八牧浩行 2016年7月1日(金) 4時10分
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昨年11月のパリ同時多発テロで妻を失ったフランス人、アントワーヌ・レリスさん(写真中央)が著書『ぼくは君たちを憎まないことにした』の日本語版出版を機に記者会見した。著者はフェイスブック上にテロリストに宛てた手紙を公開。「憎しみを与えない」と宣言した。
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2015年11月13日のパリ同時多発テロで妻を失ったフランス人ジャーナリスト、アントワーヌ・レリスさんが著書『ぼくは君たちを憎まないことにした』の日本語版出版を機に日本記者クラブで会見した。
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パリ・バタクラン劇場での同テロ事件は、130人以上が犠牲になる大惨劇となり、レリスさんの妻エレーヌさんは帰らぬ人となった。恐怖と憎悪の言葉が飛び交う中、事件の3日後に著者はフェイスブック上にテロリストに宛てた手紙を公開。最愛の人を奪った彼らに、「自分の憎しみも17か月になる息子メルヴィルの憎しみも与えない」と宣言した。そのメッセージは世界を駆け巡り、3日間で20万回以上も共有された。
妻の突然の死に悲嘆しながらも幼い息子と共に生きる希望を綴った同書は、胸を揺さぶる魂の記録である。事件から約2週間の出来事。妻が事件に巻き込まれたことを知った時から始まり、行方を捜し回った末、亡骸と対面する。絶望的な喪失感と悲しみの中で、妻エレーヌさんへの思いが抒情詩のように綴られ、回想と現実の間を漂う。「小さな手で絵本をめくり、風呂の中で魚のように泳ぐ」息子メルヴェル君はレリスさんにとって、大きな「希望」。大好きなママがいなくなったときのことを息子にどう伝えるべきだろうかと悩む父親に感情移入した。
レリスさんはこの日の記者会見で、世界中でテロなど「恐怖」が拡大していることについて、「恐怖を乗り越えられるとは思っていません。恐怖に抵抗するために私たちが強いふりをする必要はどこにもありません。こうした恐怖に対して抵抗できる力を自分たちが持っていることを仲間の皆さんに、しっかり分かってほしい」と訴えた。さらに、「悲劇はあくまでも一つの舞台装置にすぎません。大事なものを失っていない人たちとの絆を強くすることによって、(テロリストらに)抵抗していくことができます」と力を込めた。
「息子さんがテロの犯人を憎いと思った時どうしますか?」との質問に対しても、「自由な気持ちを持ち、彼自身が強くなれるような方法を伝授したい」と答え、「批評家の精神や客観性を持つことが大事です」と強調。その上で、「その後に彼自身が自分の道を自由に決めて行くことができる。自分の道を切り開いていってほしい」と望んだ。
記者会見に同席した同書の翻訳者・土居佳代子さんは「不幸な出来事が続き、世界が不信と暴力に傾いていこうとする時に、この本に込められた勇気は、私たちの胸に灯を灯してくれる」と語っている。(八牧浩行)
<アントワーヌ・レリス著『ぼくは君たちを憎まないことにした』(ポプラ社刊、1200円税別)>
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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