在日米軍基地、日本を守るためではなく「対中戦略」で必要だから=米軍は東・南シナ海で自衛隊と共同行動せず―早大特任教授が米機密文書を解読

八牧浩行    2016年4月21日(木) 8時10分

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春名幹男早稲田大客委員教授が講演。米対中戦略は「関与」と「封じ込め」の両様であると指摘。米国が在日米軍基地を維持するのは、米国が日本を守るためではなく、対中戦略上重要だと考えているからだ、との認識を示した。

日米外交史に詳しい春名幹男早稲田大客委員教授が「大統領選と日米同盟」をテーマに日本記者クラブで講演。米対中戦略は「関与」と「封じ込め」の両様であると指摘。米国が在日米軍基地を維持するのは、米国が日本を守るためではなく、対中戦略上重要だと考えているからだ、との認識を示した。その上で、東シナ海でも南シナ海でも米軍が日本と一緒に行動することはない、と明言した。

また、昨年改定された「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の日本語訳には、多くの作為的な誤訳あると指摘。米軍が日本を守るという点で後退しているのに、日本語訳がこの重大事実を隠しているのは「防衛政策を推進する上で大きな問題がある」と政府を厳しく批判した。

春名氏は元共同通信ワシントン支局長で、近著に『仮面の日米同盟―米外交機密文書が開かす真実』がある。発言要旨は次の通り。

米国の対中戦略によって、米国の日本への対応が変わってくる。中国は外交が上手なこともあり、米対中戦略は「関与」と「封じ込め」の両様であり、対旧ソ連と違って封じ込め一辺倒ではない。

米国が在日米軍基地を維持するのは、米国が日本を守ってくれることではなく、あくまでも米国の国益によるもの。自らの戦略によって在日米軍基地が重要だと考えているから、撤退する考えはない。撤退すれば中国ににらみが利かなくなると考えている。日本は米国の意図を読んだ上で対応しないと、永遠にバカみたいな扱いを受ける。

自衛隊と米軍の役割分担を定めた日米ガイドラインは改訂を重ねて、今は3版目だが、明らかに日本を守るという点で後退している。

最初の1978年ガイドラインには「日本は小規模な侵略を独力で排除する。独力で排除することが困難な場合には、米国の協力を待って、これを排除する」とあり、「陸上自衛隊および米陸上部隊は陸上作戦を共同して実施する」と明確に記されている。ところが、97年の第2版では「日本は日本に対する武力攻撃に即応して主体的に行動し、極力早期にこれを排除する。その際、米国は日本に対して適切に協力する」という文言に変わっている。

最新の2015年版は「米国は日本と緊密に調整し、適切な支援を行う。米軍は自衛隊を支援しおよび補完する」と書かれている。すなわち97年以降、米軍の任務は支援し、補完するだけで、主体的に防衛するのは自衛隊となったのに、正確に日本国民に伝えられていない。

◆目に余る作為的な誤訳

 

外交文書によると、「適切かどうか」は米軍が決め、血を流すとは限らない。しかも、英語の原文に当たって驚いた。ガイドラインは英語で交渉し、英語で文章を作る。それを官僚が翻訳するが、その際、作為的に米軍が日本の防衛に積極的に関与するかのような翻訳をしている。

 

例えば「主体的」ですが、英文にはprimary responsibilityある。「主な責任」という意味で、主体的とはニュアンスが違う。「支援し補完する」も英文はsupplementで補足する、追加するという意味である。補完するであれば、complementが相応しく、78年版ではcomplement が使われていた。さらに15年版には「米軍は自衛隊を支援し、補完するため、打撃力の使用を伴う作戦を実施することができる」という日本語があった。「できる」というからにはcanだと思ったら原文はmayで、「してもよい」「するかもしれない」という意味。共同作戦も通常はjoint operationが、原文はbilateral operation。「2 国の作戦」という意味で、これを共同と訳すには無理がある。

米軍の自衛隊支援の度合いは明らかに後退しているのに、日本語訳はこれを隠しているのは、防衛政策を推進する上で問題である。 

私は長年の取材、研究を通じて、日米安保条約の真相を伝える機密文書を発見した。1971年、アレクシス・ジョンソン国務次官が一時的に長官代行としてニクソン大統領に提出したメモ。そこには「在日米軍は日本本土を防衛するために日本に駐留しているわけではなく、韓国、台湾、および東南アジアの戦略的防衛のために駐留している。在日および在沖縄米軍基地はほとんどすべてが米軍の兵站(へいたん)の目的のためにあり、戦略的な広い意味においてのみ、日本防衛に努める」とある。

米国は、尖閣について施政権は日本にあるとしながらも領有権についてはいずれの立場も取らないと明言している。パネッタ国防長官(2012年の「国有化」を巡る日中緊迫化当時)は「漁業とか岩(尖閣)を巡って米国が紛争に巻き込まれることを許すわけにはいかない」と言っており、オバマ大統領も15年4月の来日時の記者会見で「尖閣諸島の最終的な主権の決定について米国は一定の立場を取っていない」と明言した。「安保条約5条の適用対象」との米高官の発言を基にメディアもあたかも米軍が尖閣を守るかのような報道をするが実態は違う。

 

南シナ海で中国の海洋進出に対抗する米国「航行の自由作戦」は形だけで腰が引けている。同作戦への支持を安倍首相が15年11月の日米首脳会談で表明したが、オバマ大統領の反応はなかった。その後、菅官房長官は米国からの協力要請はないと表明。東シナ海でも南シナ海でも米軍が日本と一緒に行動することはない。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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