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<コラム>食欲に余白と美意識を加える

黄 文葦    2019年10月17日(木) 19時0分

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20年間、体重がほぼ変わっていない。普段、大食いをしないからだ。子供の頃、大人から「七分飽」という中国語の言葉を教わった。日本語でいうと、腹七分目である。つまり、食欲に余白を持つこと。食欲があっても、節度ある食事を貫いてきた。写真は和食。

20年間、体重がほぼ変わっていない。普段、大食いをしないからだ。子供の頃、大人から「七分飽」という中国語の言葉を教わった。日本語でいうと、腹七分目である。つまり、食欲に余白を持つこと。食欲があっても、節度ある食事を貫いてきた。また、お客さんにお茶を淹れる時、こぼれないように、カップの七分目までにするという教えも覚えた。

テレビの大食い番組がまったく理解できない。体を壊すではないか。大食いタレントのことを心配する。人間にはそんなに異常な食欲があるはずないのに、異常な量の食べ物をお腹に入れてしまう。食べ物ももったいない。そんな番組はなんの意味があるのだろうかといつも疑問を感じる。

ダイエットは、すでに世の中の共通認識になっているらしい。実は一番当たり前の簡単なダイエット方法は、食欲を抑えることであるはず。なぜ、多くの人ができないのでしょうか。医者と薬の力を借りて、体重を減らすサプリとかを使って、ダイエットする人も少なくない。人はなぜ自分の食欲をコントロールできなくなるのでしょうか。実に意味深い。

多数の俳優さん、お笑い芸人が一日一食を実践している。一食だから、一日中ワクワクして、たいへん期待するという。さらに筋トレで体を引き締める。いつまでも体型が美しい。役者が役作りのために、太ったり痩せたりする。自分の食欲をコントロールすることは大したものだと思う。勿論、それは個人によることで、簡単に真似できない。

2011年東日本大震災の直後、作家・元東京都知事の石原慎太郎が、日本人の「我欲」が横行しているとの批判を繰り返していた。我欲とは、物欲、金銭欲等々。その説が物議を醸した。まあ、それは一理あると思う。勿論、「我欲」は日本人の課題だけではなく、人間全体に関わること。物が溢れている物余り時代に、選択と控えることが大事である。

食欲は一番基本的な「我欲」である。食欲との付き合い方が自然と環境にも影響を及ぼす。世の中、「◯◯放題」というビジネスモデルがありすぎる。食べ放題だから、焦って食べ、余計なものをお腹に入れてしまう恐れがある。食べないと損するという意識が生じやすい。食べ放題で食欲が膨らみ、余白がなくなる。それはまさに過剰な「我欲」を生じさせる。飲み放題で飲み過ぎたら、二日酔いする。食欲には両面性が持たれる。適度な欲は体に喜びを与える。過度な欲は心と体を壊す。ケーキ・スイーツの食べ放題もある。一気に甘いものをたくさん食べると太ってしまうではないか。以前スーパーでみかんの詰め放題を見かけた。大勢の人がなるべく多くのみかんを袋に入れて、みかんが潰れそうで、泣きそうに見えた。

和食は食欲に余白と美意識を加える典型的な料理。美しいお皿に少量の食べ物を入れて、巧みに並べる。まさに盛り付けはアート。まず「美味しそうだね」と心で味わい、そして、少しずつ吟味する。それを、休日の食欲の満たし方としてはいかがでしょうか。また、安いものをたくさん食べるより、ちょっと高いものを少し食べる習慣がいいと思う。

日本語を勉強している中国人から聞かれた。「日本人はなぜ食べ物の言葉の前に『お』をつけるのか。お米、お菓子、おでんとか」。それは美化語で、普段慣れている話し方だが、いい発見だと思う。お米、お菓子など食べ物に敬意を払って、大事にいただく。食欲が清々しくなる。

これから食欲の秋、美味しい旬の食材が揃う。食べ過ぎてしまう可能性がある。食欲の美意識を忘れずに、眼福と口福に出会い、時間をかけてゆっくり味わうのがよいでしょう。

■筆者プロフィール:黄 文葦

在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。

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