<EU離脱巡る英国民投票>“トランプ現象”に通じる「離脱論」、結局は現実直視で「残留派」勝利か―元駐英大使が大胆予想

八牧浩行    2016年6月12日(日) 8時40分

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駐英大使を務めた野上義二国際問題研究所理事長が、23日の欧州連合(EU)離脱の是非を問う英国民投票(23日)を前に、日本記者クラブで講演。英国のEU離脱論の現状と見通しについて見解を述べた。

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2016年6月10日、駐英大使を務めた野上義二国際問題研究所理事長が、23日の欧州連合(EU)離脱の是非を問う英国民投票(23日)を前に、日本記者クラブで講演。英国のEU離脱論の現状と見通しについて見解を述べた。離脱派は「偉大な英国を取り戻す」とのスローガンを掲げ、米国の“トランプ現象”と同様勢いがある、としながらも、「英国世論は経済的な現実を直視する傾向もあり、結局は残留を選択する」と予測した。発言要旨は次の通り。

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英国は、大陸に比べ経済成長率が高いので移民や難民が多い。離脱論は米国の共和党大統領候補が旋風を起こしている「トランプ現象」と共通だ。「国境を取り戻せ」というスローガンの下、「メイク・ブリテン・グレート・アゲイン(再び偉大な英国を)」が叫ばれている。多くの英国人にとって、トランプ氏がヤリ玉に挙げるイスラム諸国やメキシコに相当するのが「欧州大陸諸国」だ。

EU残留を望むのはイングランドのロンドン周辺や南部の所得の高い人たち。スコットランドも圧倒的に残留だ。一方、イングランド北部地域の所得の低い人たちの多くは離脱を支持。世代間による差異も大きく、英国の欧州共同体(EEC)加盟前に生まれた60歳以上の中高年齢層は離脱、18歳〜35歳の若年層は残留を志向している。

政党別に見ると、保守党支持層は51対37で離脱が優勢。労働党支持層は逆に30対59で残留志向が圧倒的に強い。読んでいる新聞は、離脱派がガーディアンやザ・タイムズなど高級紙、離脱派はデイリー・ミラー、サンなどの大衆紙と明確に分かれている。

大卒で専門職に就いている層は残留、高校卒までの低所得者は離脱というように、はっきり賛否の傾向が類型化され、英国が抱えている社会問題が露呈した格好だ。

キャメロン首相をはじめ政府は、離脱すれば(1)52%がEU向けである英国輸出が減少する、(2)金融街シティーの取引に影響を与える―などの経済的な不利益が生じると主張。国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)など国際機関の見解やオバマ米大統領の残留希望発言まで使って説得工作を行っているが、大衆新聞を読んでいる離脱派は意に介さない。国民に人気のあるジョンソン・ロンドン前市長が離脱を支持していることも大きな影響を与える。

離脱派はグローバルスタンダードを否定する反グローバル化を訴える層。経済状態が比較的良好で福祉制度が完備している英国への移民・難民は多く、昨年33万人に達した。大半がEUからで、域外からの移民・難民が多いドイツとは異なる。英国以外で生まれた英国在住者は850万人に達する。EUに残留すると、移民の増加で将来国民皆保険制度が崩壊すると主張している。

離脱派はEUから離れ経済的な不利が生じても、貿易量の多い中国や日本と自由貿易協定を結べばいいと主張している。日本企業の多くは英国に工場や事業所を持ち、巨額を投資している。

英国が離脱した場合、オランダデンマークスウェーデン、フランスなどにある離脱ムードを煽るのは必至だ。

事前の世論調査は拮抗しており、投票結果を予測するのは難しいが、英国世論は経済的な現実を直視する傾向もあり、結局は「残留」を選択するのではないか。スコットランド分離をめぐる住民投票でも、残留という現実的な結果となった。ただ僅差だった場合、引き続きEU離脱問題が燻り、不安定な政局が続くことになろう。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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