<コラム>米韓間のミセモンジがもっと深刻

木口 政樹    2019年4月2日(火) 13時40分

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米朝関係は2月28日の会談決裂後、これまで何度も経験した膠着状態に陥っている。

米朝関係は2月28日の会談決裂後、これまで何度も経験した膠着状態に陥っている。決裂直後にトランプと文大統領の電話対話があった。ここでトランプが「米国のビッグディールの考え方を北朝鮮に説明してくれ。金正恩が既存の政策を変えることで制裁を解くこともできるし対話が可能となる。それを説得できるのは中国のシジンピンと韓国のあなた文大統領しかいない。しかし金正恩がより信頼するのは文大統領なのだから、なんとか説得してくれ」と言ったのに、韓国の青瓦台(大統領府)が、まるで第三者のように「仲裁役を(トランプから)頼まれた」などと発表するものだから、米の上層部みんながあきれ返ったという。

あきれるのもわかる。米の話と青瓦台の話がまったくちがうのだから。米は、ビッグディール(100%の非核化をやったら、北への経済制裁の全面解除)を北に納得させてくれということであるのに対し、青瓦台(韓国)は、米と北の仲裁役をやってくれと頼まれたといっている。仲裁役というのは、ビッグディールの説得じゃなくて、北の立場を米が納得してくれるよう米に頼み込むといったニュアンスだ。

トランプの話は、文大統領が米の立場に立って北に迫るということなのだが、青瓦台の話は、文大統領が北の立場に立って米に迫るということになっている。これじゃ、米があきれ返るのも無理はない。

いみじくも米国シンクタンク関係者が言ったそうだ。「韓国はPM2.5問題が深刻だと聞いているけど、韓国・米国間のミセモンジ(微小粒子状物質)問題がもっと深刻だよ」と。言い得て妙である。

こうしたなか、北朝鮮が3月22日、開城(ケソン)の南北共同連絡事務所から一方的に撤退した。北側は何の説明もなしに「上部の指示によるもの」とだけしたという。キム・ジョンウン決定という意味だ。韓国政府は遺憾を表しながら、「北側が速やかに復帰し、南北間の合意に従って連絡事務所が通常の状態に戻ることを望む」としたが、南北関係はしばらくは全面中断される可能性が高まっている。

韓国政府は昨年9月、北朝鮮制裁違反の懸念の中にも100億ウォンの改・補修費用を投入し連絡事務所開設を推進した。当時文大統領は「南北が24時間365日疎通する時代が開かれた」とその意義を強調した。しかし、北朝鮮は先月末、ハノイ米朝首脳会談決裂以降、毎週定例で行われていた会議に何の説明もなしに参加せず、完全に荷物をまとめて引き上げていったのである。

北朝鮮は当初から連絡事務所を南北関係の改善ではなく、国際社会の対北朝鮮制裁緩和のためのバイパス窓口として利用しようとしていたフシがある。しかし、韓米葛藤の溝が深くなって米国が文大統領の言葉を不信していることが確認されると、北朝鮮も文政権をこれ以上利用する価値がないと判断したものと思われる。

最近、韓米関係は同盟とは呼べないほど崩れてしまっている。米財務省海外資産統制国(OFAC)は3月23日、北朝鮮の不法海上取引注意報を発令しながら疑問船舶リストに韓国船1隻を含めた。国際社会の制裁を避けて不法積み替え(瀬取り)で北朝鮮と精製油を取引した情況があるということだ。深刻な事態といわざるをえない。

今回、米国が追加した「疑い船舶」の国籍の中で、同盟国は韓国しかない。まだ明確な証拠が確保されていない状態で同盟国の船をブラックリストに載せたのは、事実上、韓国政府に対する警告ということ。北朝鮮脅威の最大の被害者である韓国が、対北朝鮮制裁の「穴」と疑われる洒落にもならない事態が起こっているのだ。

現在、米国をはじめとする国際社会は、北朝鮮が核放棄を決心するように追い込む方法は制裁圧迫唯一つという点で一つになっている。米国は北朝鮮の海上不法積み替え(瀬取り)を取り締まるために、警備艦まで韓国に送ってくる始末だ。韓国政府が、このような制裁に積極的に参加しなければ米国の信頼を回復することができず、米国の信頼を得ることができなければ、北朝鮮が韓国に「仲裁」の役割を期待するはずもない。しかし、文政権は北朝鮮の核廃棄がどうなろうが一貫して、金正恩ショーを継続させつつあるようだ。「制裁緩和が先で、核放棄はその後」という不合理な発想に固執している。北朝鮮の代弁者といわれても反論できるはずもない。完全に北の立場での発想なのだから。

制裁のなくなった北が核を放棄するはずがない。このような事情をよく知っている北は、3月22日、開城から撤退して「南側は残っていてもよし」とした。北一流の文法だ。(米国にもう一度頼み込んでみたらということであろう。)

文大統領が「金正恩・非核化の意志」という実体のないバブルを作りあげようとした時から、ともすれば大韓民国が最大の被害者になる恐れがあるという懸念があった。その懸念が最悪の姿で現実化されている今日この頃だ。南北間の戦争の危険性をなくしたという点では文大統領の仕事は大いに評価できるが、断固たるべきときに断固たる態度を示すことも国際政治においては非常に重要だろうと思われるのだが。

金正恩は近々ロシアに行ってプーチンと会うようだ。シジンピンとも会うらしい。朝鮮半島をめぐる情勢がどんな展開を見せていくのか、日々に注目である。

ちなみに、北は3月25日、いきなり南北共同連絡事務所に人員を復帰させた。トランプが、ISを叩き潰したというニュースで震え上がったのか。はたまたトランプが、北への制裁加重を撤回したせいか。どちらにしても、まるで幼稚園の園児のけんかをみているようだ。

今回のコラムは、朝鮮日報をかなり参考にさせていただいた。ここに明記しておきたい。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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