旧日本軍の“死の鉄道”建設、「贖罪と和解」に賭けた日本人がいた!=英豪捕虜・アジア人強制労務者ら数万人を慰霊―映画『クワイ河に虹をかけた男』

八牧浩行    2016年8月15日(月) 14時10分

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太平洋戦争時に旧日本軍が建設し、「死の鉄道」と呼ばれた泰緬(たいめん)鉄道。映画『クワイ河に虹をかけた男』は、その贖罪と和解に尽力した元陸軍通訳、永瀬隆さんの半生を追ったドキュメンタリーである。写真はクワイ河鉄橋にかかった虹。

太平洋戦争時に旧日本軍が建設し、「死の鉄道」と呼ばれた泰緬(たいめん)鉄道。映画『クワイ河に虹をかけた男』は、その贖罪と和解に尽力した元陸軍通訳、永瀬隆さんの半生を追ったドキュメンタリーである。

太平洋戦争の最中の1942年7月、旧日本軍はタイとビルマ(現ミャンマー)を結ぶ泰緬鉄道の建設に着手した。ビルマ・インド方面への陸上補給露を確保するのが目的である。建設工事には、英国・豪州、オランダなどの連合国捕虜6万人と25万人以上の現地アジア人労務者を動員。20世紀初頭に英国が「10年はかかる」として断念した415キロの難ルートをわずか1年3カ月あまりで完成させた。

しかし、食糧、薬品不足の中の長時間労働に加え、コレラ、赤痢などの伝染病が蔓延。捕虜約1万3000人、アジア各地から集められた労務者数万人が犠牲になった。

永瀬さんは陸軍通訳として、タイ側の鉄道建設の拠点カンチャナブリ憲兵分隊に勤務。

多くの捕虜やアジア人が動員された建設工事の現場で、強制労働、拷問、伝染病死といった悲惨な現実を目の当たりにした。

永瀬さんは戦後、故郷の岡山県に戻り、英語塾を開設する。直接手を下すことはなかったもの、通訳として立ち会った戦争捕虜への拷問など戦争体験のトラウマと悪夢から逃れることはできなかった。戦後間もなく連合軍が派遣した墓地捜索隊に同行。悲劇の全容を目の当りにし、この経験が永瀬さんを鉄道建設の犠牲者の慰霊に駆り立てた。

一般の日本人に海外渡航が解禁された1964年以来、妻の佳子さんと二人三脚で巡礼を開始し、タイ訪問は生涯でなんと135回。1976年にはクワイ河鉄橋で元英軍捕虜と旧日本軍関係者の和解の再開事業を成功させ、英豪など旧連合国でも、その名を知られる存在となった。

永瀬さんのもう一つの活動の柱はタイへの恩返し。終戦後、タイ政府は復員する12万人の日本軍将兵全員に飯ごう1杯の米と中蓋1杯の砂糖を支給してくれた。連合軍側に内密にされた恩義に報いるため、1965年から自宅にタイ人留学生を受け入れ、1986年にはクワイ河平和基金を設立。学生に奨学金を送り続けた。永瀬夫妻を「お父さん・お母さん」と慕う留学生や奨学生との歓びの出会いと涙の別れも感動的だ。

この作品では、1994年2月の永瀬さん82回目のタイ巡礼から、その活動を丹念に追う。

永瀬さんが元捕虜や元アジア人労務者、タイの元留学生や奨学生と築いた絆。135回にわたるタイ訪問により、元捕虜との和解事業や平和基金の創設などを積み重ねた。2011年に93歳で亡くなるまで、真の和解を目指し続けた永瀬隆さんの姿が描かれる。岡山の自宅や入院先の病院にもカメラが入り込み、永瀬夫妻のつぶやきや思いも克明に追う。

映画の終盤、永瀬さんが最後と決めて臨んだ旅で、クワイ河に虹がかかった。永瀬さんの頭上に輝いた美しい虹。「こんなのは初めてじゃ」と子どものようにはしゃぐ場面は感動的だ。この時の実話がタイトルとなった。

監督の満田康弘氏(瀬戸内海放送ディレクター)はこの光景について、「60年以上に及ぶ償いの旅を続けてきた永瀬さんに仏様がプレゼントしてくれたようだった」と述懐。「永瀬さんは『人生は虚無。目標に向かって虹を架けるのが人生だ』と語っていた。なぜ、あれほど虹に喜んだのか。ようやく意味が分かったような気がする。あの虹は人生そのものだった」と吐露している。(八牧浩行

<本作品は8月27日から9月16日まで、「ポレポレ東中野」(JR東中野駅西口1分)で公開予定>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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