織だった。2003年に母体ができ上がり、2009年に現在の名称になったまだ若い組織である。
近年、党幹部の腐敗が進み、地元の企業との癒着によって利益を独占し(権銭交易)、人民に莫大な損害と不満を与えていることから、実際上は各地域に未解決の社会問題がないか、当該地域の党幹部に人民が不満を抱いていないかを視察する役目を果たしている。視察期間は2カ月間。
特に習近平政権になってからは全国から10か所の問題地域を選び出し重点的に調査するようになった。
第一回目の重点対象10地域が選ばれたのは2013年5月17日。その中に重慶市は入っていたが、山西省は入っていない。
ところだ2013年10月31日から始まった第二弾の重点対象10地域には山西省が入っていた。
◆石炭成金が党幹部と癒着―激しい貧富の格差を生む
なぜ山西省かというと、山西省は石炭の街で、石炭成金が党幹部との癒着を深め、賄賂収賄などで利益を独占し、炭鉱労働者を激しく搾取していたからである。それはまるで悪代官が権勢を恣(ほしいまま)にする封建時代の様を呈していた。
山西省というと、連想するのは「煤老板」(メイ・ラオバーン)。
中国語で石炭は「煤炭」(メイタン)。「老板」は「店主、社長、ボス」などの意味で、経営のトップのことを指す。
この「煤老板」、山西省の統治のトップである党委書記や党委幹部としっかり癒着しているため、党委庁舎の「信訪部」を訪れる貧困層の陳情は絶えない。しかし党幹部は貧困層の来訪を力で退け、何ごともなかったような顔をして中央に良い顔をする。
今般、中央巡視隊が山西省を選んだのは、党委幹部と「煤老板」の癒着や利益独占により貧富の激しい格差が生まれていることを中央が知っていたからだ。ちなみに山西省は99%が漢民族なので少数民族問題は存在せず、同民族間の貧富の格差の問題である。
中国各地では毎年20万件の大小さまざまな暴動が起きているが、「大衆路線」を政権スローガンにしている習近平政権は、「貧富の格差」や「党幹部の腐敗」が原因で暴動が起きるのは非常に怖い。そこで山西省を重点対象の一つにした。
◆虚偽の報告をさせないために、人民の不満を見せつけた
ところが、中央が視察に来ると、地方の党委や政府は一般に、「この地域にはいかなる問題もありません。われわれが人民の側に立って問題解決しているために、人民はいかなる不満も抱いておりません」と虚偽の報告をするのが通例。
そこで山西省の党委や政府に不満を抱いている「虐げられている側」の人民が、「とんでもない、人民は党と政府にこんなにまで不満を抱いている。山西省にはこんなに多くの党幹部の腐敗がある。それを正視して問題を解決してくれ」という叫びを表現するために爆破事件を起こしたのである。
確かに今回の不満を表現する手段は無実の周辺住民を巻き込む行為なので、「テロ的手法」と言えるかもしれない。だから中国政府は天安門の車炎上事件と同じように、喜んで「今回も一部の過激分子が起こしたテロ事件であって、人民の不満を表したものではない」と言いたがるだろう。
それを良いことに日本のメディアまでが「テロ事件」と言ってしまうと、人民の不満はどこに持って行けばいいのだろうか。
山西省ではよく炭鉱の爆発事故が起きている。それは安全を確保するための投資を怠った経営が招いた結果だ。それにより多くの炭鉱労働者の命を奪ってきた。
今回の爆破物の仕掛けはテロ行為の際に使われる方法に似ているが、山西省であるだけに炭鉱爆発によって犠牲になってきた貧困層の「不満の爆発」と筆者には映る。
11月9日から習近平政権1年目を飾るはずの三中全会(第三次中共中央委員会全体会議)が始まる。これを前に引き続き起きた大きな事件。それは少数民族にも漢民族にも不満が鬱積していることを表している。習近平政権に与える打撃は尋常ではないだろう。
(<遠藤誉が斬る>第8回)
遠藤誉(えんどう・ほまれ)
筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』など多数。
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