<点描・北京五輪>朝倉浩之の眼・回憶 北京五輪(4)市民生活の不便、続々

Record China    2008年9月1日(月) 7時13分

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北京五輪期間中、北京市内では様々な生活上の制限が加えられ、市民に多く不便があった。市民の誰もが感じた不便といえば、なんと言っても地下鉄の持ち物検査だろう。写真は8月1日、北京のバス乗車時の安全検査。

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北京五輪期間中、北京市内では様々な生活上の制限が加えられ、市民に多く不便があった。市民の誰もが感じた不便といえば、なんと言っても地下鉄の持ち物検査だろう。空港並みのチェック体制が全ての地下鉄駅で敷かれ、乗客全員がX線検査を受けさせられて、場合によっては、カバンを全て開封される。出退勤の時間帯は長い列ができ、普段より15分早く家を出ないと間に合わなくなる。

また一部の店舗などが閉鎖されたことも市民生活に影響した。このブログでも取り上げたが、ある地下鉄駅のショッピングモールは全ての店が9月末まで閉鎖となり、構内は昼間でも真っ暗。五輪期間中の外の華やかさとは裏腹に、火の消えたような様子が続いている。また、これまで地方から果物や野菜をトラックに乗せて売りにくる人や路上で新聞を売る人などが多くいたのだが、五輪を前に、それらの人々が一層され、町は「きれいに」なった。だが、買い物が不便になったのはいうまでもない。

その件に関連するが、7月20日から北京市内には、地方からのトラック乗り入れが厳しく制限されるようになった。これによって生活の糧を奪われた人もいる。

北京郊外にある果物の一大産地、大興区のある農民、劉さんは毎日、トラックに乗せて、スイカや桃を市内の市場で販売していた。ところが、この制限により、市内に入れなくなり、やむなく劉さんは、自転車で毎日10キロ走り、少し離れた小さな町に持ち込んで、販売を続け、生活の糧を稼いでいる。だが60過ぎの劉さんにとって、毎日往復20キロの自転車“通勤”は過酷だ。「それも限界」と語る劉さん。畑にいくと、地面に落ちて腐った梨と桃が数多くある。「これも一時のこと。やむをえない」と苦笑いする劉さんだが、制限だけが飛び出してきて、生活の保障が一切されないのでは、たまったものではない。

またホワイトカラー層にも影響が出ている。ある市場調査会社に務めるOL、郭さんは「7月、8月は全く仕事にならなかった」と嘆く。同社では、商品やサービスについて、街頭でのアンケートや消費者への直接聞き取りなどを行って、報告書をまとめ、顧客に販売する仕事をしているのだが、これらの「市場調査」が一切禁止されたという。街頭アンケートはともかく、その他の調査も全て禁止というのは、理由が分かりにくいが、いずれにしても、“商品”がなければ、売りようがない。「オリンピック中は暇だったから、競技をたっぷり楽しめたわ」と皮肉交じりに語る郭さんだが、中国では給料は安い固定給に、仕事の歩合制という仕組みがほとんど。仕事がなければ、収入も減るわけだから、暇は決してうれしいことではない。

また市内の引越し作業など、運送を伴うことをやりにくいのも面倒だ。ある日系運送会社の日本人総経理に聞くと、6月はじめに、各社の責任者が当局に呼ばれ、7月から9月は引越しなどを引き受けないよう、通達を受けたそうだ。排気ガス汚染を防ぐために、大型トラックの移動が禁止されたことと、そもそも地方出身の労働者が地元に返されたため、働き手がいなくなったという物理的要因もある。これによって、各日本企業なども、転任・赴任のタイミングをずらすなど対応に追われた。実際には、制限のない夜間に引越しするなど、それなりに方法はあるのだが、いずれにしても、面倒であることは間違いない。

北京五輪がもたらす様々な不便は挙げだしたらキリがない。自家用車の通行制限やオリンピック専用道路の設置なども、市民の移動には不便がある。

元々、降って沸いたようにお上の制限事項が突然やってくるお国柄ではあるが、いつもなら、「上に政策あれば、下に対策あり」で、色々とやり繰りして、切り抜けていくのが庶民のやり方なのだが、今回ばかりは「オリンピックのため」という大きな目標のために、忍耐強く我慢している市民が多いようだ。

華やかなオリンピックの影には、その町に住む人々の多大な犠牲があることを知っておいてほしい。

<注:この文章は筆者の承諾を得て個人ブログから転載したものです>

■筆者プロフィール:朝倉浩之

奈良県出身。同志社大学卒業後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中国国際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。

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