日本で子ども虐待死相次ぐ、年間100人超が犠牲=防止へ「タテ割り行政是正」など抜本策要求―子ども虐待・性犯罪をなくす会

八牧浩行    2016年1月17日(日) 7時30分

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子どもへの虐待による悲劇が後を絶たない。毎年100人以上の幼い子どもが虐待死させられており、居所不明の児童は約2900人に上る。写真は遊ぶ子供がいない滑り台。

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子どもへの虐待による悲劇が後を絶たない。毎年100人以上の幼い子どもが虐待死させられており、居所不明の児童は約2900人に上る。

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今年の新年早々、埼玉県狭山市で3歳の女児が、母親と同居男性からやけどを負わされ、殺害されるという痛ましい事件が起きた。この虐待事件では、昨年6月、7月と2回にわたり、住民から「子どもの泣き声が30分以上する」「外に出されている」などの110番通報を受け、警察官が家庭に行ったが傷はなく、虐待は確認できなかったとして、児童相談所に通告しなかった。その後家庭訪問し、安否を確認することもなく、また、狭山市は乳幼児健診を受けていなかったため、2013年4月から2015年7月にかけ職員が3回も訪問していたが、虐待の兆候はなかったとし、何らの対応も取らなかったという。

「虐待死ゼロ」を目指して児童虐待防止法などの法改正を求める運動を展開しているNPO法人「シンクキッズ―子ども虐待・性犯罪をなくす会」の後藤啓二・代表理事は次のように指摘する。

 「乳幼児健診未受診は虐待が懸念される重要なサインですし、近隣住民からの2度の通報も同様です。しかも、外に出されている、30分以上泣いている、というのは尋常ではなく、傷が見当たらなかったとしてもネグレクト(育児放棄)が強く懸念される事案です。狭山市の『虐待を疑うサインはなかった』とのコメントも、乳幼児健診未受診が虐待リスクであることが念頭にないものです」。

 

◆「子ども虐待ゼロ」実現へ連携  

後藤啓二さんは、弁護士で元警察庁企画官。ストーカー規制法、児童ポルノ禁止法などの立案・制定など携わった。子ども虐待死事件の実態について「児童相談所、警察、市町村が、虐待・乳幼児健診未受診・所在不明などを認知しながら、虐待家庭の情報を共有していない。連携して子どもの安否確認や親への支援を行わず、みすみす虐待死に至るケースが多い」と指摘。行政の「タテ割り」がネックとなっているという。

後藤さんによると、児童相談所は人員・体制の不備から24時間対応ができないことに加え、虐待事案への介入と児童援助という、相反する任務を担っているため、案件を抱え込み適正に対応できないのが実情。一方、体制が整い能力が備わっている警察には責務規定がなく、児童相談所に対応を丸投げしている。また全国データベースがないため、問題のある家庭が転居した場合、対応が不可能になってしまう。虐待には至らないもののリスクのある妊産婦のケースでの医師の通報規定がないことも問題という。

そこでシンクキッズが目指しているのが関連法の改正。具体的には(1)児童相談所、市町村、警察が連携して被虐待児を保護できるようにする、(2)市町村、児童相談所と警察が連携して所在不明児童を発見し、保護することができるようにする、(3)児童相談所が一時保護を子どもの命を最優先として行うようにする、(4)妊娠中・出産直後から子育て支援が必要と思われる妊産婦等を支援する、(5)虐待を受けた子どもが精神的な治療を受けることができるようにする―など。

この活動に日本医師会、日本産婦人科医会、日本小児科学会や経済界、法曹界、スポーツ界などが賛同、輪が広がっている。関連法の改正に向けて政府・行政に対する署名運動を全国的に行っている。「縦割り行政を解消して、機動的に対応できるようにすることが重要」と強調する。

◆虐待を受けた子どもたちへ支援が必要

さらに、後藤さんが取り組んでいるのは虐待を受けた子どもたちへの支援。「虐待死させられる子どもをなくすことが目標だが、虐待された子どもが前向きに人生を歩めるよう支援することも大事だ。児童養護施設に収容された子どもは親がいないということで、勉学や就職などで不利になるケースも多く、これらの面でのサポートが不可欠」と力説する。結果として、虐待による社会的コストは年間1兆6千億円に達するとの研究もあるという。

虐待を受けた子どもたちに「心の傷」に対するケアが必要との認識から、シンクキッズは被害を受けた子どもたちが長い人生を前向きに生きていけるような取り組みも実施。虐待を受け治療・精神的ケアが必要と考えられる子どもについて、児童相談所、病院、学校などがシンクキッズに連絡。シンクキッズが専門的な知識・経験を有する医師・臨床心理士を紹介し、治療等に関する経費を負担する、というものだ。特に企業には職業訓練と就職支援の両面から熱いサポートをお願いしたいとしている。

また、後藤さんは「虐待を受けた子どもたちにとって理想なのは、“親の愛情”であり、もっと拡充すべきは里親制度や養子縁組制度」と提案する。欧米先進国と比べ日本では制度が不備で養子縁組は活発化していない。「この面でも法整備などを求めていきたい。子どもたちを大切にすることは少子化対策としても有用」と広く呼び掛けている。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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