木口 政樹 2019年9月9日(月) 19時40分
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9日午前11時半ごろ、文大統領がチョ・グク氏を含む6人の任命を強行した。写真は韓国大統領府。
8月中旬ごろからはじまったチョ・グク(曹国)事態は、今現在も毎日トップニュースだ。日本でもかなり報道されたようなので、この人の容貌とか性格などについては皆さんのほうがもう筆者よりも詳しいかもしれない。韓国の役人はハンサムだね、なんていう声が日本のおばさん連中からあがっているという話もこちらでは聞こえている。
チョ・グク氏は現在、韓国の法務部の長官(日本で言えば法務相)に任命されることを待つ立場。大統領が任命すれば彼が法務相(法務大臣)となる。本来は9月6日ごろに任命の予定だったのだけれど、いまのこの騒ぎ。さすがに文大統領も様子を見ている感じだ。
娘の論文問題からはじまり、奨学金の不正受給、ある大学からの偽造表彰状問題、ファンド投資問題などなど。チョ・グク氏自身は(多くの問題で)直接の関与はないのかもしれないが、それは法を知り尽くした者の方便のようにも筆者には思われる。何も知らなかった。この一言ですべての問題を乗り切るつもりのようだ。
とくにきのう、きょうのニュースは、韓国にある東洋大学(ドンヤンデ)の総長賞を、同大学に勤めているチョ・グク氏の奥さんであるチョン・ギョンシムという教授が娘のために偽造して総長のハンコも押して総長賞を授与されたことになっている問題。東洋大の総長であるチェ・ソンヘ総長は、そんな賞は出した覚えはないとはっきり言っている。9月4日に、チョ・グク氏の妻であるチョン・ギョンシム教授が電話で言ってきたという。「総長賞の授与は、自分(チョン・ギョンシム)に委任したと言ってください」こういう証言をしてほしいと電話で言ってきたというのだ。そうすれば、すべてがうまくいくと。電話はすぐに夫のチョ・グク氏がかわってでてきて、あれこれいろいろと言ってきたという。今朝の朝鮮日報の報道によると、電話でかわってでてきたチョ・グク氏が「(総長賞を)委任したという報道資料を作成してほしい。頼む」と言ってきた。
実は、東洋大の総長であるチェ・ソンヘ氏とチョ・グク家族とは、何回か食事もしたことのある関係だったようだ。ある共通の友人を通して知り合い、チョ・グクと妻のチョン・ギョンシムと娘との4人で食事をしたことがあるということ。だから娘のこともよく知っていたわけだ。チョ・グク氏は、最後に「わたしたちの娘もよくご存知じゃないですか。娘のためにも、報道資料の作成、お願いします」と言ってきたのだ。
これにはチェ総長も心が動かされて夜は一睡もできなかったという。チョ・グク氏夫妻の娘は、チェ総長から見てもほんとうに優しくてきれいなのだ。しかしいくら心が動かされたといっても、嘘の頼みを聞き入れるわけにはいかない。少なくとも総長も教育者だ。嘘を強要されてそのままうんと言ってしまったのでは、学生たちをどんな顔で教えていくのか。嘘の証言はしないことに腹を決める。
チョ・グク事態が東洋大にまで飛び火し、きのう、今日は前述の通り表彰状の偽造が核心争点になってしまっている。チェ総長自身もこれには驚いている。「全く予想できなかった。検察が強制捜索する前で、連絡が取れなかったチョン・ギョンシム教授から電話がかかってきた。私(チェ総長)が「状況が複雑になっていて授業をどうするのか」と尋ねると、「一週間の休講をして、補強計画書を出した」とチョン・ギョンシム教授が答えた。そして、「私(チョン・ギョンシム教授)がウンドン(熊東)学院の理事を務めていた時、検察が資料を要求したが一つも提出しなかった。そうしても何の問題もなかった。だから検察から要求があっても学校にある私(チョン・ギョンシム教授)に関する書類を提出しないでほしい。提出したら総長にとっても不利になることもある」と言った。これはひどく不愉快だった、とチェ総長は振り返る。
チェ総長は、チョ・グク夫妻の娘の表彰状は100%偽造だと確信している。検察で参考人調査を受ける時、表彰状のコピーを見た。もっともらしいが、賞状の一連番号が異なり、これまでそのような様式の表彰状が発給されたことはなかった。チョン・ギョンシム教授が純粋に自分の娘のスペックのために操作した表彰状だ、という確信はゆるがない。
東洋大関連はこのへんまでにして、ここで簡単に紹介しておきたいのが、現在の検察庁総長(検察庁長官に相当)になっているユン・ソンヨルという人物。文大統領の任命を受けて、つい最近、検察庁総長になったばかり。この人が、文在寅(ムン・ジェイン)の腹心の中の腹心であるチョ・グクの強制捜査にゴーサインを出したのだ。文在寅から任命を受けて検察総長になったのだ。普通だったら、文在寅寄りの動きをするわけだけれど、この人、ユン・ソンヨルさんはちがう。「いかなる個人に忠誠を誓うのではなく、正義に忠誠をちかうものだ」と彼は任命をうけたときから持論のごとくに言ってきた人だ。
今回も、チョ・グク氏を検察捜査にかけるという破天荒ともいえるような動きに出た。多くの国民はみな拍手。チョ・グク支持者からはブーイング。それもそのはず。チョ・グク氏は、今回法務大臣になって、数年後には大統領になろうという野望をもっている人物。こんな人物には、ある程度おべっか的に適当に捜査してお茶を濁しておいて、あとで「だからあたしには検察総長としての任期の保障とかそういうものをください」っていう図式がよく描かれるわけだけれど、ユン・ソンヨル検察総長はちがうのだ。どこまでチョ・グク事態を暴けるか。ユン・ソンヨルさんの意志一つにかかっている。こういう正義漢がいる韓国。まだまだ捨てたものではない。がんばれユン・ソンヨル!
と、ここまで書いていたら、9月9日午前11時半ごろ、ニュース特報がはいり、文大統領がこのチョ・グク氏を含む6人をそのまま任命したということ。これにはちょっとオドロキだけれど、とにかく文氏は腹心のチョ・グク氏をそのまま法務相として任命した。
かなりの反発が予想される。大学生らのデモも活発化するかもしれない。この政権の最大の峠となるかもしれない。どちらにしてもチョ・グク氏が法務大臣になることで、日本との関係はさらに悪化することは間違いない。検察の取調べが山と積まれている状態での任命。この危機を文政権は乗り切ることができるのだろうか。
■筆者プロフィール:木口 政樹
イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。 著書はこちら(amazon)Twitterはこちら※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。
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