<コラム・巨象を探る>安倍「対中包囲外交」は幻想!?―習近平攻勢で米露豪印など「対中連携」に動く

八牧浩行    2013年4月11日(木) 7時10分

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安倍晋三首相は就任以来、同じ制度や価値観を共有する国々と連携する「対中包囲外交」を展開しているが、豪州、インド、豪州、ロシア、アジア各国、さらには日本が頼みとする米国でさえも、首相の思惑とは裏腹に、醒めているのが実情だ。写真は安倍首相。

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安倍晋三首相は就任以来、沖縄県尖閣諸島をめぐる領土問題を念頭に、同じ制度や価値観を共有する国々と連携する「対中包囲外交」を展開、各メディアもその狙いを大々的に報道している。ところが、インド、豪州、ロシア、アジア各国、さらには日本が頼みとする米国でさえも、首相の思惑とは裏腹に、醒めているのが実情。経済的に拡大する中国との良好な関係の維持拡大を経済・外交政策の基本としているからだ。日本が対中包囲外交を成功させるのは至難の業。各国はむしろ中国との協力関係強化を図る動きを見せている。

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日本が推進する「中国包囲網」を危うくするニュースがこのところ頻出している。3月半ばに就任したばかりの習近平・中国国家主席は最初の公式訪問先としてロシアを選択。モスクワでプーチン大統領と会談し、国連安全保障理事会など国際的枠組みでの協調や経済関係拡大の方針を確認し、「戦略的パートナーシップ」の強化を盛り込んだ共同声明に署名した。共同声明には、主権、領土保全、安全保障など「核心的利益」にかかわる問題で協力することも盛り込まれ、尖閣諸島をめぐって日本と対立する中国が、北方領土問題を抱えるロシアとの共闘姿勢を打ち出した形である。

3月下旬に来日したインドのクルシード外相は東京で記者会見し、中国けん制を狙って、日本や米国、インド、豪州が戦略的協力を深めるべきだとの考えについて、「インドは自立・独立した意思決定をしていく」と語り、「中国包囲網」構想を全面否定した。その上で「中国とは貿易面を中心に良好な関係にあり、米国も中国とは良好な関係にある事実を見過ごしてはならない」と指摘。インドは中国包囲網を築かないと断言した。それどころか、「米国自身が中国と良好な関係にあるという事実を見過ごしてはならない。インドとしては中国との協力関係を念頭において、国益を追求していきたい」と明言したのだ。

豪州のギラード首相は4月上旬、「史上最も高いレベル」の代表団を引き連れ訪中、首相、外相、経済相が「戦略対話」を毎年開催することで合意。ギラード首相は、「豪中関係の将来が強化された」との声明を発表した。さらに同首相は、海南省で習近平主席と会談し、両国は「戦略パートナーシップ」を結んだと宣言。人民元と豪州ドルの直接取引のスタートで合意している。

カー豪外相も3月、「われわれは米国とも中国とも深い接触を図っていく。米国と中国が共にわれわれと非常に友好な関係にあるというならば、大きな力を発揮する。中国を封じ込めるいかなる方法についても、豪政府はこれを拒否する」と断言した。

ロシア、インド、豪州だけではない。尖閣諸島問題を念頭に置いた「中国包囲網」づくりで安倍首相が頼みとする米国オバマ第2期政権も中国と「蜜月関係」にある。外交最高責任者である楊潔チ国務委員(前外相・副首相級)は駐米大使を務めた親米派の代表格で、米国の政財界に広い人脈を持つ。前駐米大使の張業遂氏も筆頭外務次官に就いた。

親中派のケリー米国務長官は王毅元中国駐日大使が3月中旬に外相就任した際、真っ先にお祝いの電話をかけ長時間話し込んだ。習政権が発足して最初に訪中した外国の要人は米国のルー財務長官。習氏との会談は国家主席就任からわずか3日後に実現した。ルー氏にとって2月末の財務長官就任後最初の外遊であり、日本などほかのアジア諸国に立ち寄らなかった。

習氏はルー財務長官との会談で、ルー氏の訪中を「オバマ大統領が中米関係の発展を高度に重視している表れ」と強調。その上で、「経済は両国の関係の安定の礎だ」と述べ、「より多くの利益の一致点を見いだそう」と呼びかけた。オバマ政権は最大の貿易相手の中国と良好な関係を維持して米国製品を売り込みたい考えだ。

米中両国は「新しい大国関係」の構築を目指すことで合意している。両国は「米中戦略・経済対話」を今年夏までに開催する予定。中国側は副首相、米側は国務長官と財務長官が代表を務め、安全保障から経済まで幅広く議論する。ケリー国務長官は4月12日から韓国、中国、日本を訪問するが、北京滞在が最も長い。これに続いて米主要閣僚の中国詣でが続く。

▽中国への軍事演習参加要請相次ぐ

米国主催の世界最大の海上軍事演習である環太平洋合同演習(リムパック)に中国軍が初めて招待され、次回の2014年演習で実現することになった。米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長も4月中旬、「中国を脅威とは見なさず、中国と組織的、恒常的な対話の枠組みをつくることが重要。今後数年間で、対話の枠組みづくりの可能性を探りたい」と明言した。豪首相も、「将来的に米中豪の3カ国による合同軍事演習を行いたい」としている。この時期に符号を合わせたように、中国参加の軍事演習構想が出てきたのは注目される。

2013年4月には、南アフリカでBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)首脳会議が開催され、BRICS銀行設立など新しい将来ビジョンを話し合った。この4カ国は人口で世界の43%、GDPでも非常に大きなシェアを占めており、中国はシン・インド首相やプーチン首相らと「緊密な関係」を再確認している。これより先習主席はタンザニアなど多くのアフリカ諸国を歴訪、経済連携で合意した。さらに同4月、習主席は中国海南省で開催された「アジアフォーラム」に出席、その前後にブルネイ、ミャンマー、カンボジア等、東南アジア関係国と会談している。世界に散らばる華僑らも動員した「中国外交」のしたたかさが際立っている。

<「コラム・巨象を探る」その28>

<「コラム・巨象を探る」はジャーナリスト八牧浩行(Record China社長・主筆)によるコラム記事。近著に「中国危機―巨大化するチャイナリスクに備えよ」(あさ出版)がある>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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