八牧浩行 2015年1月3日(土) 5時22分
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14年11月、APEC開催に合わせ、アジアインフラ投資銀行が15年中に創設されることが決まった。新興6カ国によるBRICS銀行設立と併せ、日本や米国が「既存の国際金融秩序への挑戦」と警戒する中、中国がアジア盟主の座を確立する戦略の一環と言える。資料写真。
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世界中で中国が展開しているしたたかな経済外交を侮ることはできない。2014年11月、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の北京開催に合わせ、アジア各国を巻き込む形で、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が15年中に創設されることが決まった。新興6カ国によるBRICS銀行設立と併せ、日本や米国が「既存の国際金融秩序への挑戦」と警戒する中、中国がアジアの盟主としての座を確立する戦略の一環と言っても過言ではない。
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◆「中国は日本に圧勝」と報じたわけ?
中国に対抗しようとする考えが根強い日本にとっては不愉快な話なのであまり報じられていないが、11月16日、14年の20カ国・地域(G20)首脳会議の終了後、16年のG20議長国に中国が決まったことが発表されると、中国国内のメディアは「中国は日本に圧勝した」と大きく報道した。日本も議長国に名乗りを上げていたが、結果はG20メンバーの大半が中国を支持してしまったのである。
安倍政権の「中国包囲網づくりが奏功し東南アジア諸国や豪州などがサポートしてくれる」と期待した政権幹部の落胆は大きかった。貿易投資面で中国に依存するアジアの大半の国は、自国の利益を最優先し、対中外交を推進する。勢いアジア太平洋地域の政治経済力学は経済規模が拡大する中国に大きく傾きつつあるのは否めない。
こうした中、中国がアジアのインフラ整備に乗り出す。14年11月、北京でのAPECで、中国政府は「一帯一路」構想をぶち上げた。「一帯一路」は、インフラ整備で海と陸の両方のシルクロードと経済圏を構築するという構想である(本コラム「<追求!膨張中国(3)>海と陸の『シルクロード経済圏』への野望―中国が描く新アジア地図はすべての道が北京に通じる!?」参照)。中国は、西に延びる「海と陸の新シルクロード」を提唱し、関係各国と道路、鉄道、港湾の整備を進めている。20を超える国と地域をこの計画に巻き込もうとしており、既に個別に交渉を進めている。
急成長するアジアでは、経済成長を支えるために、毎年少なくとも7500億ドル(約95兆円)に上るインフラ投資が必要とされている。このニーズを狙って、中国が主導したのがアジアインフラ投資銀行(AIIB)だ。上海に本部を置き資本金は1000億ドル(約12兆円)。出資比率はGDP(国内総生産)に基づいて決まるため、参加国中最大の経済大国、中国が半分以上の出資比率を確保、大きな発言権を握ることになる。総裁に中国の金立群・AIIB設立準備委員長が就任する見通しだ。
この投資銀行には、東南アジア10カ国、インドをはじめ23カ国の参加が既に決まっている。南シナ海で中国と対立するフィリピン、ベトナムも加わっている。アジア専門家によると、深刻なインフラ資金不足にあえぐアジア諸国にとって、立ち遅れたインフラ整備を支援するという、中国の提案を拒否する理由は見当たらないという。
役割が似た国際機関としては、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)がある。それぞれ米国と日本の発言力が強く、歴代総裁ポストは世銀が米国人、ADBは日本人が就任する。こうした現状に不満を抱くブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国(BRICS)は14年7月、「BRICS開発銀行」の設立でも合意に至った。
AIIB、BRICS開銀に加えて、習近平国家主席は14年11月、400億ドル(約4兆8000億円)を拠出して、シルクロード沿いの各国のインフラ整備などを支援する基金創設を表明した。
◆中国の世界戦略に組み込まれる?
一方、AIIBには日本と米国にも参加要請があったが、両国はAIIBが既存のアジア開発銀行(ADB)と業務が重複し、組織運営も不透明だと指摘して警戒している。オーストラリアと韓国は米国に配慮し、とりあえず参加を見送った。とはいえ、「AIIB構想が具体化するにつれ、新たな対応を迫られているのは日米の側」(日本の有力大教授)との指摘もある。欧州でもアジアのインフラ整備を商機とみてAIIBに関心を示す国があるという。豪州は経済閣僚が参加への意欲を示し、韓国にも参加論がくすぶる。
日本のある外交関係者は「米国は豪州や韓国のAIIB参加を黙認し、米国自身も日本の頭越しに中国と手を結ぶのではないか」と危惧する。中国など新興国が発言権の増大(出資分担金増)を求めるIMF改革は米議会が承認せず実現していない。米国は「中国が責任あるステークホルダーとなり、国際社会にさらに多くの公共財を提供することを望む」と表明。日本にとって気になる発言と言える。
もっとも、AIIBが中国の国益を優先する「世界戦略の先兵」となる懸念は拭えない。AIIBは理事会を常設せず、総裁以下の事務方に大きな権限を与える方向で、総裁の権限が大きく、チェックが効きにくい。中国主導の構想にあえて関与し、「内側から日本の立場を反映すべきだ」との意見もある。今年、世界と日本は大きな岐路に立っていると言えそうだ。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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